順天 世界標準の国際教育(2)

ジャッジをシェアするⅠ

最初に中学生のレシテーションコンテストを見学した。中1の生徒の発音の良さ、自然な抑揚、テンポがネイティブに近いのではないかと感心していると、国際部長の中原先生(数学)が、こう教えてくれた。

「ここ数年、レベルが上がってきて、ジャッジするのは相当難しくなっています。発音、そうrとlの違いも含めてですが、ともかく発音も相当トレーニングしてきます。抑揚やテンポもそうですね。だから、結局、音声やボディーランゲージでは差がつかないのです。」

するとどうするのかと尋ねると、とにかく教師側が議論して、ジャッジの視点を進化させていくしかないというのだ。つまり、レシテーションコンテストは、伝統的な行事ではあるが、評価というモノサシの精度は、生徒の努力と共に変容していくという、まさに不易流行であることがわかった。

そして、隣で話している中原先生の眼をみて驚いた。何をそんなに見つめているのですかと尋ねると、

「いや意識して見つめているわけではないのです。ただ、音声などデノテーションのデータを集めても、差がつかないので、伝えている内容が、会場の参加者に伝播しているかどうかを見ているのです。結局物理的・外形的要素では見分けがつかないので。

つまり、レシテーションは、与えられた英文を語るわけですから、自分の言葉で書いたわけではない。しかし、意味を自分で考え、感じ、それを自分の言葉として質を変えて語っているかということです。そして、その内包されたコノテーションとしての意味が、伝わっているかどうかなのです。」

もし、そこを1人の教師がジャッジしたら、主観ということになってしまう危険性がある。それで、先生方が深い激しい議論をすることになるのだということが少し了解できた。そして中2の生徒の番になるころに、高校生のレシテーションコンテストとスピーチコンテストを行っている「北とぴあ」のホールに移動した。自体は一変した。

本格的ホールでは、チャップリンやキング牧師、ラッセル、マザーテレサになりきったスピーカーから飛び出してくる英語が響いていた。たしかに、自分の言葉ではない。しかし、人の心を動かし、社会を動かす言葉とは、何か大切なものを伝えているということは、私でもわかった。中学生以上に、高校生は慣れているから、たしかに音声だけでは判断しにくいが、伝えてくるものが圧倒的であるかどうかの違いは鮮明だった。

もっとも、中原先生は、高校生になると子音の発声に関しては差が出るから、そこはジャッジの判断材料になるという。さすがは長年イギリスで研究していた経験がモノサシになっていると思った。

そして、その瞬間に、なるほど、このレシテーションコンテストという行事にも、世界標準の国際教育が反映しているし、ボランティア精神を培う福祉教育が結びついている。何より、時代をつくった偉人の言葉は、進路を考えるロールモデルでもある。

このコンテストは「英知をもって国際社会で活躍する人間を育成する」というビジョンが、「進学教育」「国際教育」「福祉教育」の3つの教育によって結晶化している。なるほどなるほど、そうなのかとわかった気になった。しかし、次のスピーチコンテストで、まだまだ理解が浅いということを思い知った。

生徒たちは、自分らしい夢を語った。想いを語った。

身近な生活や動物に深い愛や感謝の心性を見つけるその視点は、「福祉教育」の成果であった。

グローバルな時代に英語を活用して海外の活動に挑戦することはアイデンティティを自ら作ることであるという自己マスタリーは、国際教育と進路教育の成果であった。

一方で、他国にはない概念を表現できる母国語というローカルな文化を大切にする視点を忘れるなという考えは、3つの教育が統合された形だった。

その都度、中原先生は、スピーチの着想や展開の創意工夫について解説してくれた。印象的だったのは、Eクラスではない生徒の作成した英文それ自体はそれほど難しくなかったが、人間の苦しみと幸せの葛藤のストーリーの創意工夫を高く評価していたところである。順天の学びの成果や評価は、1点刻みの得点では表せないところも見逃さない。

「偉人たちのスピーチから学ぶべきことを、生徒は学んでいますね。聴衆に響く言葉を選ばなければならないし、センテンスも関係代名詞などでつなげていては伝わらないということなどです。共鳴するテーマ、感動するストーリー展開。もちろん、それには適切な音声があってはじめて生きてきますが。」

言葉が、人の心を動かし、社会を動かす。もはや順天の英語教育は、コミュニケーションやディスカッションのツールという域を超えている。ツールで、人の心は動かない。社会は動かない。言葉が人格そのものにならないとという境地。

ところで、その境地に達しているかどうかをジャッジするのは誰だろう。そんなことを思っているうちに、表彰式の時間となった。

 

 

 

 

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