§2 マインドセット ツールで?対話で?
落合先生:今、佐野先生がアクティブラーニングは最初が肝心だとおっしゃいました。私たちもそこをどうするか議論伯仲でした。「iPad思考力のワークショップ」のプログラムを作成したときに、桜丘の副校長品田先生にも細かい指導を仰ぎながらワクワクするようなプログラムになっていったのですが、本番直前に、導入をどうするのか最後の最後まで決まらなかったのです。
佐野先生:その気持ちわかります。ぼくたちも、スタートはなかなか決まらないのです。今年高1の新しいタイプのクラスを開設しましたが、オリエンテーションそのものが、1年間のマインドセットの時間になったかもしれません。互いに信頼関係がうまれて、共感的コミュニケーションができるようになるのには、やはり時間がかかります。
でも、そのおかげで、今は喜怒哀楽を露わにしながら、もちろん節度はありますよ。節度が壊れると共感できなくなりますから。しかし、節度を守れというよりは、自然と節度が均衡点に達すように生まれてくるのです。ゆらぎながらも、互いの意思疎通の平衡点を見出していこうという感じかなあ。
本橋先生:本当によくわかります。今年、私は高3の卒業生を見送って、6年ぶりに中1の担任になりました。今もまだマインドセットを探っています。もしかしたら、今年1年彼らの6年間の学校生活のマインドセットの時間になるぐらいでいたほうがよいのかもしれません。
落合先生:なるほどそうですよね。そのぐらい授業のスタートは重要ですね。ですから、私たちもiPadというツールを使いながら、互いの信頼関係をつくっていくことを考えたわけです。しかし、iPadというツールは、かなり強烈で、操作する楽しみにひっぱられそうで、怖くなりました。
(東京女子学園では、英語バーションのiPad思考力の体験授業も行っています)
本橋先生:でも、そういう気づきを先生方の間でシェアできたということは、これから楽しみにですね。この思考力セミナーやワークショップの醍醐味は、事前事後の仲間との対話や振り返りにありますね。
佐野先生:それはすばらしいですね。同僚同士が素直に気づいたことを語り合って、気づきを共有する。そして、そのアイデアいただきと、これまた素直に柔軟に自分を変えていく。自分なりのマインドセットを切り替えていくことができるトレーニングは、そういう仲間がいればこそできると思います。かえつ有明でも定期的に放課後集まって、マインドセットの状態を語り合い、切り替えて柔軟に自分を変えていきます。
落合先生:マインドセットというのは、響き合いの状態ばかり見ていましたが、響き合うには自分を変える、自分のマインドセットというものの見方や感じ方を変えるという清水の舞台から飛び降りるくらいの思い切りが必要ということですね。さあ今日は物語の創作するから、ついておいでというわけにはいかない理由が身に染みてわかりました。
(かえつ有明の先生方は多忙で、なかなか時間が合わないはずなのに、ふと気づくと集まって語り合っています)
本橋先生:だからマインドセットというのは、それができるツールがあるわけでも、マインドセットを促す対話法があるわけでもないのですね。実に難しい。でも、経験から言えることは、授業の本筋とは一見関係ないコトガラについて話したり、あるいはそういういものをつくったりすることはよくやりますね。レゴ思考力のワークショップでは、一体何を創るんだろう不思議だ、なんだろうというところから始まるのですが、そういう意味ではツールとして使いやすいかもしれません。
落合先生:本橋先生の言うことをわかります。私たちも一見関係ないけれど、なんとなく「浦島太郎」にかんけいありそうな、ある企業のCMの動画をツールにして、気づいたことある?みたいな感じでアプローチしました。
佐野先生:そういう気遣いがいいですね。生徒は直接的な問題だと正解を出さなければと自分の中に高いハードルを設定してしまいます。一見関係なさそうだと、そのハードルや恐怖の壁が立ち上がらないので、互いに開かれた状態にシフトしやすいですよね。互いに対話できれば、命が吹き込まれますから、血液循環がうまくいき、身体が温まるように、気持ちも温まります。
本橋先生:そうすれば議論も素直にできるし、考える頭も回り始める。
(中1からプレゼンテーションを大切にしている聖学院。自分の興味と関心のあることを仲間と共有する。仲間もリスペクトして耳を傾ける。信頼関係が聖学院の生徒の自信につなっていきます。)
落合先生:自分の内面に何か言いたいこと、疑問に思ったことが生まれれば、それを調べるためにツールを活用しだす。
佐野先生:すると、ツールや対話をすることが目的ではなく、もっと大事な何かを意識しながらワークショップを楽しめる。とはなかなかいきませんが、私たちが思い描く、生徒といっしょに学ぶイメージは、こんな感じでしょう。
落合先生&本橋先生:やはり試行錯誤の連続ということですね。そうして一生懸命創意工夫をしてつくった授業の中で、生徒が長い沈黙を抜けて、「アッ!」とか「わかった!」とか「なるほどですね!」とか声をだす瞬間に遭遇したとき、これだから、授業はやめられないと心底思うのです。
佐野先生:ルーブリックや思考のスキルの話も聞きたかったけれど、とてもいい話を聞いてしまったので、このぬくもりを持って帰りたいと思います。
本橋先生:そうですね。また次の機会にしましょう。それから落合先生、私の学校は男子校なので、東京女子学園の生徒の皆さんのチューターぶりは新鮮でしたし、ずいぶんトレーニングされているのに正直驚かされました。みなさんによろしくお伝えください。
落合先生:ありがとうございます。特にトレーニングはしていませんが、やはり私たちの後ろ姿をみて学んでいるのかしら(笑)。
佐野先生:たしかにその通り!本当にこの間、そして今日も開かれた感覚をありがとうございました。