今春から21会校である聖学院は、学校説明会で思考力セミナーを行った。たいへん好評で、今年も説明会で実施していく。明日の芝中で行われる男子校フェアでも3回行われるが、すべて定員を満たしている。来週土曜日、同校で行われる説明会での第1回思考力セミナーも定員を超える勢い。受験生からの支持の勢いは増すばかりである。
この思考力が市場から支持されるのには理由がある。2018年から、21会が見据えている21世紀型教育が公立学校でも本格化するロードマップが描かれているからである。しかし、私立学校に期待がかかるのは、今回の教育政策では、うまくいかない大きな理由があるからでもある。それは新しい評価の考え方がまだ現場レベルで研究されていないということなのである。
それを今乗り越える準備をしているのが21会校である。したがって、今後21会校がモデルとなっていくのだが、思考力セミナーという先進的活動を行っている聖学院がまずそのリサーチに着手する。
それと同時並行的に聖学院の成果を21会校でシェアしていくことになるだろう。大いに期待したい。(by 本間勇人:私立学校研究家)
21会校の学びのプログラムは、まずはトリガークエスチョンから始まる。そしてそれが刺激になって予測不能な創造性を膨らませる。その繰り返しがオリジナリティという核を形成し、そこから思考の座標系が生まれる。この座標系を尺度に生徒たちは物事を認識し、意思決定をし、行動する。
生徒1人ひとりの座標系が違えば、思考の客観性が危ういのではないかという反論が多くの場合でてくるが、それはCEFRという言語思考の発達基準を理解していない20世紀型教育の座標軸から見た場合の話にすぎない。主観と客観を対立軸にしているうちは、CEFR的にはA1A2B1B2レベルである。
CEFRC1C2レベルは、いわゆるハイヤーオーダーシンキング、つまり高次思考というレベルで、主観と客観の相互関係を認識できる。メタ認知という言い方もあるが、メタはどうも上から目線で静態的。この高次思考という意味合いの方が動態的である。
それはさておき、この高次思考を求めているのが、日本の大学入試では現代思想の素材文レベルであり、イギリスではAレベル、米国ではAPコース、そして国際バカロレアである。
日本の場合は、大学入試の素材は高次思考レベルでるが、その素材を出題していながら、問いはB2レベルで終わっている。それゆえ、今までは21会校のようにC2レベルまで教育活動を行っていても、無駄なことをやっているように思われてきた。しかし、ここにきて政財官学は、グローバル人材育成のための教育政策やむなしで動いている。にわかに21会校が注目を浴びてきた理由はそこにある。
そこで、この高次思考の座標系を育成するために、トリガークエスチョンによってインスパイアーした発想を膨らませ、現実的な道理を構築するために、ピアインストラクションとかワークショップ、つまりPIL型授業やPBL型学びをプログラムとしているのである。写真を見れば一目瞭然、今回の聖学院のリサーチプログラムもまずは、思考力セミナー同様、ワークショップ型になっている。
個人ワークの時はワークシートを活用し、チームワークの時はパソコンを道具として活用した。個人で思いを馳せる時とワイガヤをやるときのメリハリをつけるには、道具を変えるとスムーズにいく。この道具を変えるには、それなりの学習空間がデザインされていなければならない。このデザインがうまくいくと、学びと遊びの融合が最適化され、プレイフルラーニングになる。
そして、そのワークショップが終わった後、思考のポートフォリオを生徒が自己評価という形でつくった。思考のポートフォリオは「CEFR」と「思考活動」と「思考のスキル」の72セルのマトリクスになっていて、いわゆる欧州評議会やTOEFL、NHK英語講座のように、言語スキルに適応したものではない。むしろCEFRのエッセンスである「言語を通して思考するというロゴス」に着目した。ロゴスは言語スキルのみならず、思考の範囲も包摂するからである。
聖学院中1生は、この72セルもある思考のポートフォリオを、予想以上にすんなり使用できた。今回はまだエクセル入力段階で、アプリの開発までに到っていないが、今回のリサーチの積み上げの成果がいずれアプリや出版という実を結ぶことになると思う。
また、72セルのポートフォリオ(実際には6×12と0,1で入力していくので、ルールを理解すると、実にロジカルにリフレクション出来るということがわかった)を見て、自分の思考の質を評価するのは、慣れないうちは難しい。そこで、思考のコミュニケーションの質の自己評価ができるようにした。
たとえば、これによって、思考を支えるために、論理的な側面が十分でなかった。論理的でないと言っても、理由は考えたが差異をきちんと考えなかったなあと。この4つの側面からの気づきを、72項目に帰って、具体的にどうすれば思考のエンパワーメントができるのか自己評価できるようになっている。
もちろん、これはデジタル化されているのであるから、生徒と教師がシェアできる。教師も1人ひとりのポートフォリオをつくることができるから、互いに対照して、ズレを対話することができる。データのない対話は、説教されているように聞こえたり、実際道徳的指摘に終始するケースが多くみられる。
2018年以降、教育政策による教育改革によって、ICTが評価の場面に浸透し、教育評価のビッグデータ化が予想される。教育データアナリストが活躍する時代の到来である。しかし、この教育データアナリストは、聖学院の先生方のようにヴィゴツキーのいう最近接発達領域を生徒1人ひとりに見いだせるonly one for othersの対話能力が必要になってくる。
この対話能力は、今市場でもたいへん重視されている。クオリティマーケティングと呼ばれている新しいデータマイニングの手法である。教育と市場が人間存在のクオリティと交差するとき、21世紀型教育と21世紀型市場の化学反応が起こるだろう。
思考のポートフォリオについては、今年のリサーチの過程で行われる聖学院の先生方をはじめ21会校の先生方と議論した成果を公開する予定である。