ICT

東京女子学園 突き抜ける教師陣

東京女子学園には、地球思考委員会というプロジェクトチームがある。生徒1人ひとりの才能をいっしょに見出し、自分の言動即世界という地球共生に貢献するマインドを形成する教育活動やシステムのプロトタイプを構築していくチーム。

それを学内全体で授業で試行錯誤しながら、東京女子学園モデルとして強化していく。2013年から、PBLやC1英語、ICTの有機的な教育システムの組み立てを開始し、その全貌が明らかになり、すでに実践的な智慧として学内に広がっている。その地球思考委員会のミーティングに私も参加した。by 本間勇人 私立学校研究家

昨年地球思考員会が結成されて以来、ときどき参加する機会を得たが、毎回毎回進化の速度が加速しているのに驚きを感じてきた。しかし、今回の驚きは今までのものとはスケールが違った。

テーマは、「地球思考コード」が学内で浸透し始めてきたので、PBLやC1英語、ICTの有機的な教育システムをより効果的にするために、どのように活用できるかという実践的な智慧を出し合うことだった。すでに「地球思考コード」は出来上がり、授業や教育活動で使われ始めているという前提で、ミーティングが行われていたのだ。昨年の今頃は、「思考コード」とは何か?から議論していたはず。実に速い。

しかも、教育システム全体を再構築するために、まずは東京女子学園の教育ビジョンは何から何へ変わったのか、意識の共有からはじまったのだ。このようなミーティングは、すぐに何をするのか、結構「点」の話が多く、収拾がつかなくなるケースが多い。

毎回がブレストで、教育システムの全体のビッグ・ピクチャーが描かれないまま、道具立ての話ばかりが進む。結果、あれもこれもやることになり、引き算の美学はどこかにいってしまう。

ところが、このチームは違う。ロイロノートスクールを使いながら、まずは個人で自分の考えを書き、瞬時に共有し、今度はチームに分かれて、それをインテグレイトしていく。それもロイロノートスクールで、シェアしながら話し合う。

かつてはポストイットでやっていたことを、タブレット上で解決。自分たちの考えたコンテンツや話し合った痕跡が、そのままポートフォリオとしてクラウド上に残るから、議事録を書く手間も省ける。個人とインテグレイトという両者のアウフヘーベンの連続が、効率的かつ創造的な議論を進めていく。

私は、やはり4月から実際に成績表に活用している首都圏模試センターの「思考コード」の情報を提供した。すでに模擬試験という場で活用されている先行事例と教育の現場で活用されている事例を比較することで、共通点や相違点が明快になるからだ。

事前にパワーポイントの資料を送っておいたので、先生方は全員、タブレットにダウンロードしてミーティングに臨んでいた。ペーパーレスで、記録はポートフォリオとして蓄積されていく理想的なミーティングになっていたのだ。

「地球思考コード」と「首都圏模試センターの思考コード」の共通点としては、教師も生徒も学び方の情報を共有できるとすぐにコメントがでてきたし、今後の大学入試改革に求められている学習履歴を作成する際のポートフォリオとしての活用が可能であるという点は「地球思考コード」に優位性があるかもしれないという議論も盛り上がった。

実際に、早稲田大学のアドミッションオフィスのサイトに入り、来年開始する予定の「新思考入試」の情報やサンプル問題も、その場でアクセスしながら、具体的に議論するシーンもあった。実に興味深かったのは、そのサンプル問題の問いを、「地球思考コード」に一瞬にして分類して話し合っていたシーンだ。

これは、教師も生徒も共有しているから、今後生徒は、この問題は易しいか難しいかではなく、どのような思考のスキルを使うのか複合するのか、論理の次元でとどまるのか、創造的な智慧を働かすのかメタ認知を発動しながら思考していくことができる。

この思考コードで、知識理解から論理的×批判的×創造的思考に飛ぶことが、どんなに歴史的にもすごい事態なのか、それゆえ、未だに多くの学校が「知識・理解」の次元で足踏みをしているということが了解できたわけであるが、そのことについて書かれているオットー・ラスキーの英語の論文を、サイトでこれまたすぐに検索して、話し始めた。

英語科の先生方がすぐに要約しながら、議論の参考情報として活用したのだが、そのようなシーンも今までには全くなかった光景だった。

この地球思考委員会のミーティング自体が、PBL型授業であり、C1英語教育であり、ICT教育であり、リベラルアーツのマインドに満ちた対話だった。今や、全校生徒全員がタブレットを所有して授業に臨んでいる。このミーティングは、普段の授業のプロトタイプだったということなのだ。つまり、授業の風景も同様なのである。

この会議で話された有益なプランについては、まだ企業秘密の段階なので、ここで明かすことはできないが、説明会が行われるたびに、段階的に公開されていくことになろう。突き抜ける女子校には、突出した教師陣がたしかに存在するのである。

工学院 ミネルバ大学もうなるSGT教師陣

今月14日、工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」)は、工学院大学新宿キャンパスで、プレス・リリースを行った。2018年4月から、工学院の高校がハイブリッド4コース体制にするという画期的な教育イノベーションを発表した。

同時に、八王子キャンパスでは工学院の中学3年生は、あのハーバード大学でさえも改革の刺激を受けざるを得ないイノベーションを起こし、世界で今話題沸騰の大学がやってきていた。それはミネルバ大学で、日本事務所代表の山本秀樹氏によるスペシャルプログラムが行われていた。

工学院は、大学のみならず中高も、新宿キャンパスと八王子キャンパスで同時に教育を展開していく動きが加速しており、他校には真似のできない教育イノベーションを生み出している。by 本間勇人 私立学校研究家

