実際の入試問題に3つの求める能力が埋め込まれている。
板垣先生:今春の実際の「新傾向問題」に、私たちが求める3つの能力がどのように埋め込まれているのか説明しましょう。ⅰとⅱは同じ構造の問題です。2人の登場人物の性格を考える問題です。その際、まず文章という与えられたものから登場人物の言動を探します。これが「必要なデータや情報」を探す「マッピングする能力」です。
次にその言動に基づいて、登場人物の性格を考えます。言動を通して性格を考えるのですが、性格は本文中に直接書かれていないわけです。ですからここでは「情報編集力」を求めています。
大島先生:言動の様子やニュアンスと性格は、知識と言うより、やはり受験生がこれまで生活してきた体験から手繰りよせるものです。しかし、本文中にないからといって、なんでもよいというわけではないですよね。自由に発想してよいけれど、選択決定には系統的なものが見えないとということですね。
板垣先生:おっしゃる通りです。もちろん、ここでは既存の知識や体験を、与えられたデータに組み合わせて新しい情報を生み出す「情報編集力」を求めていますが、新しいといっても有効な情報である必要があります。物語の文脈と照らし合わせるという作業です。系統化と言うとより、「相対化」ですね。「自分の思い込みや恣意性」と「主観性」は全く違います。自分の創り出した考えをいったん「相対化」する能力は、「情報編集」するときにとても大切です。
大島先生:ということは「情報編集力」は「自分の思考の相対化」と置き換えることができるのだろうか。
板垣先生:「自分の思考の相対化」は、「情報編集力」のみならず「マッピング能力」でも必要です。もっとも際立つのは、ⅲを考える時です。ⅲの問題は、2人の登場人物の性格上、2人が出会ったらどのような役割を演じ合うのか、その展開を考えます。2人の関係を系統化します。そして納得のいく表現をします。「系統化能力&表現力」を求めています。
大島先生:私たちの求める3つの能力がきっちり収まっています。そしてこの3つの能力のうちの「系統化能力&表現力」は、最も自分の思考を相対化する「思考力」が必要だということも、今回の対談を通して、改めて了解できました。
板垣先生:そしてこの高い能力まで至ってはじめて「教科横断的」あるいは大学の段階で言えば「学際的」な思考が働くのだと思います。多様な情報をモザイクのように継ぎはぎして合わせていくことが決して「教科横断的」とか「学際的」ということを示しているわけではないのです。
大島先生:考えてみれば、思い付きや発想は、どんな生徒も持っている。地道に3つの能力を組み合わせて行ける資質とは、新しい情報を生み出すという点では共通しているように思えるが、似て非なるものであるということも再確認できた。「思考力」に対する本校独自の考え方が明瞭になったと思います。