PBL

聖学院 最高の授業(了)

聖学院のPBL型授業の特徴は多様な要素、多角的な切り口で語ることができますが、なんといいても「マインドセット」と「信頼」がキーコンセプトなのかもしれません。マインドセットとは、毎時間の授業で行うのです。よく自己肯定感が高いとか低いとか話題になりますが、それはほとんど内面の状況の話で、成績が高いから自己肯定感が高いとか、内向的だから自己肯定感が低いというコトはありません。

ほとんどが、人と人との関係が開かれるか閉じられるかで、自己肯定感の高い低いが決まっていると思います。したがって、自己肯定感の高い低いは、一期一会ではないですが、人と出会う瞬間瞬間にあがるかさがるか激しいのです。特に思春期の時にはそうでしょう。一日の学園生活のなかで、毎時間の授業で出会う教師や仲間とのやりとりで、一喜一憂するものです。

ですから、聖学院では、毎時間の授業で、教師は互いに心を開示できるマインドセットをしていきます。

数学の佐藤先生の授業はPIL型授業です。生徒と生徒の対話の機会を設け、そこで生徒がどこで躓くのか、どんな新たな発想で解決するのかを見守りながら、それを講義の中でシェアしていきます。生徒たちは、このPIという対話を大切にしています。「数学のおもしろさは、多様な視点の発見。対話すると、自分とは違う発想を知ることができて、毎時間驚くのがいいですよ」と語ってくれます。

ここに、マインドセットと信頼関係が在るコトが了解できます。信頼関係は、教師と生徒の信頼と生徒と生徒の信頼がクロスしています。

美術の伊藤先生は、教師であると同時にアーティストです。生徒が何か世界に向き合って、それが何か表現していく時間と空間を創ります。この時空は、物理的なリニアーな時間ではなく、豊かな円環的で内的な世界です。生徒1人ひとりの内面に、物理的な時間を超えた世界が広がっていきます。この時空を共有できるマインドセットと信頼関係は、日常生活では得難いものです。

内田先生は、思考力入試では、レゴを活用して思考過程を創造物に仕立てていくプログラムを紡ぎ出す中心人物です。技術の時間で、レゴマインドストームを活用してプログラミングをすることもあります。他校の先生方とのワークショップでスーパーバイザーとして活躍をするときもあります。

しかし、見学しに行ったときは、木の椅子を制作している最中でした。レゴを触りながら創造的思考を養うプログラム同様、マテリアルがレゴではなく木になっただけですが、自然そのものと触れ合っているそのシーンは、また格別です。

伊藤先生の美術の時間もそうでしたが、内田先生の授業も、木という素材から、自分の世界と自然の質感をスクランブルさせて、ものを創っていく過程は、自然と社会と精神の好循環を生み出す泉として、身体に湧き出るようになるのかもしれません。美術や技術におけるこの自然という素材を通して自分を開示していく体験は、他の授業では直接経験することはできないでしょう。

それにしても、今回のシリーズで掲載した写真を通して、どの先生方の眼差しにも共通した質感があるのが了解できるのではないでしょうか。この眼差しこそマインドセットと信頼を生む泉なのです。

この泉が、デカルトではないですが、目に見えないエーテルとなって生徒の心を満たすのではないでしょうか。先生方の眼差しとシンクロするように生徒の眼差しも輝いています。

生徒が、自分の世界に没入しているのも、先生方の柔らかい眼差しに包まれているからです。この没入を、学習理論では、フロー状態と言いますが、先生方は児浦先生が主宰する学びのデザイン勉強会で、きちんと研究しています。ですから、先生方が意識して、この柔らかい雰囲気をつくろうとしているのです。この先生方の一体感あってこその眼差しです。他の学校ではなかなかないというのが、日本の教育現場の課題ですが、聖学院はそこを一丸となって解決しているのです。

こうして写真を通して、生徒の様子をみていくと、毎時間、内的な世界を広げ、そこに向かって真剣にのめりこんでいるのがわかります。その向こうに世界が広がります。決して閉じられているのではありません。PBLというのは、自分と世界の接点を見出す授業のなのかもしれません。その接点は、生徒1人ひとり違います。まさにオンリ・ワン・フォー・アザーズです。これが、プロジェクトの真理であり、その真理が生徒の才能を自由にする聖学院のプロジェクト型授業(PIL×PBL)なのかもしれません。

聖学院 最高の授業(3)

日野田先生の高2の社会の授業。はじめは、PIL(生徒同士の対話を活用しながら講義をしていく)手法。たとえば、国民総生産に関連する知識の整理をしつつ、成長の概念など、ものの見方考え方の基準に関するものについては、PIL手法で展開していきます。
 
基礎知識は教えるが、ものの見方考え方の基準については対話という機会を設定。また、講義や対話のトリガーは、図、グラフ、写真・・・など多様なドキュメントやデータを活用。講義、問応法、PILのコンビネーションは巧みで、これだけで50分授業が成立しても構わないぐらいです。
 
 
しかしながら、日野田先生は、知識・理解の思考レベルで授業を終わらせません。だから、国民総生産、インフレ、デフレ、国の借金、通貨価値などの関係を、国レベルだけでなく、生活レベルに置き換えて考えていきます。この置き換えは、大人にとってはすぐに了解できますが、生徒にとっては、大転換視点となります。
 
この転換ストーリーがあって、グループワークに移行しますから、移行時の内面的な段差に、知的マインドセットがきちんと行われているということが生徒自身にもわかります。PBL型授業の醍醐味は、丁寧なマインドセトに実はあるのです。とかくグループワークは、おしゃべりになりがちだと他校の先生方から懸念されますが、Growth Mindsetがなされているからこそ、多角的に分析して、創造的解決の足がかりを探す議論が深まっていくのです。

 
そして、このようなグループワークで「家を買うべきか借りるべきか」という問いに対し、自分の立場が決まった段階で、あの有名なディベートがスタートします。見学した時、生徒たちは、インフレやデフレの見通し、政府の金利政策、土地問題、過疎化、管理組合問題、人口動態、災害リスクなど多様な経済的視点を闘わせていました。
 
そして、資産価値としての経済合理性と人間存在の価値論との相克や未来予測の視点は、結局生活レベルの話から、再び社会構造を見抜く俯瞰視点に結晶していくことになります。最終的には、自分の主張を論述としてまとめるところまでいきます。生徒の思考力の飛翔は、教師の思考の環境や土台作りがあれば、どんどん進化していくのだと実感しました。
 
