桜丘のICT教育 次の次元へ!桜丘ショック!はまだまだ続く(3)

§3 多様な思考スキル

アクティブラーニングは、タキソノミーという能力の段階とその段階の間を幾度も往復し、循環するための思考ツール、そして思考スキルの関係総体で展開されます。思考ツールには、iPad、レゴ、思考マップなどが強力ですが、粘土や木材、楽器、画材などなど無限にあります。しかし、iPadがそのほとんどを陵駕できてしまいます。立体的なものの触覚だけは今のところなかなか難しいかもしれません。しかし、IoTの進化でそれも克服できるかもしれません。いずれにしても、そうなれば、iPadのようなタブレットは、メタ思考ツールに昇格します。

【多様な比較スキル】

社会科の授業で、マップというアーカイブを活用する授業が展開していました。マップはズームなどが自在にできますから、地図をいろいろな角度から見ることができます。写真やコメントなども取り込めますから、多様な比較というスキルを瞬時に活用できる思考ツールとしてiPadが活用されていました。モノやコトを理解していくには、多様な比較というスキルを活用して差異や共通しているところから分析していくのは定石です。

しかし、iPadがなければ、多様な比較をするのに時間がかかります。限られた時間では限られた情報でしか比較ができませんから、理解の範囲は偏りがちになります。そこを補うために講義を行って知識で補強していくわけです。

昨今の風潮として、知識を記憶することが軽んじられていますが、知識自体は今も昔も大切です。知識を憶えることが目的なのではなく、目の前の限定的な情報で足りない部分を補うのに知識が必要なのです。それを極端に知識だけでモノやコトの理解の像をつないでいくことは、危険極まりないということは、ちょっと考えればすぐに気づくことでしょう。iPadの活用は、知識のみの偏向的理解を回避できるのです。こうして考えると、なぜ伝説の教師が注目されてきたのかは、よくよく理解できます。

【選択の最適化スキル】

オールイングリッシュの授業で、グーグルドライブなのかアプリなのか私にはわかりませんでしたが、機能としてはクリッカーが活用されていました。選択肢から正解を選んでiPadの画面をタッチすると、クラスメンバーの選択の分布が瞬時にグラフ化されるソフトです。

選択肢が正しいかどうかというより、どうしてこういう偏差が生じるのかを議論するところに価値があります。ものの見方や考え方を相対化し、何が妥当なのか信頼できるのか正当なのか、選択の最適化のスキルを獲得できます。

選択肢問題ができることも重要ですが、人生の岐路に立った時、どちらが最適なのか、妥当でも正当性がなかったり、信頼性があっても妥当でなかったりというようなジレンマに立たされるのが実際の問題なのです。

【引き出すとは因果関係あるいはカテゴライズのスキル】

生徒と直接対話しながらICT教育のあり方について、学ぶスペースが設けられていました。iPadを通じて先生方とどんなコミュニケーションをとっているのか、実際に画面に取り出してもらいながら説明してもらいました。資料や課題はPDFで送られてきます。記述の解答はメールで送るとコメントやメッセージが書かれて返ってきます。記述はノートやワークシートにそのまま手書きで書いてもよいし、メールで返信してもよいということでした。

ノートやワークシートに直接書き込んだ場合は、iPadで写真を撮ってメールで送るということです。おもしろいと思ったのは、ICT活用の普及で、合理的・効率的になったことによって、先生とのコミュニケーションの量、勉強の量がかえって増え、密度が高くなっている実感があるということでした。一日の時間は限りがありますから、量が増えたということは、質が向上したということになります。

これはおそらく先生の側も同じでしょうから、コミュニケーションと学びの量が増え、結果、教育の質が豊かになっているという質感が学内にあふれているということでしょう。

それは、模擬授業などの見学が終わってからの全体会議で明快に伝わってきました。オープンキャンパスを運営した教師と生徒が全員が、前に並んで、参加者の質問に答えている姿から、その雰囲気が醸成されてきました。

【ロールモデル化スキル】

数学の作図の授業には、実に興味深いものがありました。生徒一人ひとりが作図を終えたら、例によって、写真を撮り、先生に送ります。すると、ロイロノート・スクールに送られてきた解答をすべて白板に投影してシェアします。級友の書き方がシェアされるわけですが、それができるのは「オープンマインデッドネス」があることが前提です。また、この学びのシステムは、「システム思考」の一端を担います。互いの作図の方法の是非は論理的に「コミュニケーション」することが必要となります。

当然、このICT教育は協働するというチームワークも前提になっています。そして極めつけは、一人の生徒が代表して作図の実演をするところまでいくことです。この一見何気ない学びのシステムも、ロイロノート・スクールのアプリをiPadに搭載していないとできないのです。かりにアナログでやったとしたら、とてつもない時間がかかります。

それよりも重要なことがいくつかあります。この環境がなければ、全員の作図の方法がシェアできないので、代表者が実演することの意味が違ってきます。正解の発表という意味になってしまうのです。また、チームワークも必要ありません。それぞれができたかどうかだけが問題になります。オープンマインデッドネスも必要ないでしょう。

すると「シェア」「システム思考」「コミュニケーション」「オープンマインデッドネス」「ロールモデル」の5つの要素が揃わないのです。潜在的にあっても、可視化・顕在化していなければ意味がないのです。それでは、5つの要素が揃うとどんな意味が生まれるのでしょう?この5つの要素こそ、学びの組織を形成する重要な要素だったのです。

§4 次の次元へ

桜丘のICTオープンスクールに参加して、本当に驚愕でした。こんなにも学びの組織が浸透しているがゆえに、生徒一人ひとりが論理的にコミュニケーションをしたりプレゼンテーションするシステム思考が育っている姿に遭遇したのですから。

チームワーク、オープンな信頼関係、自分たちも先生方と一緒に学びの組織をつくっているのだという自信などがメンタルモデルとしてシェアされているわけです。昨今、国際比較で、自己肯定感が低い日本の生徒が多いと言われている中で、それを覆すような創造的自信を誇りにしている生徒がたくさんいるのに衝撃を受けました。

しかし、本当の「桜丘ショック」は、最後に待っていました。見学終了後、感動に満たされた気持ちで全体会に臨んだら、いきなり「導入に関する『先進校』としての役割は終わりました。このような形のオープンスクールは今回で終わりです。次の次元へ進みます。進んだらまたご招待します」と宣言されてしまったのです。

桜丘のICT教育の妙技をやっと知ることができたと思ったその瞬間に、学校としては、これでは満足いかないから、次のステージへと、パラダイムシフトしますと言われたのです。これが本当の「桜丘ショック」だったのです。

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