工学院 平方新校長「21世紀型工学発想と思考デザインの時代へ」

今年、工学院附属中学校・高等学校(以降工学院)の新校長として就任された平方邦行先生は、一般財団法人東京私立中学高等学校協会(以降協会)の副会長として、グローバルな時代における21世紀型教育のビジョンを掲げ、全国の私立学校にその探求・開発・実践を提唱してきた。今回新校長として就任した工学院の教育についてインタビューした。(by 本間勇人:私立学校研究家) 

 

 

 

 

■ 工学院のビジョンは、今もなお教育を通して社会貢献することだということですが。

工学院のビジョンは、創立当初から一貫しています。明治近代国家を建設する時から、工学院は人材育成にかかわっていますが、ご承知のように、その時代は、工業立国をめざしましたから、すでに世界標準の考え方、つまり科学や工学の基礎を学んだ多くの先達者が輩出されていました。工学院創設に尽力した帝国大学総長だった渡邊洪基、日本建築家第一号である辰野金伍もそうでした。

彼らは当然外国語を学び、科学的思考を探求しました。そして、日本近代国家をつくり世界の列強とともに人類にとって幸せな社会を創ろうとしたわけです。

もちろん、歴史はそううまく進まなかったのは周知の事実ですが、その悲惨な出来事を二度とふたたび起こさないために、世界の痛みをなんとか解消するために、工学的発想の力で自然と社会と精神が循環する幸せな世界を構築するために今も邁進しています。

 

 創立当初からグローバルで、イノベーティブで、社会をつくるフィロソフィーがあったわけですね。それを今どのように工学院の教育で実現するのでしょう。

工学という科学から出発している本学院は、世界標準の言語と思考から出発しています。そして歴史的に新しい国家をつくる役割を担ってきました。ですから、この創立当初のビジョンを、本学院中高では、「挑戦」「創造」「貢献」というキーワードで表現しています。

グローバルな時代の変化に「挑戦」し、さらに変化を「創造」し、それを通して社会や世界に「貢献」していくわけです。

そうなると、当然「英語」はグローバルな市民とコミュニケーションするツールとして必要になってきます。知識を詰め込む受験準備のための勉強ではなく、イノベーションを生み出せる「科学的思考力」の育成が重要になってきます。社会や世界を構想する「思考デザイン力」の養成が欠かせないのです。

 

■ 工学院の創立当初からのビジョンを現代化するということなのでしょうが、具体的にどういう教育活動を通して行うのでしょう。

ビジョンの現代化というより、バージョンアップという感覚。もともと「英語」は必要だった。イノベーション教育も実践してきた。デザイン思考も大事にしてきました。

しかし、グローバルな時代では「英語」の使われる場や役割がレベルアップしています。「イノベーション」も産業という限定的な意味ではなく、広く生活全般にフィールドを広げています。「デザイン思考」も同じように工業立国のために限定的でしたが、今はエコロジカルな発想も必要です。

それになんといっても一人の天才や秀才が設計する時代から、多様な価値観をもった人々や専門分野の人々と協調しながらより普遍的で実用的なデザインを構想していく時代にシフトしています。共に生きる力と言ってもいいかもしれません。それはICTの技術やデザインの目まぐるしい進化に端的に表れています。

 

 

■ バージョンアップのための具体的なツールとか方法論のプランについて。

まずは「授業」のイノベーション。知識を伝達するだけではなく、対話も交えるPIL(Peer Instruction Lecture)、また工学院大学ではすでに行っているPBL(Project Based Learning)。対話や協調学習を授業の中に取り入れるのは、21世紀型教育の流れでもありますから。学ぶ力、学ぼうとする力、共に学ぶ力を育成する方法でもあります。

そして、このような授業が徐々に展開されていけば、入試問題も、思考力をみる問題を前面に出せるようになります。もちろん、いきなりは難しいかもしれません。21世紀型というより20.5型くらいのバージョンアップから始まるかもしれません。

さらに、この21世紀型授業が展開されるようになれば、進路も難関大学や医歯薬系の大学以外に、海外大学への道も開けます。特に工科大学系は、英米やシンガポール、オーストラリアなどに世界大学ランキングの上位の大学がたくさんあります。自分のやりたいことや好奇心を活かすチャンスは世界に目を向ければさらに開けるでしょう。

入試の話に立ち戻りますが、そういうグローバルでイノベーティブな学びの環境が展開していくと、帰国生入試も大きく展開できるようになるでしょう。

工学的発想で大事なことは、ビジョンの一貫性です。それを貫く活動をしていけば、自ずとバージョンアップをせざるを得ないモチベーションが学内でメラメラと内燃するでしょう、それは実にワクワクするプレイフルな雰囲気をも生み出します。その雰囲気が生徒に必ず良い影響を与えます。期待していてください。

 

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