順天 自然と社会と自己の均衡点(1)

順天は、179年前に誕生した。和算の大家福田理軒が創設。その教育理念である「数は宇宙に在りて術は人に在り」「自然の法則に従い、互いに真理を探求する」は校名「順天」に内包され、今も脈々と続いている。当時の和算は、壮大な宇宙学でもあっただろう。身近に壮大な自然に触れ、街や田園のランスケープを眺めることもできた。そして日々天変地異と社会的不安の中で人々は生き抜いていた。

福田理軒は、その三者に何とか宇宙の法則を見出しゆるがぬ真理を見いだそうとしたに違いない。その均衡点は、しかしながら、いまだに人間は手にしていない。手に入れたと思うや、するりとどこかに見えなくなってしまう。

したがって、その順天求合の精神は、21世紀の今もなお希求されるものであり、その追求のスキルを養うことこそ21世紀型教育。順天の文化祭「北斗祭」にその文化遺伝子<ミーム>を見出した。                 by 本間勇人:私立学校研究家/21会リサーチャー 松本実沙音(東大文Ⅱ)

「北斗祭」の空間は「多重機能」

順天の校舎は地上8階地下1階。校舎は弧を描き、その上位階から、外を眺めれば、校庭が扇状になっている。その向こうは鎮守の森が広がっている。校庭側から後者を振り返れば、天に校舎がそびえている。

そして、「北斗祭」ともなれば、キャンパス全体が、劇場と化する。各階のテラスは観客席となる。この日常の空間が非日常の空間に転換する空間デザインこそ、ジャパノロジー的な空間発想である。日本庭園や茶室の空間デザインが代表的である。建学当時の感覚が受け継がれている。アートや建築の世界では、無意識を意識化するアフォーダンスの仕掛けと呼ばれ、ジャパノロジーもまた再評価されている。

アフォーダンスの学校空間とは、キャンパスで生活していると、学びたくなったり、ワクワクしたり、プレゼンしたくなったり、あるいは居場所があると感じたりするという潜在意識を外に表すようになる空間デザインのことである。順天のキャンパス空間は、さらに全体が劇場に反転するというダイナミックな仕掛けが埋め込まれているのである。「北斗祭」が、ダイナミックな表現・パフォーマンス・喝采を呼び覚ます理由の一つがここにある。

そのような「多重機能」としての空間で学園生活をおくる生徒たちが心地よいと思っているということは、空間デザインに自然と社会と自己の精神の均衡点が存在しているということを意味する。順天のキャンパスを歩いていると、生徒たちはみなその均衡点に向かって地に足がついている感じがした。

多様性と寛容性

劇場と化した校庭のステージでは書道同好会のパフォーマンスもあった。昨年2人ではじめた同好会だが、ダイナミックなパフォーマンスにひきよせられて、メンバーはあっという間に増えた。オーストラリアからの留学生も自らの意志でメンバーになりたいと参加。

漢字がまだ不得意でも、ひらがなの箇所を任せられて、興奮していた。寛容性は多様性を巻き込む。21世紀型スキル用語で言えば「コラボレーション」ということになるだろう。

部長は、このJ-POPという音楽と筆の運びが共振するパフォーマンスが多くの人のこころに響くことに気づいたという。なぜ人が集まってくるのか、こんなにみんなにエールをもらえるのか、自分たちのパフォーマンスがそうさせるだけではなく、みんなの声援や拍手やエールが、自分たちのパフォーマンスを高くするという。

また書道は、日本文化でありながら世界の人に通じる何かがあると。だから留学生と協力できるのは楽しいし、たがいに学ぶものがあるという。それは「道」を尊敬すること。多様性は寛容性をうみ、寛容性は多様性を生むわけでが、そこには共振しあう「道」がある。「道」の空間には共振する響きがある。筆を運ぶのに集中しなければならないが、J-POPや手拍子や歓声は、騒音でhなく、響きあうものなのだ。だから没頭できる。そして、その没頭状態こそ、21世紀型スキルでは、フロー状態というクリエイティビティの源泉だと考えられている。

書道のパフォーマンスは。「北斗祭」で歓声を送る人々みんなの気持ちを集約する「均衡点」を顕在化させたのかもしれない。コミュニケーションという手垢のついた言葉が、これほど心を揺さぶられほど「君に届けたい」という行為であることを覚醒させられた瞬間だったに違いない。コミュニケーション。これもまた21世紀型スキルが4Cの1つに組み入れている大切なコンセプトである。

ところで、書道同好会の留学生は、今年4月に開設されたEクラス(イングリッシュクラス)のメンバーでもあった。順天は、留学生やネイティブスピーカーの教師がたくさんいる。キャンパス内を歩いていると、よく出会う。特に北斗祭は、留学生の友人たちも訪れているので、他校ではなかなか見られないグローバルな光景がみられた。

イギリスのギャップイヤーを活用してアドバイザーとして来日している学生も毎年いる。多様な人材の才能を導き出す魅力がなければ、わざわざ海外からやってこないだろう。もちろん、受け入れる寛容性が自然体であることも忘れてはならない。魅力とは、21世紀型スキルとしては、クリエイティビティ、コミュニケーション、コラボレーションが一体となっているということだろう。そして、一体であるということは、同調とは意味が違う。そこには均衡点があるということなのである。

 

Twitter icon
Facebook icon