東京女子学園のICTを活用した授業は、英語を中心にかなり進んでいる。しかし、教育におけるイノベーションの面目躍如といえば、カリキュラムそのものの革新、つまりカリキュラムイノベーションである。
カリキュラムイノベーションなきICT教育は、結局ハードパワーベースの教育で、子どもたちのデザイン思考や創造力を引き出すことは難しいだろう。同学園の創意工夫に富んだカリキュラムイノベーションの先進性について取材した。
授業前の教師のミーティング in English
“WORLD STUDY”の授業30分前、直前ミーティングがあった。チームティーチングのために、授業のコミュニケーションが阿吽の呼吸でなければならない。もちろん、生徒と英語でやりとりするのだから、教師のミーティングも英語で議論していく。
中1から高3までらせん状のシラバスになっている授業がゆえに、毎回毎回の積み上げが、柔軟なカリキュラムイノベーションにつながっていく。
・テキストもオリジナル
・オリジナルであるから、旬なテーマは柔軟に挿入できるようにアドリブまで想定している
・生徒全員のマインドとインテリジェンスの発達段階を共有でき、1人ひとりの成長に応じたコミュニケーションができるカリキュラム
・インテリジェンスの発達は、「知識」「知識→理解」「知識→理解→応用」「知識→理解→応用→分析」「知識→理解→応用→分析→総合」「知識→理解→応用→分析→総合→評価」というように1人ひとりの生徒が学年があがるごとに拡充していることがわるようになっている。
テキストの作り方が、カリキュラムでありシラバスそのものになっている。「教師のミーティング→授業→教師によるリフレクション」というコミュニケーションこそ、カリキュラムイノベーションの源泉なのである。
教科横断的なマインドとインテリジェンスの形―キャリアデザイン力で
英語のカリキュラムは、同時に「ことばのカリキュラム」でもある。ということはあらゆる教科は「ことば」を媒介するために、インタビューした生徒のように、教科横断的な感じ方や思考ができるのは、「ことばのカリキュラム」が背景にあるはずである。
校長補佐辰巳順子先生によると、そのようなカリキュラムは、教科ごとに潜在的にあり、英語科と同じように議論をする場面やプレゼンする場面、ICTを活用する場面は随所にみられるという。
ただし、「ことばのカリキュラム」という名称はつけていないが、キャリアデザインのカリキュラムはそれに近いものではないかという。たしかに、キャリアデザインは、「人間として生きることを学ぶ(learning to be)」ことを目標としたカリキュラムである。だとすれば、人間の存在を形作るのは「ことば」であるから、キャリアデザインのカリキュラムは、「ことばのカリキュラム」であるととらえることは可能である。
そして、このカリキュラムもまた、オリジナルワークブックとなって、きちんとテキスト化されている。東京女子学園のカリキュラムイノベーションは、シラバスワークシートとして見える化されているといえよう。他校にはない特色でもあろう。
自分という人間存在をデザインすること自体、自分を振り返り、モニタリングする高次思考(メタ認知)を活用することであるが、そのとき、自分のデザインを「ことば化」していく。ワークブックをみて驚くのは、世の中の仕事をカテゴライズし、質的な分析をし、座標系で表現していく過程は、まずは社会に耳を傾け、受け入れながら、やがては、自分が大事にしている価値によって、社会を視る切り口(世界を読み解き見通す視角)を見出す過程であることだ。
インタビューした生徒は、未来社会を想定したうえで、そこで自分が役立てる人間存在として立ち臨めるようになることを見通していたが、そこには、客観的な社会の分析のあとに、自分事に引き込んでいく過程をたどるトレーニングがちゃんとあったのだ。
キャリアデザインのプログラムには、外部講師の講演や仲間同士のコラボも織り込まれている。そこでも、大事なのは、そのときにコミュニケーションする「ことば」である。
たとえば、自分の存在を知り・創るワークシートの項目はこうなっている。
・好きなことは何ですか?
・好きなことの理由
・好きなことの具体的な内容
・それを自分の生き方に反映するとしたら・・・
辰巳先生は、『「トピック―ディテールセンテンスィズ―ディシジョン」というパラグラフライティングの構造化は、ここでも生きていますね』と。カリキュラムイノベーションを生み出す教師そのものの教養の深さが目の前に開かれた瞬間だった。