日私教研所長中川武夫先生 グローバル人材とは「なんとかする人材」(1)

一般財団法人日本私学教育研究所(以降「日私教研」)の理事長は、21会会長でもある吉田晋先生、所長は中川武夫先生。

日私教研は、設立母体となった日本私立中学高等学校連合会の研修部門を独立させる形で法人格を取得し、昭和38年の設立以来、私立学校の教育及び経営に係る調査・研究事業並びに教職員の資質向上のための研修事業を行い、都市型シンクタンクとして私立学校はもとよりわが国公教育全体の振興・発展に重要な影響を与えてきた。

昨年以来、にわかにグローバル人材育成が日本の教育の前面にでてきた。日本の真正なる教育を守るシンクタンクとして、この新しい教育の潮流をいかに読み解くか、所長中川武夫先生にお聞きした。by 本間勇人:私立学校研究所

中川先生:グローバル人材、グローバルリーダー育成という流れは、たしかに内閣府や文科省、経産省、財界など広く議論されるようになった。日私教研では、政府や財界などが動く前から、時代の精神を鑑みて、その教育についてリサーチしてきた。

1989年のベルリンの壁崩壊以降、時代がインタナショナリゼーションからグローバリゼーションに転換して、私学の建学の精神が時代の精神にどのような影響をうけ、同時に与えられるのか、政府や財界とは違う私学の独自の視点から見据えてきた。

たとえば、2010年9月には、その動きを「全球時代」ととらえてグローバル大学の時代の幕開けを招いた故中嶋嶺雄先生に基調講演を依頼したのは、その象徴的な講演会だと思う。

また、2012年9月にも、国際バカロレアを中心に、世界各国のグローバル教育の実情について研修会を開いた。たしかテーマは「グローバリゼーションに対応した人材の育成~日本から海外へ、世界の列国に伍していけるか~」。今思うとなかなかチャレンジングな企画だったと思う。

このように、以前から時代の精神を見据えて活動してきたが、当時は、まだまだ私学の一部の活動で、国政レベルで私学のグローバル教育の動きに注目されるようなことはなかった。

しかし、昨年末からは景色が一変したと感じている。私学自身のグローバル教育のビジョンが変わったというより、国や財界が、私学のグローバル教育に注目し始めた。大きな潮流になってきたと肌で感じるようになった。

これは今世紀初めに公立中高一貫校が一気呵成に登場したときと同じような雰囲気で、すべてを無反省に受け入れるわけにはいかないが、日本の教育が大きく変わるチャンスであり、今回は、日私教研もその変化によき影響を与えることができる実感を抱いているし、その機会として活かしたいと思っている。

どういうことかというと、国や企業が私学のグローバル教育に注目するというのは、直接的には政治的経済的な必要性に理由はあるが、グローバリゼーションの動きの特徴である超国家化、個人化、越境化の作用が影響し、知識基盤社会を全面に押し出してきたきたからだと思う。

つまり、財界の中でもグローバルな技術革新が重要になってきていて、国はそれを支えなければならないわけだが、知識基盤社会を形成する教育改革がまだ行われていない。それでは、グローバル企業を応援できないから、喫緊の課題としてグローバル教育の確立とグローバル人材育成の環境を整えることである。

そのモデル作りのために、国は、たとえば、今年スーパーグローバルハイスクール(SGH)構想を実施しているのだろうが、そのような構想に拠らなくても、多くの私学がスーパーグローバル教育にすでに取り組んでいる。

少し考えるとそれもそのはずである。国がそのニーズに急いで対応しようとしているグローバル企業で活躍している親の師弟の多くが、すでに私立学校で学んでいる。私立学校は市場のニーズに合わせて、建学の精神をすでに現代化してスーパーグローバル教育を組み立ててきたのである。

政府や国は、今更ながらであると同時に今だからこそ私学のグローバル教育に注目し始めたのだろう。

日私教研のミッションの1つは、この私学の先進性を国や企業に提言し、日本の子どもたちの未来に備えることである。そして今は絶好の機会だと確信している。

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