この50分の授業の中で行われるディべーㇳは、いわゆるディベートではなく、多様な視点や多角的根拠を明快にし、しかもシェアするという思考の拡充が目的です。このようなエンリッチメント思考のスキルが搭載されることによって、生徒は、人生を生き抜くコンピテンシーを豊かにしていきます。このような生徒の成長に関しては、多くの卒業生を見送っている日野田先生にとっては授業の当然の帰結です。教育効果のエビデンスは、最終的には卒業生の人間力にあらわれるといっても過言ではありません。
 
 
井上先生の中2の英語の授業は、実におもしろい。はじめからグループに分かれ、リーディングも英会話もライティングも、グループで助け合ったり、ロールプレイをするのです。
 
オールイングリッシュで行っているから、4技能の英語がフルにいかされる授業になっています。しかも、ある英文スキットを読んだら、そのテキストのシチュエーションとは違う場を想定して、英文をつくり、スピーチする応用もしていきます。一般に、中2の段階だと、与えられた英文ででてくる英単語を覚え、訳読型のリーディングをするのでせいいっぱいという授業が多い中、時間を切ってグループで進んでいきますから、知識・理解で躓くことがありません。
 
その分、応用として自分たちで文章を考え、スピーチができます。聖学院から最寄りの駅に行くまでの長い道のりを、道を尋ねる外国の方に英語で教えるロールプレイは、英語で冗談も言いながら爆笑するシーンもありました。柔らかい思考と対話です。
 
テキストを別のシチュエーションに置き換えるという「応用」作業は、思考も交えながら学ぶことになります。したがって、英語のスキルにみならず、思考力・表現力が養われていきます。
 
 
また、テキストを読む行為を逆転させるゲームは、大いに盛り上がりました。写真を見せて、それを説明する英文を推理するゲーム。ラテラルシンキングという手法です。しかも、生徒の表現を使って、正しい表現に目の前で変えていく。生徒にとって、どのように考えていけばよいのか、自分なりの思考の軌跡に沿って進めることができるのです。多様な表現が可能で、試行錯誤ができる安心安全の信頼関係が井上先生と生徒との間にしっかりとあるのが伝わってきました。
 
それに、考えてばかりいると、身体がこわばってしまう。そこで、DJ英語。リズムにのって英文のシャドーイングを行う。あるいは、マインドマップを使って英文の整理をしたり。集中と拡散の学びの物語が展開していくのです。
 
そんな様子を見ているうちに、英語の授業なのか、思考力をトレーニングする授業なのか、いつの間にかその境界線は溶解していました。自由な発想を鍛える英語の授業。21世紀型教育を推進する聖学院の面目躍如といった授業でした。

聖学院 最高の授業(2)

伊藤大輔先生の高2の英語の授業。この学年は、最後のセンター試験世代。それゆえ、ミニテストをまず返却して、スコアの分布などデータ分析をきちんとして、それぞれの生徒のポジショニングを明快にしていきます。受験に向けてのマインドセットがきっちりしているのです。
 
しかしながら、同校が推進している21世紀型教育の新たな改革の波は、最後のセンター試験世代にも及んでいました。グーグルクラスルームを活用して、反転学習が導入されていたのす。だから、きっちりデータベース戦術で知識のマネジメントができていたのは新鮮でした。
 
 
たんたんと文法問題の解説を行っているように見えたのですが、言語の一般化と具体化の適応という思考過程を生徒とシェアしていく深い分析的な授業でした。それは、すでに自宅で生徒が問題を解き終わっている、あるいは通学電車の中でスマホで入力し終わっているからたっぷり時間がとれたということと関係があるかもしれません。
 
人と物の気持ちの関係や自動詞と他動詞の差異は、英文法の問題レベルを超えて、コミュニケーション能力というコンピテンシーを支える重要な言語感覚。
 
入試問題を通して、言語分析の視点を標準搭載していくのです。文法の授業ですが、授業を通して言語分析というクリティカルシンキングが身に着くようにデザインされています。現在、2020年大学入試改革に向けて4技能の英語が重視されていますが、言語分析、言語適用、言語創造という言語的思考のベースは、4技能英語においても必要。しかも、この言語的思考はクリティカルシンキングがベース。4技能を相互につなげ、深い学びを展開していけるかどうかは、やはり、この思考スキルを身につけているかどうかにかかっています。

 
伊藤先生が、説明の時、レファレンスデータも自在に活用できるのも、ICTを巧みに利用しているからです。Imaginary imaginable imagined imaginativeのような接頭語や接尾語の違いを分析する問題も、類似問題がテータベース化されているから、どんどん生徒に投げかけられていきます。伊藤先生はは、反転授業において、優れたコーチの役割を演じているのです。
 
選択肢の問題は、すべてデータで正答率がでるようになっていて、エンパワーメント評価として授業で活用されています。これができるのは、先述したように、反転授業が行われているからであり、グーグルクラスルームでホームワークが出されているからです。つまり、実はセンター試験世代の受験生だけれど、21世紀型教育を意識した戦略的な受験指導になっていたのです。データ英語トレーニングとでもいいましょうか。
 
そんなことを思っていたら、今度はグループワークにすみやかにシフト。、議論しながら問題を考えていきます。その議論で生徒が使う言語の用法は、単語や文の構造をクリティカルシンキングしながら論点を明らかにする言語活用です。
 
 
グループワークで議論を明快にでき、深めていくことができるには、クリティカルな視点を標準搭載されている必要があります。反転授業は、この思考環境を生徒の内面に創り出すことだったのです。この環境を活用して生徒の学びは展開していきます。このとき伊藤先生は共感的コミュニケーションによるファシリテーターになっていました。
 
伊藤先生は、現高2生が、最後センター試験世代の生徒だからこそ、受験指導という枠内で、21世紀型教育を戦略的合理的プログラムとして創意工夫していたのです。

聖学院 最高の授業(1)

21世紀型教育機構は、グローバル教育3.0のステージに向かって、学内外のネットワークを広げ、グローバルイマージョンの環境を学校でつくっています。聖学院も、タイ研修という生徒が自己開示し、他者の痛みを感じ世界精神を自ら生み出す規格外の教育を実施しています。また、都市デザインや東京パラリンピック支援、はちみつをつくりその利益を寄付する起業プロジェクトなど、多様な実践的教育を行っています。

