センター試験が廃止されるかもしれない。知識偏重1点刻みからの脱却が大きな理由。大学入試の改革がいよいよ実現するか。そんな話題が、今日、グローバル人材育成の教育政策と並行して喧しい。
しかし、もう10年以上も前に、富士見丘は、知識偏重・偏差値重視入試とは違う入試改革を果たしていた。そして、生徒の学力を飛躍的に伸ばし、才能を開花してきた。教務部長板垣先生、教頭大島先生に聞いた。by 本間勇人:私立学校研究家
(左から、教務部長板垣先生、教頭大島先生)
板垣先生:本校には、既存の知識を問う入試問題とは違う「WILL入試(既存の学力レベルよりも、学ぶ意欲を高く評価する)」があります。知識を問わないと言えば、すぐに応用問題となるかもしれませんが、本校のWILL入試は、まったく発想が違います。
受験生が本校で何を学びたいのか、その意志を測る入試問題です。やる気や意欲、それを実現するために地道に努力していく資質をみる入試です。
もう10年以上前からはじめ、その追跡調査の結果、意欲や努力、あるいはモチベーションのある生徒は、学力も飛躍的に伸びますし、なんといっても学内で活躍します。リーダーシップも発揮するということがわかりました。
当初はまだ仮説でしたが、WILL入試と同じ考え方の入試問題を「新傾向問題」という名称で、一般入試にも埋め込みました。試行錯誤しながら、模擬試験やペーパーテストで測定できない能力も測れるようになりました。
これによって、やはりやる気のある生徒や地道に汲み上げていく力を持っている生徒が伸びていくという実感をもっています。
大島先生:入学時の得点と卒業時の成績のデータベースはつくっています。それを分析すると、生徒の学力のポートフォリオがわかります。そういう地道な探求も私たちはしています。
それをベースに試行錯誤しているわけです。そんな中で、WILL入試や「新傾向問題」ができてきました。
板垣先生:「新傾向問題」は、今でいう「思考力型の問題」の一種ですが、一般の思考力型問題が認知領域の論理的プロセスの手順に従って出題するのに対し、本校では、WILL入試の考え方を反映しています。つまり、意志、意欲、本校でがんばりたいというやる気もみることができる問題です。
設問も長いですし、考えるプロセスも道筋をつけて系統化しながら考える問題です。長い文章を読まなければならないし、記述式ですから表現もしなければなりません。解答欄も大きいですから、どうしても集中力とか諦めないで解いていく忍耐力ややる気が必要です。
この集中力とか諦めないという気持ち、忍耐力、やる気は、心情的な性格や道徳、身体能力ではなく、これも認知能力の1つだと本校は考えています。
与えられたものをじっくり読み解き、それを使って、自分自身の知識や体験と結びつけて、新しいものを創り上げていく。そのような地道に努力していくトータルな学力を本校では教育のアドミッションポリシーとしています。
大島先生:WILL入試や「新傾向問題」としての思考力型問題は、そのアドミッションポリシーを具現化しています。一般に本校のアドミションポリシーに賛同するところは多いと思いますが、それを入試問題にきちんと反映しているところはそうないと思います。どうしても大学入試問題から逆算して、高校入試や中学入試、模擬試験が作成されてきましたから。
ところが、最近話題になっているIB(国際バカロレア)のTOK(思考を思考する学び)のダイアグラムには、考える方法(Ways of Knowing)として論理、言語に感情、感覚まで含まれています。最近では、これ以外に信念、記憶、本能、想像まで含まれるのではないかという議論がされていると聞き及びます。
富士見丘のアドミッションポリシーはグローバル教育にも密接に関係しているのです。
板垣先生:従来型の大学入試問題のような一連の問題は、たしかに論理的で客観的にできています。しかし、考えるということは、はたしてそれが本当に論理的なのか客観的なのか相対化して「考えること」です。
入試問題では、提供されていることを、そのまま丸ごと受け入れて、その提示された中だけで解答は得られます。ところが、本当はそれがそれであるという検証は、それがそれでないということを証明しなければならないのです。
そうではないものについては、与えられたものにはありませんから、自分で呼び覚ます必要があります。この過程を飛ばして、考えていくことは、思考を実際に使うことにはならないでしょう。
本校では、思考している自分を相対化できる「思考力」を育成したいし、そうでなければ既存のものに新しいものを組み合わすことができません。
そのアドミッションポリシーを具現化したという意味では、富士見丘スタンダードを確立したと自負しています。
大島先生:同時にそれはグローバルスタンダードでもあるのです。