桜丘 臨界を突破して未来を描く教育環境(3)

21世紀型スキルの定義はいろいろあるが、概ね5Cのスキルに集約される。コミュニケーション、クリエイティビティ、クリティカルシンキング、コラボレーション、シチズンシップがそれである。桜丘の2つのノートの取り組みが、すでに4Cを養う基礎になっていることを前回まで語ってきた。今回は、桜丘のコラボレーションを支えるリーダーシップの育成が、シチズンシップにつながっていくことを紹介したい。

クラスMCシステム

日直というのは、順番にクラスのメンバー全員が行う。ということはその日のクラスのマネージャーを1人ひとりが体験できるのである。このことは今ままでもそうであったわけであるが、多くの場合、ただ仕事を右から左へとこなすルーチン作業であった。

しかし、品田副校長は、この何気ない行動を、リーダーシップ育成のチャンスに変えるイノベーションを行ったのだと。またしても、臨界を超える創造的な作業。「コンパス」で描き直したのである。全員が体験するのだから、だれか一人の生徒がリーダーシップを発揮するのではなく、リーダーシップを発揮したり、フォロワーシップを発揮したり、双方向に体験できるチャンスが全員にある。これを改善しない手はないということだ。

どうやって、変容させたのか?それは、たとえば、日直の1つの作業に報告の仕事があるが、その報告の表現にパラグラフライティングの手法を埋め込むという創意工夫をした。リーダーが、聞き手であるフォロワーに、伝えたいことがあるとき、伝わるように、そしてすぐに行動に移れるように、論理的にかつ相手の次の行動を想像して語れるかを振り返り、改善していった。

ここには、すでに2つのノートで教師がアドバイスするのと同じ教育環境が応用されている。リーダーシップは伝達と共感。フォロワーは、その苦労を共に過ごし、いっしょに改善していくのである。

こうして、クラスメンバー全員が、リーダーシップとフォロワーシップを体験することによって、桜丘の翼である教養が育成される。つまり共に生きるチームができあがっていく。そして、さまざまなアクティビティ、つまり、オリエンテーション、合宿、海外研修を通じて、そのリーダーシップ/フォロワーシップが豊かに育っていくのである。そしてこのリーダーシップ/フォロワーシップという新しいリーダー観こそ21世紀型スキルを目指している国際機関と同期するシチズンシップである。

ICTの拡張

21世紀型スキルというと、ICTの活用は必須である。もちろん、桜丘もICTを活用した教育環境は充実させている。すでに無線ランの環境は校内に完備している。来春から中1は全員タブレットを活用する。

しかし、ICTは5Cを実現するためのサポートツールである。中山教授の優れたアイデアもICTがなければ、ゲノム研究のデータを収集・解析できなかったのである。ただ、20世紀末から今日まで日々刻々とICT端末は進化している。

端末という物質にこだわっているようでは、オープニングソングで歌われたように「心の中に住み着いてる女々しい寄生虫が/ 僕の行く手を遮っていると思っていたんだけど/ それすらも自分が作り上げた幻想」ということになる。しかし、まだ先がある。「幻想だと気づいた時/ 胸の淀みがスーっと消えた音がしたんだ」となるには、「翼」と「コンパス」が必要なのだ。

それにしても、2つのノートというアナログシステムとタブレットというデジタルシステムと、ノートを活用する教育環境が立体的になるわけだから、来春の入学者はさらに期待感がふくらむ。高次元になるということは質が向上することを示唆するからである。

「翼」と「コンパス」を手にし、それを使って未来を描き、羽ばたいていく生徒たちを輩出する桜丘の挑戦はまだまだ続くのである。だからPTAの保護者は、参加者をもてなしてこう語る。「自分の子どもが、自信と元気をもらって、どんどん成長していく姿を見ることができる学校へようこそ!」と。

 

 

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