入試においては、生徒の才能に応じた多様な思考力入試を開発・実施し、NHKや静岡放送など多くのメディアでも取りあげられています。

しかし、他の学校と大きく違うのは、このような規格外の教育活動が、日々の授業と結びついているというコトです。ふだんの授業がPBL形式で進行するため、一時間一時間の授業が、生徒自身にとって特別で新鮮です。いつも自分にとって特別な時間が待っている最高の授業が聖学院では行われています。by 本間勇人 私立学校研究家

(聖学院は2カ月に1度くらいの割合で、有志の先生が集まって、授業デザインの勉強会を行っています。PBL型のワークショップ形式で進み、静岡聖光学院の先生方や東大の研究者も参加しています。仕掛け人は、21教育企画部長児浦先生。)

児浦先生の数学の授業は、PBL(プロジェクト学習)型授業。空間図形の切り口を学ぶ授業は、ポリドロンで立体図形を組み立て、切り口のそれぞれの頂点をひもで結んでいきます。ポリドロンにひもを結び付けて、切り口の図形をイメージする創意工夫は、児浦先生自身のアイデアです。

二次元のポリドロンを三次元に変換し、点を結んで立体を切るから、三次元と一次元を結合して、二次元に変換するというトランスフォーメーションの連続が、触る感覚を通してイメージされていくのです。

児浦先生は、指は第二の脳であるという信念をもっていて、まずは指で触りモノをつくりながら、脳内にイメージを転写していく学びのプロセスを大切にしています。感覚と脳のコミュニケーションが生まれる数学の授業なのです。

そして、アプリを使って、サイバー上で空間図形の切り口をイメージを確認していくような授業展開。また、その思考過程を言語化することも忘れません。Yチャートという思考ツールを使うため、生徒は言語化するときにそのツールでサポートされます。

児浦先生は、PBLの最後は、きちんと講義をします。グループワークでは、様々な学びのツールや思考ツールを、生徒の考えるサポートメディアとするファシリテーターをやり、最後は教師のロールプレイもするのです。

この授業で、生徒たちは、数式を図式化、言語化、立体化など相互に変換し合います。一次元、二次元、三次元を自在に変換転換する作業もします。体験と定義の相互関係も発見していきます。数学的思考の醍醐味が1時間の中につまっているわけです。

生田先生の理科の授業。水素の化学的性質や生活の中でどう使われるかなど、トリガーになる対話からはじまります。また、水素を使った実験のリスクマネージメントの話も。クリエイティブテンションのマインドセットから始まるのです。この体験という実験は、危険も伴うスリリングな体験。知的な精神だけではなく、自律する精神も同時に養います。

そして、生徒の知的好奇心は、水素と火によってでる音を聞いたり、美しく水素が燃える様子を見たり、運動エネルギーに転換してプラカップロケットを飛ばしたり、多角的な視点で、水素の性質のアイデンティティを組み立てていく思考として成長していきます。

条件を変えての仮説実験。五感と思考と物質のアイデンティティの関係を結合する実験の過程。そして、水素の特徴をまとめ、気体という物質の概念へ駆け上っていく生徒たち。さらに、リフレクションとシェア。実験を通して科学的思考を生徒は標準搭載することになるのです。

 

聖徳学園 グローバル × PBL × ICT

聖徳学園は「国際協力プロジェクト」という授業を高2生全員が年間を通じて行っています。グローバル教育センター長の山名和樹先生がJICA職員や大学の先生など外部の専門家と協力しながら育ててきた聖徳学園独自のPBLです。今年もその中間報告会があるというので見学してきました。 by 鈴木裕之:海外帰国生教育研究家

聖徳学園の国際協力プロジェクトでは、実現可能な課題解決案を考え、それを実際に実行することがゴールとして設定されています。各国の課題をただリサーチして終わりにするのではなく、課題解決に向けた一歩を踏み出すところにこのプロジェクトの意味があります。

私が見学した日は、インドネシア担当のクラスとミクロネシア連邦担当のクラスによるプレゼンテーションが行われていたのですが、各国の課題の捉え方やその解決案、また生徒のプレゼンテーションスキルも格段に進化していました。

課題が深く掘り下げて捉えられているのは、先輩が行うポスターセッションにオーディエンスとして参加していることが大きく関係しているのでしょう。国際協力プロジェクトはすでに4年目を迎えているため、定例イベントのように聖徳学園の生徒の身近な問題意識となって根付いているのかもしれません。

情報の授業と協働することでICTをフル活用していることも特徴的で、動画を組み込んでプレゼンしているチームも目立ちました。SNSを利用した情報の拡散や啓蒙活動を解決案として提唱しているチームも多く、ICTの活用スキルが年々向上していることがよく分かります。

各チームが特定の国の課題をリサーチする中で、個々の課題が同じ根っこから出ていることに気付いていくというのも興味深い学びのプロセスです。水質汚染やゴミの大量廃棄などの環境問題、また肥満や伝染病など健康に関する問題など、いずれもグローバル経済によって引き起こされた影の部分です。そのマクロな構造的逆説を見据えつつ、ローカルな現実に心を寄せて課題解決への行動を起こしていくこと。そこに聖徳学園のPBLの真髄があるのでしょう。

和洋九段女子の新機軸 STEAM型PBL

和洋九段女子中学校・和洋九段女子高等学校(以降「和洋九段女子」と表記)は、21世紀型教育本格実施2年目で、はやくも新機軸を構想することになりました。この新機軸の発見は、準備期間も入れて3年間のPBLへの挑戦の成果でもあると中込校長先生は語ります。

同校の大きな特徴は、中学1年から高校1年生まで、生徒1人1台タブレットを活用するPBL(Problem based Learning)型授業が、すべてのクラスで実施されていることです。2020年には、全学年がこの環境になります。このような環境を教師一丸となって取り組んできたことにより、新機軸は、PBLのトリガークエスチョンを変えるアイデアだけで、飛躍的な学びのパワーを生み出すことになります。

