工学院 思考を工学する授業(1)

工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」)では、高1の総合学習で、「環境工学」の授業を行っている。同校はISO14001という環境マネジメントシステムを生徒とともに活動して認証取得している。この認証取得には、エコに対する思考や活動に、道徳感情のみならず、技術をベースに社会的責任に参加するという工学発想を徹底させる必要がある。

この工学発想、いわば思考を工学する基礎が、「環境工学」という授業で育成されている。今回、担当の島田浩行先生(高等学校教頭・環境管理推進委員・環境管理事務局員)の授業を見学させていただいた。「環境工学」が同校が標榜している21世紀型教育そのものであることを紹介したい。(by 本間勇人:私立学校研究家)

今回の授業は、高1の学年旅行「農村体験 ほっとスティ」の事前準備として行われたため、テーマは農業だったが、昨今トレンドになっている農村体験の授業とは違いがあった。

それは、生徒たちが農業を環境工学的視点で考えていく展開になっていたところである。

第1の問い

授業は、いきなり問いが投げかけられるところから始まった。テキストや資料を調べて考えるのではなく、まずは自分の体験知の中から、「日本の農業の問題点」を書きだすという自問自答に集中する時間。

正解を出すのではなく、自分がもっているストックをノートに見える化することがねらいのようだった。どんなことでもよい。気づいたことや自分の知っていること、考えていることをまずは書き出してごらんと島田先生はエールを送りながら見守った。

テキスト

生徒が自分なりの考えを書いたところで(5分間くらい)、いきなり解説するのではなく、お世話になる農村の方と先輩がやりとりしたメールというテキストを生徒に見せた。そこには農業の問題を考えるヒントが、当事者の言葉で語られていた。生徒たちは自分たちが訪れる農村の方の息吹を聴くことになる。先輩とのやりとりであるが、だからこそなおさら自分事に置き換えて真剣に耳を傾けられる。

島田先生は、しかしながら、自分の考えた問題点がこのメールの中に見つかったかなと問うだけで、何が正解かについては、ここではまだ語らない。生徒たちが自問自答している様子を確認しながら、次に、一般に語られている問題点をグラフというテキストで提示した。

 

ブレインストーミングあるいは反転授業

最初のテキストは当事者の視点。次のテキストは客観化された視点。この2つの視点と自分の主観的な視点が葛藤を起こす。すると、生徒の内側には、あれっという気持ちやもやっとしたものが生まれる。何かがうまれるときのエネルギーが内側に充満してくる。

そのタイミングで、島田先生は、自身の考えのテキストをぶつける。このように、「当事者の視点」、「客観化された視点」、「生徒の主観的視点」、「教師の鳥瞰視点」が出そろうまでに、15分。講義と自問自答の時間であるが、ある意味静かなブレインストーミングの時間でもある。あるいは授業終了後に島田先生にインタビューしたときに語られた「反転授業」の仕掛けでもある。

この「反転授業」は、米国で注目されていて、最近、21世紀教育スキルの旗手山内祐平東大准教授によって紹介されている。授業の前に、自宅で動画テキストによる講義を見てきて、授業ではいきなり問題演習や議論を行うというスタイル。今までは、講義は授業で、演習や議論は授業外でというスタイルだったから、反転授業はその逆をやろうという試み。ICTやネット環境の隆盛がもたらしたものであるが、島田先生は、この反転授業トータルを、環境工学の1時間の授業の中に埋め込むデザインをしたわけである。

 

 

 

 

 

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