順天中学高等学校(以降「順天」)は、10年以上前から「グルコミ(GC:グループコミュニケーション)」を行っている。中1から6年間、あるいは高1から3年間、月に1回から2回行われている。
その理由は、大学や就活でコミュニケーション能力が必要だから行っているのかというと、そういう目先の準備のためではない。進路先準備のためのコミュニケーション能力でなければ何のためだろう。その新しい切り口を求めて取材した。 by 本間勇人:私立学校研究家
情報革命時代のコミュニケーション能力
グルコミ(GC)が始まる直前、全校集会があった。長塚校長は、変化を見極めいかに生きるか、時代の転換期における生徒たちの術と責任について語った。
変化とか転換は私たちの人生を左右する。小さな日常的な変化も人生を豊かにする出来事になるかもしれない。もう少し大きな転換というと、来年から消費税が上がったり、2020年には東京オリンピックがあったりと、社会に影響を与えるものもある。
しかし、それは生徒たちが生きている間に起こる変化であり、それだけ見て、対応しようとするのでは大事なものを見過ごす可能性がある。というのも、実はそのような変化に影響を与えているものすごく大きな変化があることを見逃してしまうからだという。
生徒たちに目の前の変化の性質を見抜くように諭された。しかし、その変化が小さなものであろうと、中くらいのものであろうと、大きなものであろうと、翻弄されつつもなんとか生きぬこうとするのが人間であり、そのスキルさえ身につければよいのではないか。それがグルコミのねらいなのではないかとふと思ったが、それは浅薄な考えであった。次の瞬間、長塚校長自身がその壮大な意図を生徒に明かされた。
(左から長塚校長、片倉副校長)
アルビン・トフラーの「第三の波」という本を例にとって、私たちが生きているずっと以前、つまり約15000年ほど前の転換期から話しはじめた。目の前の変化に翻弄されている生徒たちは、その壮大な歴史のパースペクティブに一気に連れて行かれた。
第一の波は農業革命。それ以前の狩猟採集社会を、農業技術によって転換した。第二の波は、200年ぐらい前の産業革命。工業技術によって、農耕社会から産業社会へと転換。
私たちはこの産業社会に住みながら、第三の波脱産業社会を迎えている。世を騒がせているグローバリゼーションやタブレットだとか携帯による目の前の生活の変化も、実はこの脱産業社会、今でいう情報革命の大転換によるものだろう。
本学園の歴史は、福田理軒による順天堂塾からスタートしたが、理軒は「数は宇宙に在りて術は人に在り」と述べている。この精神が本校の建学の精神「順天求合」であるが、人類が誕生してからの壮大な歴史の転換という法則を知り、その転換のいかなる時代も道を切り拓いていく術を磨かなければならない。
もちろん、術だけ磨いて、時代の転換の意味を見誤れば、グローバルな情報社会・インターネットの社会では、一瞬にして世界を恐怖に陥れることにもなりかねない。
しかし、大きな転換の意味を深く理解し、そうならないように責任を引き受け、術を問題解決のために使えば、良い方向に社会を導くことができる。互いに理解し合い、受け入れ合い、豊かな社会、災害時にもお互いの安心安全を守ることができる社会をつくっていくことができる。
長塚校長の講話は、グローバルな社会や情報革命の社会にあって、どのような責任とどのようなコミュニケーションをとれば善き社会をつくっていけるかという生徒への問いかけだった。
なるほど。グルコミをGCと呼んでいるのは、実はグループコミュニケーションの背景にグローバルコミュニケーションがあり、第三の波に備えて行われているという意味が含まれていたのである。
進路先準備ではなく、時代の大転換期で生きる準備として行われていたのである。