もっとも、このトリガークエスチョンのアップデートこそが新たな難関であることは間違いないのですが、先生方はある大きな覚悟をもってその難関に挑んでいきます。

by 本間勇人 私立学校研究家

新井教頭先生は、「先生方は、個々に創意工夫をしてPBL型授業をデザインし、運営していきます。しかし、メタルーブリックが共有されていることと、ある一定水準のPBL型授業のフローチャートが標準搭載されていますから、生徒も学び方の型を体得できます。

私たちがトリガークエスチョンと呼んでいる正解が1つではない問題を考えることは、どの教科のPBL型授業でも行いますから、暗記をして要領よく勉強を終えてしまおうという生徒は一人もいません。苦行としての勉強から、好奇心旺盛に学ぶことの楽しさを体験していると思います」と。

また、「プレゼンテーションも、すべての授業で展開しています。PBL型授業を始めた当初は、恥ずかしいけれど、授業だからしかたがないから発表するという雰囲気もありました。しかし、今ではそれはありません。主体的・対話的な深い学びが、新学習指導要領で話題になっていますが、本校では、そのプロトタイプはすでにできていると、先生方も自信を持ち始めているところです」とも語ってくれました。

「そうなんですね。本当にここまで先生方がPBL型授業に挑戦してくれたおかげで、PBL型授業で、生徒がどのように成長していくかが日々実感できます。たしかに、プレゼンテーションの姿勢や声の抑揚や表情の豊かさ、タブレットの編集の仕方などは、学年があがるに連れて成長します。

やはり、好奇心をもって探究する蓄積が増えると、アウトプットしたい意欲がわいてくるし、理解してもらいたいと、伝えるだけではなく伝わるにはどうしたらよいか試行錯誤するようになっています」と中込校長先生は目を細めて説明してくれました。

PBL型授業の醍醐味は、好奇心が沸き上がること、互いに話し合う開放的精神の醸成、なぜだろうという問いを生み出すGrowth Mindsetが生成される学びのシステムだということなのです。このようなマインドセットが土台となれば、基礎学力は大いに伸びるという確信を先生方は抱いています。

そして、その確信や実感を共感共有しているだけではなく、上記の図のように、そのシステムを言語化・図式化して、学内で理論化するところまでカリキュラムマネージメントは進化しているのです。このように表現されるわけですから、PBL型の授業方法の標準搭載が教師に内在化され、PBL型学びの方法が生徒には標準搭載されるようになっているのです。

和洋九段女子のPBL型授業は、いきなりトリガークエスチョンを投げるわけではありません。反転授業やレクチャーアクティビティによって、トリガークエスチョンを取り巻く環境や歴史などの情報は提供されます。ですから、情報を取り出したり、整理したり、まとめたりする基礎学力もそこで十分学ぶことになります。

そのうえで、個人で考えたり、ペアワーク、ディスカッションをしていきます。その中で既存の情報や知識を活用しながら、さらに深堀していきます。知識の定着は、その過程で十分行われます。しかし、和洋九段女子の生徒も教師も、そこで満足しなくなっています。知識と知識が新しい知識を生み出すケミストリーが起こる瞬間を何度も体験しているからです。

このときの知的ワクワク感は、なんともいえない感動です。感動する授業の展開が満ちているのが和洋九段女子といっても過言ではありません。

そのような段階にきた和洋九段女子の様子をみていて、中込校長はハタと気づいたというのです。このPBL型授業は、グローバル教育や社会科など文科系には大いに力を発揮しているが、サイエンス系の授業はもっとパワフルにできるのではないかというのです。

女子校であるから、グローバル教育や文科系教科の授業が中心だと思われるかもしれないが、2030年までに達成する予定のSGDsにもあるように、ジェンダーの壁を超えるには、サイエンス・マスの領域でも、もっとパワフルなPBL型授業にしたいと思ったというのです。

もちろん、今のままでも、実験や論理的思考が養われているから問題はないのですが、AI社会にすぐに役立つオーセンティックなサイエンス・マスのPBL型授業は考えないわけにはいかないということです。

中込先生は、化学の教科書も執筆していますから、はやくも2030年の次期学習指導要領を考慮した化学の教科書の在り方についてミーティングする機会があるそうです。その機会で、この新しいサイエンス系のPBL型授業を提案したそうです。そして、いよいよ和洋九段女子の高校生のPBL授業は新たな段階にバージョンアップできるのではないかと確信したということです。

今までのサイエンス系の実験は、すでに結果がわかる実験の追体験でした。これは予定調和で、行為としてはPBLのように学びますが、正解が1つではないトリガークエスチョンを思考錯誤しているとはいえません。そこで、たとえば、金属イオンの同定実験で、はじめに提供する試料のための試薬を、教科書で定められたものとは違うものを生徒自身が選択してつくるところからはじめました。

今までの教科書に合わせると、すでに金属イオンの系統分析のアルゴリズムは決まっていて、実験をしなくても暗記すればそれでよかったのです。ところが、100通り以上もある選択肢から、自ら選んで、沈殿を生成して金属イオンを同定していく新しい実験は、そもそも想定していた沈殿物とはまったく違うものが生まれたりして、同定するのに試行錯誤を繰り返すことになります。

微妙な条件によって変わりますから、結果がどうなるかは教師も生徒もわからないのです。実際に挑戦してみて、教師も生徒もスリリングな思考過程に没入していくことがわかりました。

中込校長は、「これは大きな発見でした。この2年間積み上げてきたPBLがあったからできたのですが、同時に今までのPBLで投げかけていたトリガークエスチョンは、教師はある程度解答を想定できていた。予定調和ではないけれど、ある範囲の中で生徒が問題解決してくることがわかっていました。

しかし、今回のは、ハードルがあがりました。教師にとっても生徒にとっても想定外の結果が出てくるのです。これはトリガ―クエスチョンというより、ブラックボックスそのもので、エニグマクエスチョンと呼んだほうが適切かもしれません。

完全に教師と生徒がフラットな関係で学ぶことになります。これこそサイエンスの醍醐味です。サイエンスに権威はいらないのです。客観的な科学的思考に権威は壁にしかならないでしょう。これこそ、STEAM教育の醍醐味だと思います」と目をキラキラさせて説明してくれました。

(Raspberry Pi 3 Model B+)

