八雲学園 進化する“Have fun” (5)

放課後吹奏楽部の練習風景の取材機会があった。そして、筋トレ、感性、思考、学び、組織マネジメント、対話・・・等々総合力が結集した驚きの活動であることについて、部長、副部長が丁寧に語ってくれた。70名強の部員がいる人気の部活。八雲の高密度の「楽しい想い」について紹介したい。

自分たちの想いを表現する

曲作りについてたずねると、すぐ話になったのは、「自分たちの想い」を「表現する」ということだった。そこで、まずは「自分たちの想いがどこまでいったら十分に表現できたといえるのか?あるいは十分表現できたと判断できるものなのか?」とたずねると、「できます!」と即答。

「演奏したとき一体感がでるときがあります。それを感じたとき、嬉しくて楽しい気持ちになります。そのとき十分に表現できたとわかります。しかし、その一体感がまだまだであるということも、同時にわかります。金賞受賞した学校の演奏は、やはり違いがあるからです。その違いについて全員で話し合います。そしてまた練習します。」

その違いは、練習量の違いもあるが、細部の表現の仕方の仕上がりだという。細部へのこだわりの表現練習が、音楽全体の質を深めるのだと。それは、

「私たちも、実際に練習をしているので、ここでこんな表現をするのかというのがすぐにわかるのです。自分たちは、その部分の練習は足りなかったというのは、わかるものなのです」

顧問の先生は、首の回りや肩に力をいれないようにと指摘しながら練習する。中2以上の部員に演奏させたあとに、新中1に演奏させる。同じ曲なのに響きがたしかに違う。それを体感させたうえで、また一緒に演奏する。どんどん響きが変わっていく。そのうえで、さらに力を抜いて、響かせてとコメントしながら響きを膨らませていくその変化を生徒と一緒に、いまここで経験していく。筋肉の使い方は、だんだんわかっていくものだと部長は語る。

あるとき、顧問の先生は、打楽器をいれないで演奏し、次にもう一度打楽器をいれて指揮した。部員は一瞬にしてその違いについて理解。多様な響きが一つになる瞬間である。

表現の仕方の分析と練習による感性の統一について深い思想をつくりあげている。そこで、表現する内容である「自分たちなりの想い」について聞いてみた。

多様な想いが1つになるまで話し合う

演奏できるには、その曲に対する自分たちなりの想いが必要だという。自分たちの想いを表現したいという気持ちがあるからこそ、楽しいのであると。そこで、自分たちなりの想いは、はじめから1つなのかそれともバラバラなのか、バラバラなままで演奏はできるのか?とたずねみた。

「最初は1人ひとりの想いはそれぞれあります。顧問の先生も自分の想いを押し付けることはありません。だからいつもその想いについては話し合います。そして演奏します。すると、これだと思う演奏にいきつくときがあります。その時、想いが1つになります。」

想いが1つになるから楽しい

今年5月の末、エール大学のアカペラグループWhim'n Rhythm12名が来校して、八雲学園でアカペラ・コンサートを開いた。とにかく感動したという。そして次の日吹奏楽部は、そのグループとワークショップをしてもてなした。そのとき、演奏を通して、あの一体感を経験した。感動の涙涙で音楽室は溢れたが、とても楽しかったということだ。

「互いに楽しんでいただきたいという気持ちが、演奏したいという気持ちをふくらませます。言葉の違いや年の違いを超えて同じ想いを表現できることは楽しいという以外にないと思うのです」

エール大学の学生との交流で、エール大学に行きたいという気持ちも少しはでてきたが、ともに演奏して1つの想いを表現できたときの気持ちがとにかく大切であると語ってくれた。

さまざまな分野の表現に共通する考え方

吹奏楽、コーラスは表現の仕方が違うけれど、互いに感動することができるのはなぜだろうという話題がでた。部長・副部長も高2だから、午前中に取材した高2のダンスの練習を重ね合わせてみた。すると、

「吹奏楽部は、マーチングもやります。体育祭・文化祭のときには、演奏しながらダンスまで激しくはないですが、動きが入ります。下半身は、座って演奏しているときと同じように固定しなければなりません。そうすると、上半身は首の周りなどに力が入らずに演奏ができるのです。ですから、腹筋など筋トレもやるのですよ。ダンスも吹奏楽も関係はあるのです。自分の想いがあれば演奏はものすごく楽しくなります。それは演奏だけではなく、コーラスでもダンスでも同じだと思います。歌詞がある曲を演奏するときは、歌詞をみんなで話し合って読み込みますし。どんな表現でも、このような考え方はいっしょだと思います」

組織マネジメントの方法

吹奏楽部は大所帯。学年も違えば、楽器も違う。それでいて1つになる。音楽を通して楽しんでいただきけたとき、自分たちも楽しくなる。もちろん、練習はうまくいかないときもあるが、演奏の時の楽しいイメージを共有して1つになれるという。

吹奏楽部の組織は、サブ組織がたくさんある。学年リーダー、楽器ごとのパートリーダー。部長・副部長は、リーダーたちといつも話し合っているが、各パーツはリーダーに任せるという。もちろん、それは各パーツでも話し合い、リーダーがみんなの意見をまとめていくという方法で、決して1つの考え方を押し付けることはしない。押し付けると楽しくなくなるからである。

吹奏楽部のコラボレーションの方法は横に縦に広がっている

増田先生は、「吹奏楽部に限らず、行事や生徒会活動、そのほかの部活も同じような方法でチームをまとめているのが八雲の特徴です。そして、吹奏楽部の顧問の教師も実は卒業生で、同窓力もいろいろな場面で持続しています」と語る。みな考えるし、表現を工夫する。そして筋トレも(笑)と。

この積み上げが、豊かな感性をつくる。感性は論理でとらえられない部分をも表現できる。しかし、感性を豊かにするには、濃密な関係づくりと膨大な時間の両方の積み上げが必要。ここに八雲学園の強みがある。

 

 

 

 

 

 

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