聖パウロ学園 グローバル教育の原点へ(3)

イタリア修学旅行の準備としての調べ学習のプレゼンを見学したあと、高1の総合学習の時間を見学。英語講読、プレゼンテーションのトレーニング、茶道、華道と4つのクラスに分かれて行われていた。

そして、イタリア修学旅行の準備は、高2に入ってから始まるのではなく、高1に入学したときから始まっていることに気づき、壮大なイタリアプロジェクト学習に感動した。

英語講読とは、たんなる英語の授業ではない。テーマは「環境」についてで、このテーマに関連した英文をテキストして読みながら、多角的に考える授業である。4つにわかれ、グループワークをしながら、読んでいく。何せ、英語のリーディングの教科書の内容もボキャブラリーも文法も超えているのであるから、ピアインストラクションは必要だということだろう。

それにしても、いつもはおだやかな副校長倉橋先生は、いったん授業に入ると、まさに黒板の例文にあるように30歳さながらパワフルに授業を行う。仮定法という文法が、テキストのシークエンスを読むときに大事なのだということを、生徒に講義する。倉橋先生のパッションが響き渡る。

生徒は文法と読解が統合されている倉橋先生の授業に引き込まれていく。仮定法がこれだけ使われているのだから、次にどのような展開があるか見通しがたつだろう。驚くべきことが次に書かれているのではないかと予想がつくだろうというのである。

環境破壊の話がテーマであるが、実は海の中で起こっている環境破壊、地上の環境破壊を想定しても、それでは思いもよらない破壊が起きているという流れのテキストである。仮定法という文法知識が、コンテキストを予想する「思考」につながっていくとは、それこそ思いもよらなかった。

倉橋副校長は、こう語る。

「テキストは新しい文章を選びますから、いわゆる文法どおりではないのです。現代英語はますます合理的になっていますからね。英文法は、この合理性を考える上でも大切な知識であると同時に、授業でも展開したように、一文一文の構文を読み解くというより、文脈全体の見通しをたてるときにも必要ですよ。

でも、日本語の文法用語が、その思考を停止させてしまうときもある。今日の授業は、今までの文法では、仮定法過去と言われてきたもの。別に過去の話はでてこないのに、この言葉が仮定法の意識の流れを捉えるのを遮ってしまうときもある。

英米圏の言葉は、時間のズレで意識の動きを表現するから、仮定法過去などと呼ぶと、意識を捉え損なう。だから、文法の授業は日本語の文法用語にこだわるのではなく、英語と日本語の違いを考えるところに意味があるんですね。

今日もそこを強調したら、生徒たちはすんなり理解していったでしょう。それに、この英語講読は、英文を読むためにボキャブラリーを増やしていくというだけではなく、英語を超えて歴史や文学、科学などの知見が必要だということを実感する授業でもあるのです。」

英語というと、コミュニケーションのツールだという話は巷にあふれているが、それではCEFRの基準でB2レベル。英語で考える、未知の世界を想い描く倉橋先生の英語講読は、C1レベルなのである。英語で考えることこそが、学びの根源で、そこを回避していくらA1A2B1B2を積み上げていっても、グローバル教育とはいえないと思い知った。

倉橋先生は、教師がサポートし、生徒どうしが助け合いながら、C1C2のレベルから入り、そこからA1A2B1B2に戻るという思考とツールを循環するように授業を組み立ているのであろう。これぞスーパーグローバル教育であり、高1からこのような準備をしていけば、高校3年間でかなり英語力や思考力が身につくと実感した。

そう思っていると、倉橋先生が華道と茶道のクラスを案内して下さった。

男女で、お点前を、そして花を活けているではないか。師匠から、一つ一つの作法に意味があることを教えられながら、作法を身体化していく生徒たち。倉橋副校長は、「これも国際交流の時に自分の国の文化の土台を語る大事な体験です」と。

スーパーグローバル教育の肝は、やはり「文化の意味や価値を考える」ことのようである。それは高2のイタリア修学旅行の事前学習にも通じている。そんなことを考えながら、最後にプレゼンテーショントレーニングをしているクラスを見学しに行った。すると、そこは「考える生徒」の「考える活動」であふれていた。

新聞を読んで、関心のある記事を選択。そしてその記事を要約し、他者に40秒でわかりやすくプレゼンするトレーニング。40秒という短い時間に情報をどうのように圧縮すればよいのか。どのフレーズから語れば、相手に印象づけられうのかなど、40秒プレゼンの戦略を考える授業が展開していたのである。

関心のあるところからスタートするとは、イタリア修学旅行の調べ学習にも通じる聖パウロ学園の自己肯定感を大切にするメンタルモデルであると気づいた。

ワークシートにまとめたら、今度はペアになって交代交代、40秒プレゼンの練習シーンになった。なんてインタラクティブでアクティブなのだろう。高1の段階では、要約と伝達の創意工夫とそして自分の意見を語るというレベルだが、このトレーニングを積み上げていくと、高2ではクリティカルシンキングと創造的思考のレベルにまで飛躍するのではないかと期待が高まる。実際イタリア修学旅行を経て、高2から高3に移行する時、そうなる生徒が多いのではないか。

最後に、練習の成果を代表して一人の生徒がモデルプレゼンをした。すでに、原油高騰と経済社会に与える影響に対する問題意識が明快で、このような学びの体験が高1で行われていることは、思考の跳躍台を構築していることは明かだと確信した。

そして、その条件は、教師のパッションと生徒のモチベーションが最重要であることは言うまでもない。

 

 

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