しかし、新機軸はこれだけではなかったのです。2040年、今の小学校6年生が34歳になり、いろいろな組織で中堅のリーダーになっていると思いますが、そのときAI社会に直面しています。コンピュータの高度技術は、男女関係なく必須です。イギリス、カナダ、香港、シンガポール、上海、インド、韓国などでは、コンピュータサイエンスにおいて、すでに、論理的思考習得段階にとどまらず、プログラミングやアプリ作成など、実践的技術を身につける段階に進んでいます。

日本はだいぶ遅れをとっていますから、和洋九段女子は先見性を発揮して進もうというのです。現状のPBL型授業ではコンピュータを使う側ですが、今回の新機軸では、創る側にもなろうというのです。これこそSTEAM教育の眼目ではないかと中込校長先生は言います。

Raspberry Piというマイクロコンピュータを使って、コンピュータのシステムを学び、様々なデバイスをつなぎ、パソコン、スマートフォン、オーディオ、ゲーム、アプリなど創意工夫次第でなんでも創っていくっことができます。IoTも可能です。一般には、コンピュータそれ自体は既成のものを活用しますが、和洋九段女子は、そのシステムを分析するところからはじめ、多様なデバイスと統合し、イノベーションを創発していくプロセスを体験していくのです。

このRaspberry Pi自体は、5000円前後で手に入れることができるので、タブレット同様、1人1台いや1人1枚活用して学んでいくということです。一般にSTEAM教育というと大学の先生や企業のスタッフなどと連携するのが常套手段ですが、和洋九段女子はトリガークエスチョンからコンピュータサイエンスのプログラムまで自前でできてしまいます。

これは、学校全体でPBL型授業開発に挑んできた大きな成果なのです。女子校として、ここまでグローバル教育、PBL型授業、STEAM教育を極めているところは少ないでしょう。新しい女子校の誕生です。

工学院 創造的緊張感を持続する組織(2)

工学院は、「挑戦・創造・貢献」を理念としています。この根本には「自由」があります。自由が前提だからこそ「挑戦・創造・貢献」が可能なのです。エントランスホールには「真理は自由にす」というグローバル精神が刻印されているぐらいです。

「自由」。もちろん、「自律」と表裏一体ですから、個人主義とは違います。「貢献」という理念がそれを支えています。さて、この意味での「自由」が、授業の中にも反映されているために、正解が1つでない問いが中心となる創造型PBL授業ができるわけです。つまり、「真理が自由にす」という自由が文化遺伝子としてあったからこそ21世紀型教育にも踏み出せたのでしょう。

工学院のPBLは、「自由」が基調としてあるので、「好奇心」「開放的精神」「探究心」が生まれてきます。まずは「好奇心」。興味と関心のあるところから出発します。しかし、授業は単元という決められた学習項目があらかじめ設定されています。

この制約された枠組みの中で、しかし、生徒1人1人が、はじめは興味はなかったけれど、あれあれっと好奇心が湧いてきたとなるように授業をデザインするのがPBLやPILなのです。なぜ興味や関心が、後から生まれてくるのか?それは多様な環境、多様な学習道具、そして、なんといっても「対話」があるからなのです。

多様な環境に関しては、世界中いろいろな場所でフィールドワークする機会があります。これについては、いずれまたインタビューしたいと思います。多様な道具とは、同校の図書館を訪れれば、ラインナップがずらりとあることに驚かされます。

レゴや3Dプリンターがずらり並ぶFab Labスペース。どちらも、ICTが背景にあるのは言うまでもありません。

もちろん、教養にとって大切な図書も。しかし、ちょっと少ないのではと思う方もいるでしょう。しかし、大丈夫。

電子図書として、クラウド上に書籍は無限に存在します。生徒は、パソコンやタブレットとIDカードで教養の世界を広げます。

英語の多読スペースでは、英語の文献がずらり。

もちろん、進路関連図書のスペースもあります。

これらすべてが、工学院の学習道具で、授業、探究論文、海外留学、国内外のフィールドワーク、プログラミングなど多様な学びで大活躍するわけです。

そして、多様な道具を活用するということは、自ずと授業の対話のスタイルも多様になります。

わかりやすいのは、グループワーク型の対話です。サークルという空間は、対話に適しているからでしょう。

生徒―パソコン―電子黒板ーwebーアプリ―教師というスタイルは、リアルには、普通のスクール形式ですが、脳内では複眼思考が飛び交う対話になっています。

ドラマトゥルギーな学びの空間が対話を生み出す時間にもなります。

英語のエッセイライティングの授業は、生徒と生徒の対話と生徒と教師の対話が交差して、思考に没入する空間が出現しています。

教科としての「数学」と「数学的思考」が交差するには、対話の機会を授業に取り入れます。いろいろな解法があることに気づくには、対話が最適です。しかし、なぜそのような違いがあるのかメタ的な教師による問いかけは、数学的思考を召喚します。

工学院のPBLは、目の前の問題の多角的な解法への気づきとなぜそのような多角的な解法が可能なのかというメタ的な気づきの複眼思考があるからシリアスで楽しいのです。多角的な解法を教え合うだけではなく、その思考を通して、他の問いの考えにつないでいくという世界の扉を次々と開いていく躍動感。それは、生徒1人ひとりの進路を切り拓くエネルギーに転換していくでしょう。

かくして、多様な学びの空間、多様な学びの道具、多様な対話のスタイルという複雑系が、シンプルに創造的思考のリズムとなって学内を満たしているのは、創造的な緊張感が背景にあるからなのです。

 

 

 

工学院 創造的緊張感を持続する組織(1)

工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」と表記)は、八王子という私立中高一貫校志望者が23区に比べかなり少ないエリアにあります。もともと日本の私立中高一貫校に進学する割合は、全国の同年齢人口の7%。一般には公立中学と私立中学の選択を考える家庭は少ないのです。

一方東京の23区は、区によっては20%近く進学を考える層がいる私立中学受験王国です。ところが、八王子エリアはというと、同じ東京都にありながら、全国レベル。東京における私立学校の経営としては、極めて不利な困難を極める立地条件です。

それがゆえに、このエリアでサバイブするために、先生方はイノベーティブな教育活動を徹底しています。by 本間勇人 私立学校研究家

(中学の理科の授業、Fab Labも備えた図書館で創造型PBL授業。工学院のPBL授業のプロトタイプ。)

このイノベーティブな教育活動は、しかし、並大抵のものではありません。23区で行われている程度のイノベーティブな教育活動では、差別化されませんから、その困難な立地条件を好条件に転換することは難しいでしょう。

