戸板 カリキュラムイノベーションへ (2)

今回のカリキュラムの再構築は、改訂次元ではなく、たしかに大転換ともいうべき事態であることは、作成途中の大量なマトリクス表を拝見して、実感した。

――膨大なマトリクス表ですが、設計の方法としては、大きな目標から小さな目標へ、学年ごと、教科ごとなどのようにピラミッド型というかツリー構造になっているのですか。

大橋先生:当然カリキュラムデザインは、時間と教科の空間、成長する生徒と才能を引き出す教師という登場人物がいますから、演繹と帰納という基本論理にはなっています。ですから見た目は、マトリクスになっていて、多様な要素をカテゴライズし階層化して、組み立てているようになっています。

しかし、グローバル時代に対応できるカリキュラムの大項目である目標は、「グローバル社会で活躍する女性(共生的に生きる)」と設定していますから、こういう生産品を作るというような工程表とは違います。今まではおそらくなんだかんだといって、どこどこ大学に合格する学力が大項目になってきた。

すると、そのための知識をどこまで教えるのか、どの時期にどの知識を教えるのかという知識配列型、あるいは知識積み上げ型でよかったわけです。ですから商品の生産工程のメタファでよかったのですが、グローバル時代に対応するには、知識としての教養ではなく、世界の知とコミュニケーションできる次元としてのリベラルアーツが大きな目標になります。

原田先生:ですから、要素がきれいに分断できるわけではなく、かなり濃密に関係し合っています。今までのカリキュラムの作り方と大きく違うのは、どの教科も同じ目標をもつのではなく、教科ごとの目標を相互関係させることによって、「グローバル社会で活躍する女性(共生的に生きる)」という大きな目標が達成できるようになっているのです。

-――少し難しいですね。

今井先生:たとえば、英語科はリベラルアーツを育成する要素のうち「コミュニケーション力」を前面にだします。リベラルアーツと切り離せませんが、特に「コミュニケーション力」に焦点をあてます。そして、それを学年ごとに、生徒の「コミュニケーション」の発達段階を想定します。中1だと「思いを英語で伝えられるようになる」コミュニケーションを育成します。スーパーイングリッシュコースの高3の段階では、「英語が母国語のように、創造し、発想し、伝達できる」コミュニケーション力にジャンプするわけです。

原田先生:一方、国語や社会では、「倫理観・広い視野・リベラルアーツ」という目標を設定します。当然、国語と社会では、そのアプローチが違います。国語は、心理学や現代思想の方法論から接近します。社会は制度や経済、歴史というアプローチで個人と社会の関係を把握できるようにします。どちらも、医療倫理や民主主義などで生徒自身の意思決定が求められることをトレーニングする教科ですが、その意志決定の際の、素材やデータ、切り口が違います。

今井先生:数学と理科は、どちらも「イノベーション」を目標にしますが、数学は多角的な解法を創造し、論理的に証明していくことを通してイノベーション能力を養います。理科は、仮説・実験・データ収集・検証・発見という一連のサイエンスリテラシーを通して、イノベーション能力を引き出していきます。ものの見方・考え方が形成されるという感じでしょうか。

――なるほど。たしかに、英語で、コミュニケーション能力も倫理観も、イノベーションも、リベラルアーツも教えるというのは大変ですね。しかし、意外と先生方は、教科学習にすべてを埋め込みますね。ですから、各教科で違う角度でアプローチし、その結果大きな目標を生徒1人ひとりが達成するというのは、新しい発想ですし、効率的でもありますね。

大橋先生:効率性はたしかに大切で、その通りなのですが、それだけでいくと、抜け落ちたり、切り落としたりするものもでてきます。それでは、リベラルアーツ教育ではないのです。大事なことは、何を学ぶかという目標のシステムとそれを達成するための生徒の考える活動、分析する活動、創造する活動などの実践的なトレーニングも設計されているかです。その総合的な力をカリキュラムで生み出す工夫です。

それが、相互通行型の授業をカリキュラムデザインに織り込むことなのです。グループ討議やプレゼンテーションなどのインタラクティブな学びの方法を場当たり的にではなく、生徒の発達段階を促進するように設計していくのです。

 

 

 

 

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