2015年12月18日(金)、桜丘は「冬のICTオープンスクール」を実施しました。同年10月、eラーニングアワードフォーラム2015における『第12回 日本e-Learning大賞』で桜丘の実践「生徒・教職員の創造性を刺激する,iPadがある学校生活」が文部科学大臣賞を受賞。
その実績、つまり「桜丘ショック」を、模擬授業空間やiPadを使っている生徒と直接対話できるスペースなどで、全国から訪れた先生方と共有しました。by 本間勇人 私立学校研究家
§1 iPadの効用
桜丘は、教職員も生徒も合わせて800台のiPadが稼働しています。今年2016年は、全校生徒が所有します。そうなると、1人ひとりがiPadを活用すると、どんな効果があるのか?まずそういう質問が世の中では必ずでてきます。それにきっちり回答してくれているのが、桜丘のICTオープンスクールです。文部科学大臣賞を受賞したのは、その貢献度の高さが故でしょう。
さて、具体的にどういう効用があるのでしょうか?これを考える時に、すぐに模擬授業見学したり生徒との対話をしたりした後に、どうも自分の所属する組織の都合に合わせた質問をする傾向があるのですが、実はそれでは、iPadの使いやすさとかコストとか、教師の準備時間の労力とか、どのくらい使っているのかという一見重要ですが、それは経営の理屈で診ているということに気づかない方々が多いですね。
たしかに、予算を通すためには、コスパが要求されるのでしょう。関連企業は、どのくらい購入してもらえるか有効性を定量的に測りたいのでしょう。やむを得ないのでしょうが、そのような質問が多くなりがちです。もっと生徒のどんな能力を伸ばすのかという観点で参加した方が良いとつくづく思います。もしブルーム型タキソノミーを活用したならば、それだけで教育の論理の効用は見えてくるはずです。
「生徒・教職員の創造性を刺激する,iPadがある学校生活」で文部科学大臣賞を受賞した意味はそもそも何でしょう。文部科学省は、このテーマと実践が、次期学習指導要領改訂と2020年大学入試改革において実施する「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に対応できるICT教育であることを高く評価したのです。
では、次期学習指導要領及び「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に対応できるというのはどういうことなのでしょう。それはブルーム型タキソノミーでいえば、「知識」「理解「応用」「論理的思考」「批判的思考」という「学習を通じた創造的思考力」を育成することが最終目標です。たんなる思い付きではなく、学習を積み上げて掘り下げて行った末に爆発する破壊的創造力を想定しているのですね。つまり破壊的イノベーションというわけです。
こんな「学習を通じた創造的思考力」は、iPadやラップトップを活用しなければ50分前後の授業でプログラムを展開することは無理でしょう。実はこの授業、iPadを使わずにというか、なかったので、長い時間をかけてやってのけたのは、たとえば、大村はま先生です。あるいは、灘の橋本武先生です。お2人とも本物の授業を行った伝説の教師です。
最終的には「知識」「理解」・・・「批判的思考」を行って「学習を通じた創造的思考力」に到達する伝説の授業を行いました。しかし、伝説ですから多くの教師は、その境地に到達できませんでした。お2人の当時の授業では、アーカイブやデータは、アナログでしたが、今iPadを活用して授業を行ったとしたら、楽々授業が展開できたでしょう。それどころか、もっと密度を上げて、さらにスーパー伝説の教師になったと思います。それはともかく、実は、iPadの最大の効用は、「脱技能」あるいは2人の伝説の教師の授業スキルを「初期値」として設定できてしまうということなのです。
21会では、この伝説の教師を初期値としてさらに超えてしまう教師をスーパーグローバルティーチャー(SGT)と呼んでいますが、iPadでネットワークを活用し、ロイロノート・スクールやキーノートなどのプレゼンテーションツールやワードあるいはエクセルのようなソフト、それとSNSを教師と生徒が共に学ぶ環境があれば、教師はSGTに、生徒はアントレププレナーにすぐになれます。
「知識量」の心配、「思考力」の心配、「主体性」の心配、「協働性」の心配、「自分軸」や「判断力」の心配等々すべて不安を払しょくできます。それでも、限りある時間内で「カリキュラム」は、終わるのだろうかという完全に20世紀型教育である教師都合の不安も、実は払しょくすることができます。そういう創意工夫を教師や生徒に仕掛けてくるアフォーダンス機能が、iPad with networkには埋め込まれているのですす。
模擬授業は、ブルーム型のタキソノミーの「知識」「理解」を中心とする授業、「論理的思考」を中心とする授業などいわばトルソーにならざるをえないので、タキソノミーを意識して見学しないと、木を見て森を見ないことになりがちです。パーツのノウハウだけ持ち帰るということになりかねません。
しかしながら、今回、このすべてのタキソノミーの段階が埋め込まれている授業がありました。それは高2の政治経済の授業でした。