工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」)は、グローバル教育、イノベーション教育、リベラルアーツを掲げて、今まで積み上げてきた工学院の教育の質をグローバル人材育成の教育に広め浸透するバージョンアップに挑戦している。
この夏、日本語IB(国際バカロレア)のための教員研修(IB ASIA PACIFIC REGIONAL WORKSHOPS)に参加した英語科主任の道家先生に、カリキュラムイノベーションの方向性を聞いた。(by 本間勇人:私立学校研究家)
INTERNATIONAL-MINDEDNESS
道家先生は、IBの教員研修をうけて、INTERNATIONAL-MINDEDNESSとは何かについて改めて気づいたという。そして、日本の大学進路先準備教育の質をグローバルな世界で活躍し社会貢献できる生涯学習者としての準備教育に転移させる必要があると強く感じたと語られた。
カリキュラムやシラバスを組み立てる時、大事な要素にテキストがある。テキストといっても、文章だけではなく写真や絵画などのアート作品なども含む。IBの教員研修では、たとえば、どんな写真を高2年3年生に提示し、それによってどういう理解や思考を育てるのかというワークショップがあったそうである。
ピアインストラクション(2人で議論する)のスタイルで議論したが、背景知識やその国の歴史を説明してやっと写真が何を語るのか議論ができるものと、世界中の人が共通の知識を持っているもので、すぐに思考が展開する写真があり、その両者の違いがはっきりわかったという。INTERNATIONAL-MINDEDNESの有無が、素材選びの時にも表れてくるということなのである。
もちろん、背景知識や各国の歴史は、重要である。問題は学びの目標によって、素材選択も柔軟に変えられるかということである。質の高い素材だったらなんでもよいというわけではなく、学習の目標に合っているかどうか多角的な視野、そして世界標準という基準を意識しながら選ぶことの重要性について道家先生は説明してくれた。
まさしく、高い品質の技術があるけれどガラパゴス化している日本の産業社会が、その質をグローバルな基準に耐えられるように、一般化原理を駆使しようとしている今日の時代状況そのものである。
このように素材を選択するときに教師に求められるINTERNATIONAL-MINDEDNESSは、もちろん生徒も共有する。素材を理解する思考のモデルとして、ブルームのタキソノミーが提示されたという。認知のレベルが6段階になっていて、最終的にはピラミッドの頂点に達するように学ぶ。
6つに分かれているが、大きく分けると認知→メタ認知→評価となっていて、レベルが上昇するということは、そのつど特殊化された世界から上位の規準に引き上げられる感じだそうだ。つまり、その瞬間瞬間にINTERNATIONAL-MINDEDNESSに思考が開かれていく知的体験が行われるわけである。
CANdoリスト
道家先生はIBの発想にヒントを得て、工学院のカリキュラムイノベーションに、英語科の先生方と一丸となって着手している。日本の次回の学習指導要領も、実はグローバル教育をベースにする。そのために生徒の思考のモデルとしてタキソノミーを基準に考えている。
ある意味、工学院の英語科は、それを先取りしているし、ブルームだけではなくIBのディプロマのプログラムを参考にしているから、奥行きの深さが違うと言えるかもしれない。
特殊化からINTERNATIONAL-MINDEDNESSへというジャンプが重要なのであるから、現行の学習指導要領や大学進学準備の学びを単純に否定するのではなく、学習指導要領を分析し、そのエッセンスをグローバル教育につなごうとしている。
グローバル人材育成時代が到来したからと言って、大学進学のための準備が大きく変わったというわけではない。教育とはいまここで目の前の生徒が生きることをサポートするものでもなければならない。そして同時にその生徒たちが未来に本格化するグローバリゼーションの時代に備えられるようにしなければならない。
したがって、学習指導要領や大学進学準備教育とグローバル人材育成教育をつなぐミッシングリンクを発見しようというのが、工学院の英語科のカリキュラムイノベーションの根本作業のようである。そして、その道具だてが、国際共通語としての言語の規準CEFRに基づいたCANdoリストの作成というシナリオを念頭に置いているということである。
外延と内包(デノテーション&コノテーション)
英語科のカリキュラムイノベーションとは、結局言語のプログラムデザインの発想が基礎である。いくら何をやるという項目を外延的に並べても、その項目間が内包的にリンクしていなければ、本質を見誤ることになる。日本の英語教育の領域に内包されている質を、グローバル英語教育の内包にいかにリンクさせるか?そんなことに取り組んでいる教師集団は稀である。
道家先生は、おそらく前人未到の領域に挑戦していると言えよう。創造とは破壊的創造と言われるように凄まじいエネルギーと困難を乗り越える勇気がいる。ここにも21世紀私学人がいる。
工学院の校訓は、「挑戦」「創造」「貢献」であるが、生徒ばかりでなく教師もその精神を共有している。この生徒も教師も学習をシェアするという精神こそINTERNATINAL-MINDEDNESSである。工学院の文化遺伝子はIBのミームと共振し始めた。