ショーの中の様々なシーンで、生徒ひとりにスポットライトが当たる場面がいくつもある。一曲のうちの数秒間をソロで歌うのだ。大勢の観客を前にした状態でスポットライトが自分にだけあたり、更にマイクを持って歌を歌わなければならないというのは、相当なプレッシャーになるはずである。しかし、そのようなシーンでも、生徒たちは笑顔で楽しんでいた。なぜそれができたのだろうか。
このようなソロのシーンでは、常に生徒の横にキャストが一人ついており、歌詞を忘れないように耳元でつぶやいてくれていたり、肩を支えてあげていたりした。生徒とキャストが手を握り合って一緒に歌を歌うシーンもあった。おそらく生徒たちは、キャストがついてくれているという安心感と信頼から、間違えることへの恐怖よりも堂々と歌うことを優先させることができたのだろう。
ショーの中でのことにしても、開演前の生徒とキャストの談笑シーンにしても、一体なぜ3日間というごく短期間に、ここまでの友情関係・信頼関係を彼らは築けられたのだろうか。私は、その答えは、世界共通で誰もが経験したことのある、「音楽を楽しむ」ことと「身体を動かすことに喜びを感じる」ことの二点にあると考える。
「音楽を楽しむ」とは、日本で洋楽が流行るように、たとえ歌詞の意味が一度聞いただけでは分からない歌でも、多くの人の心に響く音楽というものはあるという意味である。第二部の中で、様々なブロードウェイミュージカルの名シーンを紹介していく部分がある。多くの人に愛された有名な曲ばかりを扱うからこそ、生徒たちは感情移入しやすいのだ。そして、(例えば生徒たちが)ある曲に対して何かしらの感動を覚えることで、その場で同じようにその曲を聴いている他の人達(例えばキャストたち)とその感動を共有することができる。このことは、おそらく、言語の壁を言語によって乗り越えずとも、音楽を通して一瞬で壁の抜け道を通ってしまったという感覚に似ているのではないだろうか。
「身体を動かすことに喜びを感じる」とは、おそらく誰でもスポーツをしたあとに大きな達成感を感じる可能性が高い、ということだ。アウトリーチプログラムでは、歌とダンスを融合し、ミュージカル風の作品をつくりあげる。身体を動かすこととは切り離せないプログラムとなっている。この歌と踊りのプログラムをやり遂げた時、生徒たちは大きな達成感を覚えるだろう。そして、同じ内容を一緒にこなしたキャストたちも同じように感じるだろう。ここでも、感動の共有が行われる。
以上の二点が要因となって、生徒たちとキャストたちは3日間の間で仲の良い友人同士のような関係になれたのではないか。「音楽を楽しむ」ことと「身体を動かすことに喜びを感じる」ことが、コミュニケーションを良い方向へと促進するのだ。佼成学園女子がヤングアメリカンズのアウトリーチプログラムに初めて参加してから8年が経つが、最初の頃と比べて、生徒たちがより積極的にキャストたちとコミュニケーションをとろうとしているという話を先生に伺った。毎年開催されるヤングアメリカンズ発表会を観る中で、低学年の生徒たちがこのプログラムの環境に慣れていったからだろうか。
社会のあらゆる場面で国際化が進む中、言語の壁をどのようにして乗り越えるかという課題がよく挙げられる。佼成学園女子の「ヤングアメリカンズ発表会」ではその壁を、“音楽と踊りで超える”という一つの解答を見せてもらった。