工学院 IB型考える授業公開(3)

大学入試改革一体型の新学習指導要領に向けて改定作業がスタートしている。新学習指導要領の眼目は脱知識偏重教育。それを実現するために思考の過程を重視するアクティブラーニングが注目を浴びている。時同じくして、東大や京大の教授陣中心に、「聞くだけの授業は終わりにしよう」というインタラクティブティーチングの講義が、オンラインで行われる。大学の教員、中高の教員が主な対象者。

子どもたちの未来が開かれる期待が大きいが、残念ながら、すぐにアクティブラーニングの理論が教育現場の実践に結びつかない。というのも実践の経験値をくみ上げることが、現状では難しいからだ。なぜなら、今まで一方通行型講義形式でやってきたのだから、広くアクティブラーニングのサンプリングやプロトタイプがないのは当然だ。

そんな中、工学院は挑戦者として、手探りではあろうが、アクティブラーニングに学校全体で取り組み、自らプロトタイプを模索している。

(まずは、自分なりの考えをワークシートに整理していく)

アクティブラーニング:個人ワーク

アクティブラーニングとはいろいろな手法がある。工学院では、PIL×PBL×ICTの均衡を、学年、単元、教科によって変える。この「均衡」をどうするかという視点が、先に紹介した文科省も東大や京大の試みでは不足している。しかし、現場ではそこが最重要である。アクティブラーニングのポイントは、まずはアクティブ、インタラクティブ、クリエイティブということだろうが、中1でいきなり最初からできるわけではない。

オープンマインドや他者受容、小学校まで行われてきた知識偏重志向性からの解放などが、まずは行われなければアクティブラーニングは生徒とともに動くことはない。結局無理やり教師が先導するから、形はアクティヴラーニングでも、生徒にとってはやらされ感満載となる。

たしかにアクティブラーニングは、ブレイクスルーの手法として大学や企業で認められてきた。しかし、それは選ばれし人材の集団であることが大前提。中高段階では、そのような人材に成長する過程である。だから、大学や企業で行っているものをダイレクトにおろすことはできない。

そのような人材の知的活動では、実はアウトサイドのインプットとアウトサイドのアウトプットだけ行われているわけではない。アクティブラーニングは、情報やデータのインプットと、プレゼンというアウトプットが見える形で展開するから、どうしてもその様子だけが注目を浴びる。

しかし、実際にはインサイドのアウトプットとインサイドのアウトプットという自問自答がどれだけ広く深く内面で展開しているかが重要なのである。アウトサイドのインプットとアウトサイドのアウトプットは、その内的自問自答の質が投影されるだけだ。

大学や企業では、アウトサイドの結果を見て、その質の良しあしを評価すればよい。内的自問自答の質をどのように成長させるかは、本人の問題であって、あとは競争原理が切磋琢磨するだけである。

しかし、教育においては、その内的自問自答の質をどのように高められるか、その発達を支援することが重要である。しかし、アウトサイドはしょせん結果に過ぎない。その内的な自問自答の質をいかにして見える化できるのか。

そこに工学院は挑戦している。アクティブラーニングは、個人ワークから始まる。この個人ワークは、終わったらすぐに答え合わせをするためのものではない。まずは自分の自問自答はどこまで広げ深められるのか現段階の体験値を確認することがポイント。だから世にいう反転学習を、教科の授業ではすぐに取り入れない。大事な個人ワークの機会を逸することになるからだ。もちろん、特別講座の場合は別であるが。

アクティブラーニング:PIL(Peer Instruction Lecture)

個人ワークのあとは、ペアもしくはグループになる。そして、個人ワークでそれぞれ考えたことをすり合わせ、考え方の違いや解き方の違いを教え合う。この段階では、教師が生徒に教えるのではなく、生徒どうしが教え合う。

その上で、教師は講義をする。はじめから全部教師が教えるのではなく、いったん教え合う機会をつくって、そのあとに解題するのである。ここに、内的自問自答の質が向上する契機が存在する。

なぜなら、生徒は自分の自問自答、生徒どうしの教え合い、教師の解題という3つの契機で、自分の考え方や友人や教師の違う発想に気づく。この気づきが内的自問自答の質を向上させる。つまり、PILは、こまめにリフレクションをしながら学びが同時進行しているのである。

1つの知識に対し先入観というフリーズ状態におちいっていた自分に自ら直面(フェイス)し、問題解決にフォーカスし、解決(ソリューション)する。心理学的な発達段階によっては、直面してフォーカスせずに、逃げ出して(フライト)しまう場合もある。フライトせずにフォーカスするためには、個人ワークで没入する(フロー)状態をつくるワークシートの問いの立て方が重要になる。

正解はない。自分の考えがまず優先するのだという問いかけが重要になってくる。このフロークエスチョンが小刻みに生まれてくる仕掛けがPBL(プロジェクトベースド学習)なのである。

 

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