工学院 HBインタークラスの英語教育 準備開始

工学院大学附属中学・高等学校(以降「工学院」)は、2015年4月から中学の新クラスを開設する。それは「ハイブリッドインタークラス」「ハイブリッド特進クラス」「ハイブリッド特進理数クラス」の3つ。ハイブリッド(HB)というのは、数学や理科などでも英語を交えながら授業を行っていく予定だからである。

21世紀型教育の重要性を認識し、グローバル教育をけん引している同校にとって、各教科でイマージョン率を徐々に高めていくのは当然だということだ。来年クラスを新設するために様々な取り組みがなされているが、今回は中1の英語体験者・帰国生のための取り出し授業を見学した。by 本間勇人:私立学校研究家

昨年平方校長が就任して、工学院の校訓である「挑戦」「創造」「貢献」の精神を21世紀型教育と結び付けていくビジョンを学内で共有していった。そして新クラス開設のアイデアが結実したわけであるが、その瞬間に、入試要項は就任前に決まっていたものであるから、急きょビジョンに合わせて一部付け加えた。

それが帰国生や英検4級以上取得の英語体験者の募集だった。そして、まだその応募者のためのクラスはできていないから、中1は、特別に英語の取り出し授業を開くことになった。それがキング先生による英語の授業である。

キング先生の授業は、アイスブレイク→リーディング(ボキャブラリーの意味を問う:もちろんすべて英語)→トランスレート→ホームワーク(ビデオなどを見て、そのストーリーをノートに英語でまとめる)→ノート提出という流れ。

アイスブレイクでは、一人の生徒がホワイトボードに絵を描き、それが何か英語で解答する。しかもキング先生は、絵を描くのを途中で「ストップ!」と言って、止めて、部分から全体を想像させるというゲーム的要素を交えるから、盛り上がる。

ジェスチャーゲームも同様だ。ここで大事なのは、お題については、キング先生は、協力してくれる生徒と他の生徒に聞こえないようにひそひそ話しをしながら相談をする。そのときもちろん英語で行われる。

英語の能力は帰国生のようにほぼネイティブスピーカーという生徒もいるし、英検4級という生徒もいるわけだから、生徒の能力に応じてコミュニケーションしていく細かいケアが行き届いている。もちろん、これは信頼関係をつくったり、ストレスをさげるケアであるが、何より1人ひとり違う「理解」の「最近接発達領域」にマッチングさせる教授法なのである。

この段階の効果について、キング先生は「身体も脳も動きがでなければ授業はできないないから、まずはゆさぶるのです。開放的になり、想像力もわいてくるし、何より自分の現段階でもっている英語の力をフルに使って、英語でコミュニケーションしようという意欲がわくのです」と。

意欲が内燃したところで、リーディング。今回はジャパンタイムズの記事を使っていた。高校2年生のテキスト(キング先生は、このような自由自在なテキストが使えるのは、この授業は「無段階」だからだと語る)を使うときもあるということだ。帰国生レベルといえども、中1は中1である。国際政治経済の文章は易しくない。

つまり、能力のバラつきがあるから、みんながチャンレンジしなければならないレベルの文章を活用するのだろう。なるほど、まずは、意欲が内燃しなければならない理由がここにあったのである。

生徒は、あらかじめボキャブラリーを英英辞典で調べてきているから、英文を読みながら、キング先生に問われると、その内容を読むが、果たしてそれが「理解」に結びついているのか、徹底的に問いかけられる。今回はウクライナの分離独立問題のニュース。“rebels”という単語がでてきた。キング先生はその意味をまずは問う。生徒は調べてきているから応えることができる。

しかし、それでは「理解」してきたかどうかはわからない。それをチェックするために、スターウォーズにおけるジュダイとダースベーダの関係に置き換えてどう考えるのか、それはなぜかをキング先生は問う。

分離独立の政治的問題を「理解」しているかどうかをチェックしたときは、北海道が新国家を樹立しようとしたら、みんなはどう考えるのか、その理由はとやはり問うていた。

実は、この問答は、エンパワーメント教授法でもある。テキストと似た構造の現象を、I think・・・・・・because・・・・・・のフレームで考えるディスカッションの一端をトレーニングしているのである。たんじゅんに英単語を憶えたり、英文テキストを日本語に置き換えるだけではなく、「適用」できるまで「理解」しているかどうかにチャレンジさせている。そして、生徒がなんとか解答するたびに、褒める。その度に、生徒は自信がつくわけだ。その繰り返しが徹底的に行われるのである。

授業終了後に、生徒にインタビューしたところ、「小学校の時は、単語と絵を一対一対応させていく授業だったけれど、キング先生は、1つの言葉からイメージやエピソードを広げてくれるから、頭が回転してすごく楽しいのです」と明快に説明してくれた。まだ中1という先入観をもっていた私は自らを恥じた。

キング先生に、日本語でも難しい内容を中1で使うのに、文法は学ばないのですかと尋ねると、

「文法は大切だけれど、『理解』の方法は、文法のアプローチだけである必要はないのです。『理解』は、ことばの音、イメージ、アクション、他のエピソードとのリンク、フィーリングや気づきなどいろいろなものが連合するアプローチでも可能。いまはモチベーションを、興味と関心の心をもつことが大切ですからね。今のところ、文法は今まで自分が体得してきたレベルでよいのです。それでなんとか『理解』していく。しかし、夏休み以降は『文法』を学びます。『文法』を知ると、コミュニケーションの技術があがることが実感できるようになります。『理解』のアプローチは順番をどうするかです。私は、いきなり『文法』からはアプローチしません。でも生徒たちは、すでにかなり高いレベルに向かっています。高2のテキストだと知らずに、すでに理解していますからね(笑)。」

21世紀型教育では、英語は文法は重視しないと時々言われるが、体験的に理解してきた英語を、あとから文法によって意識する(メタ認知)という順番の問題であって、重視しないわけではないということが理解できた。

英語を理解する技術としての文法から、体験を通して理解した英語を軌道修正するモノサシ(メタ認知)としての文法へ。キング先生の授業は、21世紀型の英語の授業として革命的な授業だったのである。

 

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