工学院は、日本初の大胆なカリキュラムイノベーションを歩み始めたわけだが、そのためには学内の教師が一丸になることが極めて重要である。一丸になるには、教師どうしの信頼関係をベースにした相互に学ぶ組織を持続することである。そのため、平方校長は「研修」を中心とした「学びの組織」を構築しているという。
定期的に、全体で研修を行っている。「挑戦・創造・貢献」という校訓に基づき、解なき社会において、自分一人立ち臨み、新しい世界を切り拓いていきながら、社会に貢献する人材というメンタルモデルを具体的に育成するにはいかにして可能かについて議論している。
また、そのためには学校が21世紀型一貫教育をスタートしようというビジョンを共有している。
全体会議だけでは、構想は実行できないので、カリキュラムイノベーションのプロジェクトチームが、PIL×PBLの授業実践をしながら、毎月議論し、シラバス全体システムとそれを構成する授業システムを議論するコミュニケーションを行っている。
カリキュラムイノベーション会議は、アイスブレイキングから始まる。一見関係もないような素材から、シラバスを創意工夫するアイデアを生みだそうという挑戦。
次に各教科の新シラバスをつくるスタンダードの創造。そのスタンダードを「思考コード」と呼び、各教科を横断する「工学院思考コード」の仮説に基づいて、各教科がアレンジしている。
さらに、実際に授業で、PIL×PBLを実践し、その状況や結果をカリキュラムイノベーション会議に持ち寄る。
その報告は、授業の展開と生徒の反応についてプレゼンされるが、それが「工学院コード」の仮説に基づいて、どこを中心にどこまで広げることができたかという、スタンダードに基づいた報告になっている。
その報告後、チームに別れ、「思考コード」の照合の仕方にズレがないかどうかなど、議論し、ズレがあった場合、あるいは気づいたことなどをフィードバックする。かくしてPIL×PBLの授業のプロトタイプを試みては話し合いによってリファインしていく。
このようにシラバス全体システムと授業システムを「思考コード」というスタンダードによっていわばマクロとミクロのループを創っていくことが、工学院の「システム思考」である。
かくして、
・共有ビジョン
・メンタルモデル
・コミュニケーション
・システム思考
という学びの組織ができつつあるのが工学院である。それから、学びの組織に欠かせないもう一つの構成要素が、「自己マスタリー」である。その典型的な先生方の姿勢は、毎年10人くらいの先生方がIB教師育成のワークショップに参加しているということである。日々の自己研鑽は、教師も生徒もいっしょに学ぶという学習者中心主義の工学院のもう1つのメンタルモデルでもある。
なお、教育工学的には、システム思考は、感性を見落としがちになる。しかし、未来の仕事の象徴であるエンジニアリングやデータサイエンスにはセンスも必要だと言われている。そこで「デザイン思考」の新教科にも挑戦している。
21世紀型教育への挑戦と同時並行して、21.5世紀型教育の準備も始めているところが工学院の時代の精神を読み解くパースペクティブなのである。