共立女子 一大プロジェクト「ブックトーク」(1)

夏休みが終わり、新学期が始まるや、共立女子では、一大プロジェクト「ブックトーク」が開かれる。夏季休暇中に課題図書が2冊出されている。生徒は、どちらか1冊は感想文の対象として選ぶ。そしてもう一方は、ブックトークで紹介する対象とする。

ただし、その本を紹介するだけではない。その本と何らかの関係がある本を探してきて、その関係が何であるか発見したり気づいたりしたことをスーパープレゼンテーションする。

時間は2分。中学1年生から3年生まで、約1000人の生徒が全員プレゼン。国語科と図書室のコラボであるが、1000人もの中学生全員が行う学校挙げての一大プロジェクトのスケールで開催される。by 本間勇人:私立学校研究家

一大プロジェクトである理由は、スケールの問題だけではない。生徒が「ブックトーク」で語る内容を編集するために準備する活動が多様でダイナミックなのである。そして、おそらくこれが極めて重要なのだと思うが、生徒1人ひとりの世界を教師が受け入れ、見守ることができる。

それがゆえに、生徒1人ひとりがその世界を、中1、中2、中3となるにつれ、広げ深めていけるのである。その成長の過程こそダイナミックなのではあるまいか。

「ブックトーク」は、読書感想文を書く行為とリンクしているが、決して同じ学びではない。この活動を通して、生徒自身が次のように明確に意識している。

「今回、読書感想文とブックトークの違いに気づきました。読書感想文は、その本を読んで自分がどこまで理解を深めていけるのかということですが、ブックトークはその本を他者に紹介し、できれば読んでもらえるようなインパクトを与えることを意味しています。」

これは国語科の米津先生によると、期待通りの気づきだそうである。

米津先生によると、

「最終的にはプレゼンテーションの内容やその表現としてのパフォーマンスが、聴き手の心を動かすところまで成長を促したいですし、聴き手側も、ブックトークの中から、新しい本や友達の世界に気づけるように真剣に耳を傾ける姿勢を学んで欲しいのです。

ただ、それと同じくらい大切なことは、そこに行きつくまでの過程です。一冊の本を紹介するだけではなく、その本と何らかの関係のある本を探すことにしていますから、図書室にいって、司書と相談しながら、検索していきます。友達と話し合うのもよいのです。もちろん、家族との対話にもつながってほしいと思います。

そのような探求、インタビュー、議論などを通して、発表する内容を編集していくのです。また、2分間という制限がありますから、その中で、紹介したい本の世界に巻き込むストーリーを考えるのも大切な思考のトレーニングです。

そして文章だけではなく、どんなアイテムを活用して効果的な表現をするのか考えるのもプレゼンのコツです。たとえば、物語のシンボルである船長帽をかぶって登場するというのも創意工夫の1つですね。」

共立女子のそのような教育の質は、学びの空間によっても可視化されている。空間が探究活動や議論を促進するのである。いわば「アフォーダンス」という認知科学の手法がキャンパス内に広がっている。

図書室は広く、放課後になればいっぱいになるという。読書をしたり、探求したり、受験勉強をしたり、自立した学びの体験の空間である。

7万冊の本の森である書庫に、自らはいって、本を探し求められる。ここから読書体験が始まる学校はそう多くはないだろう。

共立女子には、芥川賞受賞作家や翻訳家として活躍するOGも存在。読書というリベラルアーツの重要な体験が、そのまま進路につながる良き伝統は、在校生にとってロールモデルにもなっているだろう。

共立女子のキャンパスは、絵画や彫刻などの美術作品であふれていて、スクールギャラリーになっている。カフェテリアは、絵本作家中谷千代子さんの原画がずらりとディスプレイされている。今回のブックトークで、関係する本の一冊として絵本を選択した生徒がいた。潜在意識に影響を与えられたかもしれない。

また、キャンパスのあらゆるところに、円卓の机が設置されている。放課後、この空間は生徒で満たされる。

他校に類がないぐらい共立女子の校舎の廊下は長い。パースペクティブの奥行きの深さは、探求の深まりのイメージに影響するかもしれない。かくして、学びの空間の豊かさと学びの体験の連動は、暗黙知の形成にも関係しているだろう。

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