八雲学園 優れたアクティブラーニング

文部科学省は、2020年大学入試改革構想において、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」で「総合型」の入試や「合教科型」の教科横断型の新テストについて議論しています。また、2020年度にも小中高校で順にスタートする新学習指導要領について、22年度をめどに高校に必修の「公共」「歴史総合」(いずれも仮称)などの新科目を設ける案まで公表しています。

しかしながら、八雲学園の中3の「現代社会」のアクティブラーニングでは、もっと先進的な複眼的で総合的な世界を読み解き、世界を創る授業が展開していました。まるで。文科省の改革の行きつく先が、すでにここにあるかのようなシーンを目の当たりにして驚愕し感動したのでした。by 本間勇人 私立学校研究家

中3の現代社会の授業は、3つの構成でできていました。1つは、生徒1人ひとりの経済感覚をオープンにする。2つめは、その経済感覚が、市場の原理とどうつながっているのか、実際の時事問題とどうつながっているのか「公共的」な視野を広げる。3つめは、生徒1人ひとりの社会に関する感性が国の政治経済政策とどう関係するのか。

個人、社会、国家という3つの領域を総合的にとらえ、矛盾を発見し、それを解決する道をさぐるプログラムになっているのが明快に了解できる1時間の授業でした。

そして、この3つの領域の関係を臨場感をもって考える創意工夫が、授業の中に時事問題と株式学習ゲームを授業に埋め込むことで果たされていました。社会科というと、どうしても個別の知識を記憶し、テキストの文脈にそってその知識を応用できるところまでいけばよいというイメージでしたが、八雲学園の社会科の授業は全く違いました。

常に、いまここで生徒1人ひとりが感じていることが社会に国家に世界にどう結び付いているのかという実感を抱けるようになっていたのです。

授業は時事問題をどうとらえるかから始まりました。遠く南の島のニュースや世界の軍事力の話題は、自分たちのいまここでの感覚には直接関係ないのではないかという先入観の共有から始まるのです。

しかしながら、生徒の方は、そのような頭のフェイントが仕掛けられていることは了解済みですから、経済にどう影響するのか、自分たちの生活にどう結び付いてくるのか、早くもアクティブブレインの状態になっていました。

日経平均の推移表をみて、その上下が時事問題の影響を受けていることもすぐに理解します。しかし、なぜそれほどの影響なのか、それはそんな表面的な推移の上下と時事問題を結び付けて終わりではないということも理解している生徒の真剣な眼差しに、日本の未来を創る姿が見えました。

担当の近藤嘉彦先生によると、夏休みの間に、自分の投資したい企業のリサーチレポートを書く課題を出すそうです。その企業のリサーチは、資本金や従業員の数、商品開発などの基本情報だけではなく、企業理念、マーケティング戦略・戦術まで深堀してくるレポートがたくさんあるということです。そのリサーチの過程で、生徒は、企業と社会、市場の関係を深く理解していきます。

そのうえで、株式学習ゲームの時間に移行します。チームに分かれて、興味のある企業の株を買ったり売ったりしながら、手持ちのお金と資産の関係をプランニングしていくゲームです。チームの1人ひとりの経済のセンスデータは多様でした。

たとえば、ハロウィンやクリスマス、バレンタインデーなど季節ごとのイベントとチョコレートに対する消費者の反応を結び付けたり、ノーベル賞やロボットなどイノベーションのニュースにアンテナを張っていたり、EUと移民の背景にある紛争の関係を考えたり、テレビのCMにどんなタレントが出ていたかなどディスカッションは盛り上がります。

しかしながら、ケインズがかつて言ったように、株の投資は、どうしても人気投票になりがちで、テクニカルに走る傾向にあります。それでは個人の欲望は満たせても、社会や国家のデフレ問題や格差問題などを解決できません。そこで近藤先生は、ファンダメンタルなパースペクティブが必要になるのだと。

実は株式学習ゲームで、市場の光ばかりだけではなく、影も体験します。投資に失敗して資産が破たんするリスクがあるからです。個人の希望も社会や国家の夢もかなえるには、どうしても社会システムというファンダメンタルな領域を学ぶ必要があります。その基本は歴史に学ぶことです。

近藤先生は、「現代社会で経済を取り扱ったとしても、結局世界恐慌からリーマンショックにいたるような金融の歴史やその都度行われてきた経済や財政の政府の介入政策の歴史について学ぶ必要がでてきます。株式学習ゲームのようなディスカッションやシミュレーションとともにやはり知識の論理を講義することも授業では行っているのです」と語ります。

高校部長で同じく社会科教諭でもある菅原久平先生も、「生徒1人ひとりの生活は、当然社会との関係で成立しています。個別の知識は憶えなければなりませんが、それだけでは、個人と社会の関係に矛盾が生じた時に、どこに問題があるかクリティカルチェックができません。どうしても知識は因果関係などの背景と結び付けなければならいわけです。そうなると、世界史の授業であっても現代社会の授業であっても、歴史も政治も経済も地理も総合的に捉えられるような授業になるのは当然です。」と生徒が未来に生きていくのに必要な学び方、思考力を育成するのが目標で、知識を憶えさせることが目的でないことは、文科省が語るまでもなく、教育者なら当たり前の感覚であると静かに語ってくれました。

この株式学習ゲームの成果やリサーチペーパーは、最終的にはプレゼンテーションされます。

八雲学園の各教科の授業では、社会科と同様のアクティブラーニングが展開しています。極めて重要なことは、それが授業の中で閉じられているわけではないということです。たとえば、英語科で、行事としてのスピーチコンテストのエッセイを作成する際、授業でディスカッションを通して作成していきます。中学の思春期の頃に「自分」とは何かを英語で考え、自分の「世界観」を広げ深める貴重な体験です。授業と行事がつながっているのです。

理科も夏休みの自由研究のテーマを決めたり仮説検証過程については、同じように授業の中でディスカッションを通して発想を生み出していきます。そして全員が授業の中でプレゼンテーションしていきます。優秀な作品は文化祭でも披露されます。

国語では、百人一首などがアクティブラーニング型授業であると同時にイベントにもつながっています。日本人の源流の世界を授業で調べ、イベントで発表し、実際に百人一首大会も大いに楽しむという学びです。

このように八雲学園では、生徒1人ひとりの感覚を大切にしながら、授業と行事を結び付け、「世界観」にまで深堀していく優れたアクティブラーニングを繰り広げているのです。

 

 

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