そうなると、学内は、歴史的論理必然的に、質を高めるか結果を出すかという緊張感が生まれます。工学院としては、突出した21世紀型教育というビジョンを掲げて、「挑戦・創造・貢献」という理念を実現しようとしています。

しかし、その前に大学進学実績ではないかという議論が、巻き起こるのは世の常です。前者の中心は、創造型PBL(Project based Learning)授業です。後者は、戦略的PIL(Peer Instruction Learning)です。一般的には、アクティブラーニングと講義ということになるでしょう。

工学院は、このアクティブラーニングと講義の拮抗を解消し、PBLとPILという形で、生徒がどちらにおいても主体的に自律的に対話的に考えプレゼンできるような仕掛けを作っています。

とはいえ、それは理想的な平衡状態で、針が揺れるのが現状です。そのときに、PBLだけに偏るのか、PILという講義だけに偏るのか、それとも統合しようとするのか。もちろん、統合しようとします。それゆえ、学内は常に創造的緊張感が走っています。

これは、他校ではなかなかない状態です。どちらか一方に決めてしまうのが楽だからです。ところが工学院は、創造的緊張感を持続する道を歩んでいます。いばらの道ではありますが、その向こうには生徒にとってはもちろん、教師にとっても、学校にとっても、八王子エリアにとっても、最終的にはグローバルなエリアにおいても「希望」が待っているからです。

21世紀はある意味産業革命以来の大転換を意味するエポックメイキングな時代です。帝国や近代国家の歯車としての一員として背景にある個人ではなく、自由・平等・博愛を1人の力でも主張できる自律協働創発型人材の時代です。そのような時代は、それぞれ個人の考え方や価値観が衝突するのは当然です。

そのとき、違うもの同士がいがみ合い、互いを排除し分断を造るのか、創造的緊張感を発揮して、自律協働創造的な社会を創っていくのか。工学院は後者を選んだのです。

教務主任の田中先生は、「本校のビジョンはなかなか高邁なのです。ですから、立ち臨むには、Growth Mindsetが大切です。しかし、私たちだけがそうなっても、八王子エリアの教育文化とのギャップを感じたとき、やはり私たちも情緒的に不安定になって、ある意味パニックになります。すると、その立ち臨むテンションは萎えて、ビジョンを引き下げようという圧力が働くときもあります。

しかし、原点に立ち返り、再び創造的緊張感を共有し、ビジョンを確認し合います。そして、その実現の活動をするわけですが、創造的緊張感と情緒的緊張感は常に同居していますから、現実はそう簡単に進みません。

にもかかわらず、やらんくてはならないのです。そこで、私たちのこのビジョンの原点は思考コード創出でしたから、今年は、教員全員一人ひとりが、自分のやりたいことを思考コードで表現することにしました。

思考コードに刻まれたコンテンツは、1人ひとり違います。しかし、思考コードを共有するという意味では、個々の力を尊重しながらもベクトルは共通しているということになります。」

この個々違うけれど、大きなベクトルを共に歩むというアクロバティックな組織作りを田中先生は、教員と一丸となってやっているわけです。

ですから、田中先生と思考コードを中心になって創出した櫻坂先生の授業などは、戦略型PIL授業と創造的PBL型授業の両者を授業の中に丁寧に取り入れているのです。

しかも、プロジェクトというのは、あるテーマを客観的に追究するだけの作業ではありません。生徒自らが、自らを勇気をもって、その世界に投げ込み、根源的な問題に触れながら、自分の歩む道が拓かれる行為でもあります。つまり、プロジェクト型の学びは同時にキャリアデザインになっているのですが、櫻坂先生の授業は、そういう多層の意味があります。したがって、密度の高い授業で、ある意味学び=祭りになっていて、生徒はHard Funを体験しています。

三田国際は魔法学校。 今まで誰も見たことのない一条校。

9月29日(土)、三田国際学園中学校・高等学校(以降「三田国際」と表記)は、Open Dayを開催しました。関東圏の中高一貫校で唯一のApple Distinguished School(全世界400校)として、尖ったICTの活用をした授業を、全国の教員対象に公開したのです。

同学園は、iTunesUというバーチャルとリアルな学びの場を統合するシステムを活用して、創造的な思考力を養う授業を、すべての教科で、すべての教師が、すべての生徒が展開しています。その創意工夫に満ちた多様な授業が全開されました。

全国から参加した教師は、みなその様子に驚愕。IPadやMacBookを手に、表やグラフやエッセイを作成しながらディスカッションしている様子は、もはや今まで見たことがない学校だったからです。
 

プログラミングで、スフィロは、スターウォーズで登場するドロイドよろしく動いていました。紫の閃光を放ちながら動かしている様子は、あたかも魔法を使っているかのようでした。分科会で、ディスカッションも交えてのリフレクションに、自分たちはどうすればできるのか、自分たちももしかしたらできるのではないかというGrowth Mindsetされていく姿は、三田国際に魅力を感じて入学してくる生徒の様子に重なっていたのです。by 本間勇人 私立学校研究家

一般に、授業というのは、情報xをインプットして、知識として定着させてxを再生産するものです。しかし、三田国際学園では、創造生産するのが授業です。情報xをインプットすると、yという新しいもが創造されるのです。しかし、大事なことは、x→xではなくてx→yということだけではなく、むしろその→のプロセスを発見したり、自分で創ったりすることなのです。

たとえば、プログラミングによって、スフィロの回転運動を操作していくのですが、その操作を憶えるテクニカルな問題以上に重要なのは、プログラミングそのものを学ぶ創造的なマインドセットなのです。

つまり、y=f(x)の関数がどうなっているを解明する思考力、さらに関数そのものを自分で創る思考力が最も重要なのです。興味あるものの情報をリサーチしてインプットして、自分のものの見方や考え方、感じ方をカタチにするとき、その過程の仕掛け=関数関係はどうなったいるのか、どうすればよいのかがわからなければ、人から与えられた道具をただ使っているだけで、自分で創造的に問題を解決することはできないのです。

近代科学を開いたルネサンスにおいて、錬金術師は、まさに自分で方程式を解明し創っていきました。自然にあふれる情報を、どうやって人間の文明や文化に活用できるのか、その関数関係=方程式を考案していきました。

