桜丘のイノベーション 教育の質JUMP (2)

品田副校長の話をお聞きしていると、本当によくリサーチしているし、なんといってもご自分の授業にその成果を盛り込み、何度も改善していることがわかる。iPadが授業を変える。そして、それが生徒のものの見方や考え方・感じ方のJUMPにつながる。

変わる授業

品田先生は、ご自身の小説の授業のイノベーションについて、iPad miniから再現しながら語ってくれた。素材は本ではなくて、DVD。ロビン・ウィリアムス演じる破天荒な教師ジョン・キーティングと生徒と父親との関係性、伝統と自由の関係性などを描いた学園ドラマ。名門エリート高校が背景だから、私立学校に通う桜丘生にとっては、他人事ではない。

ICTを授業に導入することによって、素材選びの幅が広がり、与えられた教科書の素材にこだわる必要はない。ジョン・キーティングさながら、教科書の外に出よ、世界は今君たちの目の前にあるのだ。そこから出発しようということになる。だから身近な世界に、生徒たちが自らを重ね合わせながら、自分が世界と関係しているのか考えたくなる高感度なアンテナを立てることが可能になる。

しかも、何度も生徒たち1人ひとりが気になる場面を再生することができる。リフレクションの再帰性を何度も、しかも生徒同士が起動できる。

たとえば、学生トッドが手紙を書いているシーン。ほとんどの生徒が、手紙をかいているなあぐらいで過ごしてしまうところなのに、何を書いているかに気づく生徒がでてくる。その指摘を受けて、再生すると、そこには“dreaming”という言葉がある。しかも、“dreaming”の前の言葉は黒く塗りつぶされて、その上に“dreaming”が書かれている。

生徒たちは、消される前に書かれていた言葉は何だったのだろうとか、“dreaming”は、ここでは何を意味するのか、文脈を議論しあう。品田先生は、リーディングリテラシーをトレーニングするのに、何も古典のテキストばかりを使う必要はない。コンテンツを理解することとコンテンツを読み取ったり、気づいたり、そこから想像を膨らませる方法は切り離して考えてよいのであると。

生徒は映像と文字の違いも感じ取る。その違いに気づくことが、今度は文字ベースのテキストのリーディングリテラシーの視野も広げ深く考えるトリガーになるのであると。

登場人物の関係性は、価値観の葛藤である。学びのものの見方がJUMPするのは、たとえば、こういうシーンに気づいた時であると。映像よりテキストの方が文字情報が多い。ともすると、その関係性は文章の中から書き抜いて済ましてしまうこともあるだろう。

しかし、リーディングリテラシーにおいて、テキストに何が書かれているかを確認する能力はレベル3ぐらいの評価で、その書かれているところをどのようにクリティカルに、最終的には創造的に思いを巡らせ、自分なりの価値判断をするのかというレベル7(最高レベル)までJUMPできるかが求められている。それが世界標準である。

なぜ桜丘生は世界標準のものの見方や考え方・感じ方にJUMPできるのか

ところが、今までの授業は教科書ベースだったから、教科書に何が書かれているかの確認で終わっていた。なぜか?時間がないからである。コンテンツの中身を確認したところで時間となってきたし、大学入試も素材文の論理的な文脈を確認する程度のものしか出題されてこなかった。自分の考え方は問われなかったのである。

そのような世の中は、89年にベルリンの壁が崩れたときにとっくに終わていた。そこから、MITメディアラボは、ICTを介して、子どもたちが思考を形として表現するlearnnig by makingという新しい学びの理論を開発した。今やそれは新しい構成主義的学習観として、現行の学習指導要領の中に盛り込まれているぐらいだ。

この学習理論はICTを介することが大前提。そこでPCや電子ボード、タブレットというハードが次々と教育現場に舞い降りてきた。しかし、現場でどう使うかの議論に終始して、とても授業で活用というところまでに到っていないのが実情である。ICTの活用で、情報の確認の時間を圧縮し、子どもたちが考える時間、想像する時間、議論する時間を創り出そうという意図は消失してしまっている。

そこで、品田先生は、数々の現場の実情をリサーチし、自校でそのような轍を踏まないように、用意周到に研究してきた。

とくに、新しい学びの理論の源流であるMITメディアラボの情報にはアンテナをはりリサーチした。その結果、MITメディアラボの伊藤穰一氏及び同研究所の石井裕教授の考え方とシンクロすることに気づいた。

それが「翼とコンパス」、そして「破壊と創造」という桜丘の教育のビジョンに結晶した。授業も、今や米国で話題になっている反転授業、つまり、子どもたちが考える時間、想像する時間、議論する時間をたっぷりとれる授業に変わりつつある。

もちろん、なんといっても、ジョブスのビジョンを尊重している。1997年、ジョブスが再びアップルに戻ってきたときの宣伝“Think Different”を、先日の副校長講話で、中学生にメッセージとして流した。そして、品田先生はこう語る。「このときジョブスは、製品を宣伝しなかった。ただ言葉と理念だけをアピールしたのです」。桜丘の教育イノベーションのルーツはここにある。

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