知識を憶えるところからではなく、情報を収集分析するところから
川口先生:知識もデフォルトというか初期値レベルのものは、自在に使えるくらいにしておいてほしいのですが、それ以上のものは、調べられればよいわけです。その過程の中で生徒は自然と憶えていくものであることも実感しました。
今回のスーパーサイエンスコースの思考力問題では、化学式を憶えているかどうかを問うのではなく、むしろそれは条件として予め提供してしまいました。むしろその化学式から、フロンガスを規制しても、オゾンホールの面積が減らないのはなぜか、その理由を考えてもらいました。
これは、新しい発想というより、触媒の働きの適用問題です。不安定なオゾンを解体してしまうClの働きをどうとらえるか。それは既成の現象と比較対照するという思考の方法で解けるわけです。もちろん、触媒とはどういうシステムなのかまで一般化できるようになるのは、スーパーサイエンスコースにはいってからトレーニングしていきます。
今回は、思考の糸口を見つけられればよかったわけです。
大泉先生:英語も同じ考え方をしています。授業を始める時に、1つのテーマについて、生徒は考えるわけですが、それは思考のモデルをつくるわけです。川口先生の話に出たシステムということなのかもしれません。とにかく、それが生徒1人ひとりの内面に設定されれば、あとはそれを英語でどう表現するかというトレーニングでいけます。
自分の内面に言いたいことが生まれれば、それを表現したいという意欲が高まりますから、ボキャブラリーや文法も、暗記の手段ではなく、表現の手段として身につけたくなるわけです。
今井先生:「同じ考えをしています」という言葉が、当たり前のようにでるようになったのが、やはり大きく変わったなあと感じるところですね。一枚岩になろうとか一丸になろうというのは、どこの学校でもどこの組織でもぶち上げるんです。しかし、想いだけいっしょでは、組織はパワーアップしません。
思考のシステムを共有できるから、議論もかみ合うし、批判的にチェックし、切磋琢磨できるわけです。情も大切です。しかし、情熱と思考の両輪がなくては、夢は実現できないのです。それを私たちは互いに実感しているのだと思います。
原田先生:そういうものの見方考え方を、互いに教え合う環境ができた。つまりベテラン教師が若手教員に教えを請うことを恥ずかしがらなくなったのだと思います。それはある意味、イノベーションの導入の1つの成果だと思います。社会学的には、イノベーションによる脱技能が生まれ、職人的階層構造が解消したということだと思います。
川口先生:iPadのことですね。たしかに教師全員にiPadが配られた。各教室のモニターにつなげば、アーカイブも資料も動画も全部活用できるから、授業の間口は広がり奥行もさらに深くなる。ベテラン教師ほど、使いたくなる道具ですね。
原田先生:しかし、ベテランにとって、自在に使うには、なかなか面倒な道具でもある。
川口先生:そうですね。ですから、ICT委員会では、“BUILD”というプロジェクトを立ち上げました。これは、“Become United in Learning Devices”の略です。iPadの使い方について、情報交換は頻繁に起きています。授業の探求とiPadの使用方法は同期するので、先生方は時間を忘れ、授業の質の転換のためにハマっているほどです。
今井先生:だから先生方は、時間が欲しいというわけです。こんなことは、今までになかったですよ。
大泉先生:そうですね。これから春休みですが、私たちはその間も授業の質の大転換のために、準備に没頭することになります。
川口先生:今では、私たちにとって、授業は時間を超越するかけがえのない価値あるものですから。