あのニュートンも、今でこそ近代科学の父の1人として称されますが、当時は錬金術師というイメージの方が強かったでしょう。すなわち、三田国際は、あの落合陽一氏ではないですが、現代の魔法使いをトレーニングする学校だと言っても過言はないでしょう。

連想とは何か、どんな仕掛けで連想は生まれるのかという議論を、インプット→ブラックスボックス→アウトプットという流れでしているクラスがありました。しばらくすると、教師が自らつくったアプリだと思いますが、任意の数字をどんどん入力してある数字が出てくる操作をiPadでやりながら、今度はブラックボックス部分の方程式について議論していました。

数学の授業だったのです。連想の過程も、計算の過程も、対象としては、あるいは素材としては違いますが、論理的な過程があることに代わりはないという、数学的思考力=アルゴリズム=関数関係を生み出す授業だったのです。

なるほど、プログラミング、連想過程、方程式というのは、教科が違ったり、対象や素材が違っても、y=f(x)という知識再生産ではなく、知識創造生産を行っていたわけで、それができるのは、関数関係を見出す力、創り出す力が必要なわけです。

インターナショナルクラスでは、SGDsについて、世界に広がる多様な問題を改善する方法を英語で議論し、考えていました。グローバルイシューの多様な情報をインプットし、幸せになるとはどういうことかという解決目標をアウトプットすることができても、その目標達成の実現の仕掛け=方程式をどう作るのかということに力点が置かれていました。

あらゆるものを関数関係という発想で、解決しようとした数学者や哲学者は、たとえばバートランド・ラッセルやエルンスト・カッシーラーのように、たくさんいますが、いまだにその知恵の輪は解けていません。

三田国際という現代の魔法学校ならそれはできるかもしれません。

理科の授業では、弾む物体を弾まないようにするにはどうしたらよいかというトリガークエスチョンを、実験によって検証していました。同じ球の容器の中に、条件を変えて詰め物をして、実験していきます。その姿を動画で撮り、自分たちの仮説の検証をプレゼンする時のモニタリング用の動画も作成していました。

この授業も多様な条件の違う素材を入力して、結果が違ってくるのは、なぜか、y=f(x)を解き明かしていたわけです。

美術の授業では、ある音楽をインプットしたときに、どんなイメージがアウトプットされるか絵で表現していました。しかし、それで終わるのではなく、その絵をアプリに取り込んで、音楽や動作を交えて、音楽を聞いたときにイメージされる感情や発想、絵画などの表現がどのようにでてくるのか動画にまでしていたのです。

MST(メディカルサイエンステクノロジー)クラスの英語の授業は、各国の情報をリサーチして、チーム内で、それぞれ自分の考えをアウトプットし、シェアしていました。この授業がMSTの特徴をどのように反映しているのか、生徒に訪ねてみると、メンバーのいろいろな考え方の過程をしることで、国の特徴を捉える方法が見えてくるし、特色を表現する際、表やグラフなど数学的な発想のものを使いますからと明快に解答が返ってきたのです。

実は、どのクラスでも尋ねてみたのですが、同じように俊敏な反応がかえってきます。いったいなぜか?それはいつでもどこでも、iTunesUにアクセスすれば、自分は今何を何のためにどうやって学んでいるのかシラバスがはっきりしているし、eポートフォリオでリフレクション過程がみえてくるからです。

三田国際のメタルーブリックは、シンプルですが、それがゆえに、教科ごと単元ごとに具体的なルーブリックが同じ構造で多様に展開しています。拡散と収束のシステムができあがています。しかも、教師も生徒も共有しているのです。そして、それが、トリガークエスチョンのインプット、その解決策のアウトプット。そしてその過程としてのPBLの学びという授業にきっちり反映しています。つまり、授業そのものが、y=f(x)になっているのです。

休み時間に実験室の近くを歩いていくと、MSTクラスの生徒が、実験をしていました。何をやっているのか尋ねると、校内や近くの公園などから採集してきた植物の遺伝子を分析して、将来抗生物質などのように役立つ遺伝子を身近なところから見つけられないか研究しているということでした。

この遺伝子の研究方法について、丁寧に解説してくれましたが、あまりに専門的すぎて、にわかにわかりませんでした。しかし、彼らがすでに学部レベル以上の研究をしていることはわかりました。アメリカのAP(アドバンストプレイスメント)プログラム級のカリキュラムがMSTクラスで行われていると大橋清貫学園長には聞いてはいましたが、なるほどこれは凄いと実感できました。

OPEN DAYの最終プログラムは、参加した教員が興味をもった授業のリフレクションのための分科会に参加するものでした。その中で、教頭田中潤先生は、このようなiTunesUをはじめとするICTを活用して、すべての教師がすべての生徒とまったく新しい授業を創っていくことはいかにして可能かについて、参加者と議論しシェアしていました。

魔法学校の授業やカリキュラムができる背景には、組織マネジメント論が存在し、それが学内全体で共有されていなければならないのですが、そのシェアの方法もまた、y=f(x)を創り出すことだったのです。点としてのxやyを作るだけでは、新しい学びの文化資本はできません。文化となるには、持続可能性がなければなりません。

教師一人ひとりの力を養うだけではなく、チームとして共有して活用してルーチンになることが大切です。しかし、その道のりは結構いばらの道です。クラッシュする場合もあります。動かざるごと山のごとしの場合もあります。

改革がうまくいく方法について、参加者が額を集めて考え対話していました。田中先生は、そこからまた新しいアイデアを思い付いたようでした。いずれ、それは公表されるでしょう。

 

 

 

 

工学院の進路指導(了)受験勉強を通して本質をつかむ

三人の卒業生の座談会を終えて、そこに立ち会った校長平方邦行先生と進路指導部主任の新井利典先生は、すぐにリフレクションしていました。新しいハイブリッドとしてのクラスやコース分けが完成したのは、今の中1から高1。高2はプレ改革期で、ハイブリッドインターコースが、週に一度工学院大学の新宿キャンパスで、大学の講義なども受講するようになりました。

したがって、今春の卒業生は、システムとしての21世紀型教育改革の影響は受けていません。しかし、今回の座談会を通して、その改革の精神的な良い影響があったのではないかと、先生方は手ごたえを感じつつ、一方で新たに洗練していく部分も発見し、対話がどんどん広がっていきました。

