工学院 PIL×PBLで数学的思考

工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」)は、世界標準の教育を目指している。そのためには、授業改革が最優先事項であるとし、講義型→PIL×PBLにシフトしている。すでに国語と英語と化学はそのプロトタイプづくりに着手している。社会科は新聞を活用した大型のプロジェクト学習が確立している。

当初数学は難しいのではないかと思われていたし、多くの学校でもそのイメージが濃厚である。ところが、工学院の数学の先生は、次々と翼を広げ飛びたっている。by 本間勇人:私立学校研究家

奥津先生(進路指導部部長)は、個人ワークシートとグループワークシートに小さくそして大きな飛躍のための仕掛けをする。生徒は個人ワークのときは、演習さながらであるが、それがグループワークになったとたんに、演習という具体的な体験から数学的発想へと一般化する議論をしていることに気づく。

一般化を組み立てるにはどうしたらよいのか。議論は尽きない。あるところまで来たら、黒板に各チームの結論を集約する。すると、意外にも数学でもいろいろな考え方がある。

結論に関して当然証明をしなければならないから、生徒たちはプレゼン。直感的な説明が多い中、2つ見事な論理が発表された。1つは、個人ワークの時に解いた具体的な問題を活用して帰納法的に結論付けた。

もう一つのチームは、「1としたほうが計算上の都合がよいからである」と。クラスのみんなは、あっけにとられたが、奥津先生は満面の笑みを浮かべて、それでよいのだとその段階でやっと説明に入った。

数学的発想は、具体的な事象や現象から法則をみつけルール化するのであるが、そこが科学と微妙に違うのは、ルール化は関数化するということ。演習では与えられた関数方程式を解けばよいのだが、本来はルールを成立させるための関数を創造することなのである。

奥津先生は、「大学入試に合格することだけ考えれば、与えられた関数や問題の解法がわかればそれでよいのですが、やはり世界標準の数学は、自分で関数方程式を創れるかどうかです。そのとき、0と1と無限をどのように置き換え操作に活用するかが問われます。PBLによって、発想が違うけれど、そのときどれが一番合目的かという議論をすることこそが重要です。そのような発想を体験している生徒は、実は大学入試問題にも取り組みやすいのです」と語る。

鐘ヶ江先生(数学科主任)も、徹底的に「差異」の意識化を重視する。対数方程式と対数不等式の条件はどう違うのか。解き方を教えるだけではなく、PIL(ピアインストラクション)という話し合うチャンスを通して、「ああっ!」とか「なるほど!」という気づきを実感する授業を展開する。

鐘ヶ江先生と奥津先生の授業の大きな違いは、教師の役割である。鐘ヶ江先生は、「それはクラスのチームワークづくりの出来具合の違いによって違ってきます。クラスは個人でありチームですが、そのバランスが個人に偏っている場合と、チームに偏っている場合、バランスが良い場合とでは、教師のロールプレイは自ずと変わってきます」と。私が見学したときは、鐘ヶ江先生は学習カウンセラー的役割を、奥津先生はクラス全体の構成をファシリテートする役割を果たしていた。

高3の数Ⅲを担当している三浦先生も「ここまで来るのに試行錯誤しましたが、今は私は見守っているだけです。PBLの手法には生徒はすっかり慣れて、自分たちで問題を解く議論をして、プレゼンします。もちろん、ときどきサラリと通り過ぎているところを止めて、どうしてそうなるのか?ショートカットするのではなく、開いて説明するように求めます。ショートカットしているので、当然説明ができるはずなのですが、自動化して論理を説明できない時もあります。そのときは私の出番です」と。

今回も式の過程で、「0になるので」とショートカットした部分があったが、そこをどうしてなのか三浦先生は問いかけた。

すると、見事に式の関係を図に置き換えて論理の説明をした。三浦先生の見守るだけの数学の授業とはこういうことなのかと実感した。

工学院の数学の挑戦は、0と1と無限と数学的置き換え操作を組み立てる数学的発想をベースにしているということが、よくわかった。たしかに世界標準だし、数学を最高の学問としたプラトン時代のアカデメイアの雰囲気さながらだと感動した。

 

 

 

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