戸板の入試改革「思考力問題」(2)

算数の思考力問題

岡先生:算数では、大問6番目が思考力問題です。「アニメ番組が好きな人は、絵を上手に描くことができる。読書が好きな人は、アニメ番組が嫌いである。絵を描くのが下手な人は、読書が好きである。おしゃべりが苦手な人は、読書が好きである。」という4つの条件があります。

この4つの条件から、たとえば、A「絵を描くのが下手な人は、おしゃべりが苦手である」という結論は正しいかどうかを考える問題です。

条件を見ると、絵を描くのが下手な人は、読書が好きであるというのはわかります。おしゃべりが苦手な人は、読書が好きであるということもわかります。つまり、絵×→読書○、おしゃべり×→読書○となります。

もう1つB「おしゃべりが苦手な人は、アニメ番組が嫌いである」という結論は正しいかどうかを考える問題があります。

条件を見ると、おしゃべりが苦手な人は、読書が好きであるとういのはわかります。読書が好きな人は、アニメ番組が嫌いであるということもわかります。つまり、おしゃべり×→読書○、読書○→アニメ×となります。

AとBの結論の導き方の違いがわかるかどうかです。三段論法がわかっていてもいなくても、論理的に考えていけばできるはずなのですが、言葉で表現されていますし、どちらも「読書○」を媒介していますから、先入観で、ぱっと、AもBも正しい結論と出してしまうかもしれません。Aの場合は必ずしもそうならない場合があることに気づいて、へえと驚くような生徒と出会えたらと期待しています。

原田先生:大問6番の問題を大問4番と比べると、そのことがはっきりします。言葉の意味にこだわると、現実はどうなのかという余計な情報を挿入することによって論理的に考えることを阻害してしまいます。与えられた情報だけから論理を組み立てるというのが、数学的でおもしろいと思います。

岡先生:大問4番はどちらかというと具体的事柄から一般化していく論理ですが、大問6番は、論理の適用ですから、真逆の思考様式を見ることになるかもしれません。算数・数学はそれ自体すでに思考なのですが、今回チャンレンジして、思考の方向性や次元が多様であることが改めてわかりました。生徒にも多角的に思考する問題を投げかけることが重要であると気づきました。

国語の思考力問題

長谷川先生:一つは論理的文章から出題しています。読解問題の途中で問いますから、生徒によっては、途中まで読んで考えるかもしれないですし、全体を読んで筆者の考え方にそって考えるかもしれません。

「手で食べものをじかにとってもよい」「食べものを手でじかにとるのはよくない」のどちらの立場にたつのか意見を書く問題ですが、一般には筆者の考え方を要約し、それにそって自分の考えを書かせる問題が多いと思いますが、今回はそうしていません。

それは、要約力ではなく、その生徒の言葉の力をみたいからです。試験という限られた時間の中で、どれだけ自分の体験を出せるかということです。この体験を引き出すところは論理を超えたセンスだと思います。

おにぎりの例を出して文化的な違いを根拠とするかもしれませんし、衛生面の話題を出すかもしれません。文章にこだわるともしかしたらオーソドックスな回答になるかもしれません。自分の体験から根拠を引きだしてくると非常にユニークな回答になるかもしれません。

採点は論旨が一貫していればよいわけですが、それは生徒自身の考え方の一貫性もよしとするのです。その生徒自身の言葉の力、つまり、表現は論理ですが、根拠の引き出しは感性ということです。

もう一つは文学的な文章から気持ちを説明する問題です。典型的な「行動理由→反応」を説明する気持ちの記述の問題のようにみえるのですが、その理由の部分が複合的だし、ジレンマを感じ取るセンスがポイントです。

表現は「行動理由→反応」という心情がでてくる因果関係の論理が必要ですが、どういう理由を引き出してくるかは、物語の文脈の枠内ですが、ある程度自由な発想ができます。自由な発想と論理的な表現。これが国語の入試問題における思考力問題のビジョンです。

社会の思考力問題

原田先生:紅白歌合戦視聴率の推移グラフとインターネット普及率の推移のグラフを提示して、2つの推移の関係を考えさせる問題を作成しました。

グラフを提示して、そのグラフが何を意味しているのか記述する問題は、一般的にも、入試問題ではよく出題されるわけです。東大の地理の問題も形の上では同じです。

しかし、それらの問題は、関係があるという前提、ある意味を示唆しているという前提がありますから、結局はグラフをきっかけに知識を引き出してくることがねらいにあり、書き方はいろいろあるでしょうが、正解は一つです。

ところが、この思考力問題は関係があるでも関係がないでもよいのです。どちらの結論に導くにしても、テレビ体験やネット体験という自分がいつも感じたり考えていたりすることを引き出してきて、論理を組み立てて欲しいのです。

社会科はやはり社会的な現象から社会的法則をどのように抽出できるかというところで思考力を発揮してもらいたいのです。ですから、その法則が知識として既知になってしまっているグラフを提示すると、知っている生徒は知っている、憶えていない生徒は憶えていないという点差だけで終わってしまいます。

大橋先生:この違いが実におもしろいですね。ユニークな考え方や発想を引き出すことができる問いかけかどうかは、パッと見てもわかりませんね。受験生自身がこの違いがわかっただけでも相当将来が楽しみな思考力の持ち主であるということがわかります。

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