(左から進路指導部主任新井利典先生、校長平方邦行先生。二人の対話はさらに詰めていくポイントをめぐって、広がっていきました。)

平方:今回の座談会で、たしかにシステムや制度として、改革の影響を受けていないけれど、授業や「探究論文」という場で、教師とのコミュニケーションを通して、これらから必要となる英語4技能のトレーニングや論理的思考や創造的思考を身につける環境はあったのだと手ごたえを感じることができました。ICTも、今の高1までは、タブレットやラップトップ1人1台の環境になったけれど、電子黒板は、どのクラスでも活用できるようにはしていた。

だから、PBL形式の授業を全面的に展開はしていないけれど、教師によっては、すでに行っていた。そういう意味では、改革の文化的な背景や精神的な部分は、学内全体に広がっていたと感じました。

新井:たしかに、成長したと改めて実感しました。今日の3人の中には、彼らが高1の時に担任だった生徒もいて、あのときから比べて本当に大きく成長したと思います。私は、校長のように6年間全体をマクロの視点で眺めて改革を実行する立場ではなく、まずは高2・高3の進路指導のシステムを盤石にしようとしています。もちろん、それが高1や中学の教育活動に結びついていくようにしていくつもりです。

ただし、結びつくということは、受験体制/耐性の文化の再生産が好循環しだすことです。形式だけが表面的に動いても意味がないと感じています。それで、今年で2年目になりますが、「合格体験記・進学参考資料」をつくっています。先輩が後輩に伝え、再生産していくには言葉で伝えていくことが基本です。

平方:そういう意味では、これだけ自分の言葉で、受験勉強の体験や入試攻略の戦略について執筆できているということは、その文化の再生が生まれていることを示していると思います。おそらく、これはeポートフォリオの1つのモデルになるとも思います。また、考えてみれば、2020年の大学入試改革が工学院の改革のきっかけではなく、時代を読み取った結果、先駆け的に、初めから英語4技能へ移行したし、PBL型授業及び探究論文を通して深く学んでいく、自分で考えていく、自分の好きなものを見い出していくということを学内で共有はできていたと思います。

新井:今回の3人の生徒は、執筆もそうですが、自分の言葉で話すことができたし、よく考えて互いの話を理解し、ツッコミも入れられていましたから、たしかに、受験体制/耐性への文化の再生産が循環し始めていると思います。ただ、文化の再生産とは、在校生全員が、最終的にリフレクションが自分でできるようになるということですから、どの生徒もどこのクラスもどこの学年も徹底して実現できているかどうかといえば、まだまだこれからだと思います。

平方:英語の教科会議などは、英語でやっているし、ケンブリッジ英検を導入して、日本初のケンブリッジイングリッシュスクールにも認定されるようになりました。CLILという英語で教科横断的な学びができる手法も英語科を中心に広げています。ある意味、進路指導部の縦の線の循環と英語科のCLILやCEFRでハイレベルの思考力を学ぶ授業展開が水平に広がっています。多くの海外研修や体験もあって、自分の興味あるものや好きなものを見つけやすい環境にもなってきたと思います。

新井:たしかに、多様なプログラムで満ちています。やはり今日の菅谷くんではないけれど、はやめに自分の好きなものが見つかると、早い段階で、詳細な学部学科を調べるモチベーションがあがり、漠然としてではなく、明快に進む道が見えてきます。アドバイスもピンポイントでできるようになります。そうすると、その目標に向かって受験勉強にも力が入ります。木戸くんの場合もそうだったけれど、受験勉強を通して学ぶことを楽しめるようになります。

早川くんは、どちらかというと目標よりも先に、中学のころから成績がある程度よかったために、自分でも言っていましたが、進む道が決まるのが少し遅かった。だから、フワーッとしていた早川くんと、追い込む早川くんの変貌ぶりがなかなか興味深かったですね。しかし、3人の高3最後の受験勉強は、自分で戦略や作戦を組み立てて取り組んでいた。資質や素養が良ければ、それでよいというのではなくて、せっかくの素質を実現するのに活用するには、どうしても戦略的な学びは必要になります。

平方:好奇心や関心のあるものを見つける体験やプログラムは楽しいからね。ただ、体験やプログラムをやることが目的になってしまうと、深い学びにつながらないから、そこは注意が必要です。

新井:そうなんです。楽しいとかおもしろいには、やはり段階があると思うのです。娯楽的な楽しさの段階と知的でアカデミックな楽しさとは違いがある。そこは今日の3人はよくわかっていました。木戸くんは、教員になるための勉強をしているというより、すでに現場の教師という立場で語っていたし、早川くんも、法律の勉強をしているというより、紛争解決する側に立って語っていました。一番わかりやすかったのは、菅谷くんでした。ゲームやパソコンのユーザで満足するのではなく、創る側に立って語ってくれました。

平方:授業や研修も同じです。その向こうに深い学びを探究する楽しみを導けるかです。これは言うは易くなかなか難しい。

新井:そこですね。娯楽的な楽しさは、いろいろなことを結びつけて、それはそれで楽しいのですが、何でもよいと拡散分散して終わってしまいがちです。そこは、私たちも気を付けないといけません。もちろん、拡散はよいです。視野を広げるし、脳を活性化するのですから。しかし、そのあと収束して、いろいろ結びついたときに概念として最適化しなければ意味がありません。

この概念を生成することは、極めて創造的な作業だと思っています。菅谷くんは、自分でも言っていましたが、そこの詰めがないと、乗り越えられない学問のハードルがあります。そのハードルを乗り越える体験は、大学に入ってからでよいとは、私は考えていません。

受験勉強してそれで終わりという進路指導をしたくない理由はそこにあります。受験勉強を通して、拡散と収束の学びを身につけ、その反復が、だんだん螺旋階段を登っていくような感じになって、学問的に難しいハードルも乗り越えられる瞬発力や学ぶ力、考える力を身につけて欲しいと思います。

平方:そして、そうなることを、今日の3人だけではなくて、工学院の生徒すべてに望むわけだけれど、それには学内全体がそういう方向で動けるようにマネジメントしていくことが大切だと思っています。

新井:そうですね。私の言葉では、学ぶことが楽しいという文化の再生産ということに尽きると思います。がんばります。

 

 

 

 

 

 

 

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