富士見丘 授業がクリエイティブ(1)

グローバル教育、アクティブラーニング。この言葉を聞かない日はない。それほど教育界は21世紀型教育が本格稼働し始めた。富士見丘はその先駆的存在であるがゆえに、先生方は何を今さらと冷静だ。それもそのはずである。日常の授業がすでにクリエイティブなのだ。

何も大げさな一年間かけるプロジェクト型学習やアクティブラーニングのようなイベント型学習を声高に宣伝する必要はないと。とはいえ、個人によって違うが、3年から6年もかける大型プロジェクトベースドラーニング「5×2」も20世紀末にスタートしている。

世の中相対的に変わろうとも、アインシュタインは絶対的光速を見出した。20世紀は相対的価値に目が向いていた。しかし21世紀は、富士見丘とともに光速のフォースを大切にする。フォースは、イベント型学習のみならず、ふだんの授業にも存在する。光速のクライテリアがあるからこそ相対的価値は生まれる。by 本間勇人:私立学校研究家

これは中1の英語の授業のシーンの一コマ。ここにすべて富士見丘の英語の質のフォースが存在している。英語の構文は、まだ“Is it・・・?”と“Is she・・・?”を学んでいるのだが、それをインタラクティブにそしてクリエイティブに、もちろんアクティブに行っている。

最初は、プレゼンテータは仲間に自分の背後にある動植物について、英語で質問する。さきほどの構文で。それは、コンテンツと英語のシンタクスをクリエイティブでロジカルな思考で解答を導き出すたいへんな思考作業である。

次のステージでは、プレゼンテータが、クラスみんなに説明をする。もちろんそれが何であるか、名前を言ってはいけない。プレゼンテータは条件を語り、クラスのみんなは、その条件をロジカルに組み合わせて、背景から何が現れるか考えるのである。

インタラクティブといっても、与えられた英文をシャドーイングでトレーニングするのとはだいぶ違う。問いを考える側、解答を考える側。ここにはイメージをロジックで考えるという、デザイン思考とシステム思考の往復が行われている。この問いの構築という意味でインタラクティブなのだ。

気づきだとか問いを立ち上げるとかが21世紀型教育が導くことであると言うは易い。でもその前に、問いを構築するスキル、それはイメージとロジックの連合のトレーニング。いつやるか、それこそ今でしょ。つまりふだんの授業においてである。

授業終了後、大島教頭は、小田先生にこう尋ねた。

「電子黒板とパソコンを全面的に活用していながら、マシーンの特徴よりも対話的な雰囲気のほうが勝っていたけれど、そこは理由があるのかい?」

すると、

「電子黒板があるからこそそれが可能になります。ふだん私たちが対話する時、ノイズが頻繁に挿入されると、対話のテンポがとぎれ、おもしろさがわきあがってきませんよね。プリントや紙媒体のテキストを使っていると、何枚目のプリントを見てだとか、先生忘れたとか、テキストの何ページの何行目を見ようとか、とにかく操作性の高い言動が増えます。そんな対話はおもしろくないし、楽しくないと考えないものですよ。授業において5秒10秒のテンポが大切です。1分待ってねというような中断の言葉はないほうがよいのです。」

と小田先生は、ご自身のふだんの授業観を披露。ICTを活用するのは、むしろ人間味あふれる対話を授業で実現するためだったのである。ICT教育はこくでなければと思わず納得した。

また大島先生は、こんなこともたずねた。

「ディクテーションの場面で、中1の今の時期、まだ英語に慣れていない生徒もいるだろうに、いきなり習っていない英文を活用していたね。」

すると、小田先生は、こう応えた。

「英語はもともと未知のものですから、未知の状態からどうやってアプローチするのか考えるという瞬間は必要だと思っています。もちろん、ファシリテーションばかりでなく、単語や英文のルールも講義するのです。しかし小さな未知の体験をするから、それをどうしよというアクションにつながります。その問題解決への行動のものの味方や感じ方は、グローバル時代には必要です。海外に行くと、それから海外から訪れた外国の方々と出会うと、どんなに準備していていても、知らないことの方が多いのですから。」

大島先生は、こう口ずさんだ。

「帰国生もいっしょに英語の学習をしているけれど、自然な人間関係ができているのは、互いに未知の部分を知ろうとする意欲がわく授業になっているということだなあ。」

富士見丘の授業には、アクティビティもディクテーションも、考えれば手が届く、対話すればイメージがわく、「発達の最近接領域」に位置付けられた未知への問いが仕掛けられている。自由な学びが好奇心を培うというような無責任な教育はしていないのである。

 

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