取材の日は、ちょうど期末も終わった時期だったため、チューター面談も行われていた。八雲学園の教育の4本柱のうちチュータ制度もその一つ。中3までは、生徒は、担任の先生以外に相談やアドバイスをしてもらえる先生をチューターとして選ぶ。毎日いっしょに時間を過ごしている担任の先生といつもはいっしょに過ごしていないチューターの先生からもらうアドバイスは、角度が一致していたり違っていたりする。自分を複眼的に見ることで、自分のオリジナリティや自分らしさが見えてくる制度。
チューター面談は楽しい
へんな質問かなと思いつつ、チューター面談って楽しいですかと聞いてしまった。ためになりますかという内容は、どうも八雲の生徒にはふさわしくないと思っていたら、思わずそう言ってしまった。すると、反省している暇もないほど、間髪入れず、「楽しいです!」とはっきり言われて、その迫力に圧倒された。
「先生に気楽になんでも言えるし聞いてもらえるし、先生も真剣にでもはっきり指摘するところは指摘してくれます。そういう話し合いができることは楽しいし、八雲だけにしかないことだと思います」
この確信に驚かないではいられなかったが、ちょうどチューター面談をおこなっていた澤田先生が、チューターは途中で変えられますから、とことん信頼関係をつくれるのですと教えてくれた。そんなことをしていったら、余計に先生同士で気まずくなりませんかと思わずたずねてしまった。すると、
「一人の教師に集中することはないですよ。はじめから上手くいくと考える方がおかしいですね。いろいろ試してみて、うまくいかなかったらオープンにすぐに変えていくということが、結局はうまくいくところに落ち着くのです」と。
ここにコラボレーションができるヒントと自分らしさを形成する根っこがあったのである。オープン、柔軟、信頼、確信、変化、オリジナリティ・・・すべてが詰まっている。それでは、成績はあがってよいですねと、また愚かな質問をしてしまった。
「そうは簡単にいきませんよ。だからチューター面談で話すことがいっぱいあるのですよ(笑)」
おっしゃる通りである。それにしても、このチューター面談が楽しいという事態が、八雲の教育の根っこであることが、取材の過程で次々と証明されていくのである。多様な教育活動でありながら、明快な一貫性がまっすぐに通っているのである。
理科の実験を通して大事なことを知る
中2の理科の実験では、ムラサキキャベツの液を抽出し、その液で水溶液の特徴を調べていた。やはり理科の実験も楽しいようだったが、途中から姿勢が大きく眼差しが変わった。それは、ムラサキキャベツの液が、水溶液の特徴を調べる基準になるということを知った瞬間から。
いつもは基準は誰かが与えてくれたものであるから、普段は意識もしない。しかし、基準は何であるか、自ら検証するというところから判断は始まる。身近ないろいろなもので試してみることが重要なのである。うまくいくまで、試行錯誤。この過程は楽しいが、その楽しさは探求への道を拓く。実際、実験で気づいた疑問が、夏の理科の自由研究のテーマになることも多いということだ。
理科として当然な考え方であるが、うまくいくかどうかは、まずは試してみるところから。うまくいくまでいろいろ試す。サポートしてくれる教師もたくさんいる。チューター制度と共通する考え方である。