八雲学園 進化する“Have fun” (1)

八雲学園について在校生にたずねると、決まって生徒は「楽しい!」と満面の笑みをたたえて答える。廊下を歩いているときにたずねても、掃除をしているときにたずねても、理科の実験をしているときにたずねても、ダンスをしているときにたずねても、チューター面談をおこなっているときにたずねても、吹奏楽を演奏しているときにたずねても、生徒会室でたずねても、メディアセンター(図書館)でたずねても、そして先生方にたずねても、「楽しい!」と答える。

後ろの方で、近藤校長が生徒と話している声がしたので振り返ると、校長は“Have fun”といって生徒を見送っている。MITメディアラボのプレイフルラーニングこそ究極の21世紀型教育であるが、その根っこはすでに八雲学園にあった。八雲学園の楽しい教育環境が、生徒の興味関心を探究心に進化させる。その姿を追った。(by 本間勇人:私立学校研究家)

ウェルカムの精神は感謝に通じていた

お昼時、調理室の前に行列ができる。「かき氷」を食べるためだ。猛暑続きのこの時期だから、特別な配慮なのかと思ったら、八雲学園の夏の風物詩。20年以上活躍したかき氷のマシーンも壊れて、新調したばかりだという。

この笑顔。学園生活に大満足している何よりの証拠である。マシーンを回して、手を凍らせ、身体に汗している名人は、八雲学園の教師である。「かき氷」を手渡しおもてなしをしているのも教師である。外から見ていると、とても不思議な光景だ。教師が生徒をもてなしているなんて。

そのとき、あるカトリック学校で、生徒に対し上から目線の教師に、シスターが聖書の一節を手渡していた記憶がよみがえった。そこにはたしかこんなことが書かれてあった。「もしあなたがそんなに偉いのなら、相手の人に頭を垂れなさい」と。

そのシスターが校長だと知って、わたしは全く偉くないが、思わず頭を垂れてしまったから、強烈な印象が残っていたのだと思う。そして八雲学園のこの年中行事さながらであるゆえんは、まさにそのカトリック学校の校長と同じ質感であることにあとで気づき、私は深く理解するのである。

さて、この笑顔を撮って、移動しようとした瞬間、生徒は大きな声で、「ありがとうございました!」と高らかに感謝の声を放った。それはもちろん、私にというよりも、もてなしてくれた先生方への感謝の気持ちである。

菅原先生は、「八雲学園の教育活動は、一つひとつ意味があります。しかし、その意味を生徒を集めて説いてしまっては教育効果は半減です。生徒が自分で気づくから、心からありがとうという言葉を口にすることができるのです。果たして20年前同じ光景だったでしょうか。いえ違います。この当たり前の光景に感動できるようになるのには、積み上げの時間がかかったのです。鉄の飛行機が軽やかに飛ぶように、生徒の楽しい笑顔はさわやかであると同時に何にも代えがたい重みがあります」と。

そして、茶室に立ち寄って、笑顔で一言こう教えてくれた。「茶室では亭主がもてなすのです」と。全米でも屈指の名門校ケイトスクールが姉妹校になったときに感動した日本文化の精神とはこれだったのか。もてなしの精神。八雲学園はそれをグローバル教育の一環として「ウェルカムの精神」と呼んでいる。

 

 

 

 

 

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