工学院 中1から高3から大改革(2)

2020年大学入試改革の影響を直接被るのは、中1であるから、中1の新しい3つのハイブリッドクラスの改革がダイナミックに行われていることは納得がいくが、当面現行の大学受験システムがあるわけだから、他の学年はどうするのだろうと疑問がわいたが、それは全くの杞憂だった。

それに大学側も少しずつ変われるところから変わっている。だから、やはり中1以外は今まで通りでよいというわけにもいかない。そこで工学院は高3の大学受験指導も強化する改革を行っている。中1からも高3からもサンドウィッチ型大改革を行っているのである。

高3の化学を担当している新井先生は、東大の大学院で研究し、東大合格者も多数輩出する有名男子校で教鞭をとっていたが、平方校長のビジョンに深く共鳴して、今年から工学院で教えることに決めた。もともと社会構成主義的学習理論を批判的に研究してきたし、21会公認のSGT(スーパーグローバルティーチャー)でもありるから、トップダウン型アクティブラーニングの学習理論を受験指導に応用している。

受験指導であるからトップダウン型になるのは当然であるが、それは受験勉強だからそうなるわけではない。基礎的な概念を対比構造と結合の因果関係で丁寧に構築し、それを解体したり結合したりする化学的なシステムを生徒と問答しながら、あとは生徒自らが、多様な化学反応のシステムを広げていくというアクティブラーニングになる。

基礎的な概念を理解しを得たら、たとえば、ベンゼンという物質が、さまざまな試薬によってどのように化学変化を起こしていくか、可能な限りフローチャートを創っていく作業をPIL(ピアインストラクションレクチャー)という教え合うアクティブラーニングを何度も繰り返す。

最終的には、白紙を渡し、フローチャートの枠をとっぱらって、自在にどこまでも関係図を書いていく個人ワークが行われる。新井先生は、「要するに概念マップが自分で書けるようになると、生徒は受験勉強は決して記憶ではなく、考える過程であることに気づくんですよ」と語る。

さらに、こう続ける。「アクティブラーニングは社会的構成主義的学習観が前面に出すぎます。最終的には学び方ではなく考えるコトそのものが生徒の脳に埋め込まれなければなりません。

構成主義的学習観はどうも道具立てで終わり、考えるコトそのものにメスをいれません。どうやったら考えるコトができるようになるのか、そこにダイレクトに切り込まないと、生徒は自分で自由な発想で考えるという状態にならないですね。

考えるというコトは概念を創る過程そのものですよ。体系構築とも言いますが。構成主義的学習観は、道具を使って楽しむことはできる。しかしほとんどがすでにあるものの配列を置きかえるだけで、次元をシフトすることができない。それは概念を創ることができないからなんですね」と。

科学的パラダイム論を受験指導に結び付けて実践し、しかも実績もあげてきたことに改めて感服した。

生徒は、こういう「新井先生の授業は本当にわかりやすい。それにクラスの雰囲気が本当にいいですよ。考えるコトは楽しいっていうのが、高3になってわかりました」と新井先生を信頼している素直な様子を見せてくれた。

化学は、ある意味存在の元素を遠くギリシャ時代から哲学してきた領域ゆえに、概念の重要性を語る新井先生の話は本質的である。受験勉強をしながら、しかも理系のクラスでありながら存在の本質に迫る議論を教師と目を輝かして楽しめる生徒たち。

教育の大改革の肝はここにある。

 

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