21会の近況ダイジェスト 時代の要請に耳を傾けて(2)

21会の「学習理論部会」と「思考力テスト部会」は、哲学授業に挑戦したり、思考力セミナーを実施したり、思考力リサーチを行ったりしている。グローバル教育部会のIBやAレベルの情報、独自にリサーチしたMITメディアラボやハーバード大学の授業理論、ACT21sの21世紀型スキルなどについてもリサーチ。

各メンバーの多くはこの夏イギリス、フランス、ニュージーランド、東アジア、オーストラリアなどにも視察。また日本語IBのためのIB教師研修にも参加。実際に海外の大学に対応できる授業やテスト、評価などシラバス・イノベーションを着々と準備している。イノベーション教育とは、タブレットを活用するだけではなく、シラバスそのもののイノベーションというソフトパワーを前提にしているのが21会校の先生方。(by 本間勇人:私立学校研究家)

 

21会の授業 考える共同体

21会の授業について、先生方はそれぞれリサーチし実践をしているが話題に出るのは、次のような本である。

いずれも、「正解主義」「一方通行型教授主義」「知識暗記主義」に批判的で、未知の事態に直面した時に、オリジナリティのある思考力を発揮する方法論が論じられている。そして、教師がどのような問いかけをするのか、子どもたちがどういう問いを自らに投げかけるのかが、カギになっている。

特に≪playful learning≫でも取り扱われている「憧れの最近接発達領域」は、極めて重要で、共に学ぶことを通して、子どもたちによって異なるそれぞれのジャンプする領域を発見することが授業であり、哲学授業であるという認識で一致している。

この憧れの最近接発達領域を子どもたちと発見する思考力セミナーに注目しているのは有山先生(工学院 司書教諭)である。教師と生徒、生徒と生徒の間でどのようなコミュニケーションを生み出す学びの環境をデザインするのか、図書館というメディア空間で探求している。

あと一歩で理解ができるのに、その一歩がという状況は子供によって違うが、この最近接発達領域は、問いかけという対話によって気づくことになる。しかし、この「問いかけ」が予め用意されていたものばかりで授業が構築されていたとしたら、結局は擬似教えない授業で、解法の操作性から免れることはできず、結果的に「正解主義」に陥るというパラドクスが生じる。

そのパラドクスをいかに解消するか?それを探求しているのが21会校の先生方であるといっても過言ではない。やはり、市販のテキストでは、方向性を示すところで終わるものが多く、目の前の子どもたちに対しすぐに役に立つというものはではない。大事なことは問いがいかにして生まれるかである。問いが生まれたという前提から始まるのがどうしても市販のテキストであり、問いの生成の仕方については、それぞれの著者の暗黙知で、それこそが解明されなければならないのであるということのようだ。

幸い日本語IBの導入が文科省によって開かれたことによって、この問いの生成の仕方が学べる機会を得ることができたという。21会校の中にも、IBの教員資格をゲットする研修に参加した先生方も多くいる。IBのプログラムは、結局評価(アセスメント)の考え方の奥行きが深く、それをマスターしなければならないが、評価とは結局、授業の視点であり、テストのデザインの設計図である。あるいはアドリブも包摂されたシナリオである。

 

しかし、そのシナリオはまったく暗黙知で、哲学授業、思考力テストなどの積み上げの結果やっと解明されることでもある。それゆえ、21会としての思考力のコンセプトを共有し、さらにそれが世界標準に耐えられるあるいは世界標準をリードするものにするために、「学習理論部会」と「思考力テスト部会」は協働して、21会版「体験授業」をプロデュースしようと企画している。

また、問いは子どもたちがいきなり自問自答できるものではないから、ピアインストラクションやディスカッションの対話型の機会を盛り込みながら授業を展開していく。互いに協力しながら、問いが生まれる機会をつくっていく手法を活用している。聖学院の本橋先生(数学科主任)は、先行的に昨年から思考力セミナーを実施しているので、セミナーに参加して入学してきた生徒の思考力追跡調査を開始している。

問いが生成されるには、生徒たちはどのような思考を組み立てているのか、ポートフォリオを追跡している。どうやったら、生徒のリフレクションの痕跡を追うことができるのか、研究しているのである。

大島先生(富士見丘教頭)と品田先生(桜丘副校長)は、反転授業にヒントを獲て、授業の前に提示する思考を学ぶビデオを制作している。そしてその制作過程で、子どもたちの思考のツボがどのへんいあるのか仮説をたてる手ごたえをつかんでいる。授業前の準備とは、何をどういう手順で教えるかということではなく、生徒が直面した素材に関して学ぶとき、思考の構造がいかなるものになるのかについて仮説を立てることであると。

この仮説があるからこそ、授業の中で反照して、それぞれの子どもに最適な考えるフレームを組み立てることができるのではないかと。

菅原先生(八雲学園高校部長)は、同学園ですでに授業に埋め込まれているプレイフルラーニングの構造を見える化するリサーチを開始している。モチベーションが自問自答によって内燃する秘密を解き明かそうとしているのである。

それぞれの学校での探求活動の情報交換が、他校から見たらどのように投影されるのか。学びの共同体の有効性を21会校の先生方が身をもって体験している。

 

 

 

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