2018年の高1から、2020年大学入試改革が行われるわけだが、実はその年はドバイで万国博覧会が行われる年でもあり、教育も研究も産業も一斉に第4次産業革命に突入する年である。そのときに、高いレベルの英語力が要求され、高次思考に基づいて多様性の中で議論する力が要求される。AIをはじめとするICTのテクノロジースキルは求められるのは当たり前の状況になっているだろう。

それを見越して、工学院では、3年前から本格的な教育イノベーションを進めてきた。そして、いよいよその成果が見え始めたので、来春の高校1年生から順次、4つのコースでさらに生徒一人ひとりの才能を開花することに決めた。その4コースは次の通り。

すでに、ハイブリッドインタナショナルコースは、実は4年前からプレ改革を行っていた成果がでたので、今年から先行設置している。その手ごたえもあって、思い切って4コース設置を決断したのだと思う。

つまり、今回のプレス・リリースは、完全に<グローバル高大接続準備教育>にシフトする宣言だったのである。

したがって、八王子キャンパスでは、来年の高1である現中3に対し、ミネルバ大学の日本事務所代表山本秀樹氏を招き、特別キャリアガイダンスを行っていたのであろう。工学院もミネルバ大学も、クリティカルシンキング、クリエイティブシンキング、コラボレーション、グローバルリーダー育成という点で、シンクロしている。

そして、ミネルバ大学は7カ国のキャンパス(従来のキャンパスイメージとはかなり違うが)を移動しながらプラグマティックな学問を広め深めていくという点では、新宿キャンパスと八王子キャンパスの両スペースを行き来して探究活動をしていこうといる工学院とも息が合う。

しかし、山本氏が工学院の教育イノベーションの本質に触れ、自分の子どもをこんな学校入れたいとうならせたのは、同校のSGT(スーパーグローバルティーチャー)教師陣のミーティングに遭遇してのことだった。

山本氏は、中3のプログラム終了後、qTeam(クエストチーム)のミーティングにも顔を出した。そこでは、2020年大学入試改革(グローバル高大接続システム改革)を見据えてすでに実験的に出題されている東大、京大をはじめとする国立大学の高次思考問題を研究している。

その日は、小論文の問題、英語エッセイの問題、数学的帰納法の問題などを扱っていた。各教科の教師がどこが生徒にとって肝かプレゼンしたあと、参加していた他教科担当のSGT(スーパーグローバルティーチャー)が、高1の場合だと、その因数分解は気づかないが、その仕掛けはどうするのか?中学と高校では要約のスキルはどう変わっているのか?演繹的にやったほうがスッキリするのでは?などとコメントがあり、講師役のSGTが応答する対話が溢れた。

その後、チームに分かれ、このような問題では、生徒がどこに気づくと突破できるのか、そのためには、たとえば、高1の段階では、どの教科でもどんな創意工夫をして授業をしていくのか?議論してプレゼンしていった。もともと思考コードやコンピテンシー、思考のスキルなどについて議論をし、思考力セミナーでそのプロトタイプを作成していたから、工学院のSGTにとっては、当たり前のミーティングだった。

しかし、山本氏には、新鮮だったようだ。日本の学校で、教科を超えて大学入試問題の背景にある根源的な問いについて探究していくシーンに出逢ったのは初めてだったという。数学の問題についてて、国語や社会など他教科の教師が、いっしょに解く過程をチェックし、そこから問いの本質を見出していく高次思考のリフレクションループがそこにあったからであり、それはミネルバ大学の学問のアリカタと同期するところがあったのだと思う。

このqTeamのリーダーは、中学教務主任の太田先生と高校教務主任の奥津先生。お2人は、チームのプレゼンを聞いてはコメントを投げていくが、そのときどんなコメントを投げるかは、先生方の頭の中には、工学院の思考のエンパワーメント評価表である「思考コード」がある。生徒の最近接発達領域を発見しながら、次のステップにジャンプするきっかけになるトリガークエスチョンを投げかけるのと同じスタイル。

幾重にもリフレクションループが循環しているミーティングで、このミーティング自身が工学院のPBL型授業のプロトタイプでもある。今回の工学院の教師の対話を通して、「SGTという教師は、かくもアクティブブレインを生み出すために、リフレクションループのデザインをするものなのか」と改めて気づいた。いわゆるプロデューサ―とは違う大胆で繊細な役割を果たしていると感じ入った。ミネルバ大学の山本氏はそこを見抜いたのであろう。

和洋九段女子 教育イノベーションを支える香り髙き教養

創立120周年を迎える今年、和洋九段女子は、教育のバージョンアップを実行。美しい花が開いた。今月17日、授業見学・クラブ体験・説明会を実施。中1から中3までの授業は、すべてPBL型(プロブレム・ベースト・ラーニング)授業だった。

そして中1は、今回は、すべてのクラスが英語の授業を行っていた。グローバルクラスとレギュラー・クラスのPBL型授業が展開された。どのクラスも、生徒は、タブレットを活用して、手持ちの知識をその都度広げながら思考し、対話し、プレゼンする授業。昨年から21世紀型教育改革に挑戦し、猛スピードで成果を挙げているのに驚いた。by 本間勇人 私立学校研究家

(今回はダンス部の体験ができなかったので、舞台で発表。しかし、それが圧巻だった。)

中1のレギュラークラスの英語の授業は、スキットをチームで創作して、ドラマエデュケーションよろしくプレゼン。米国やカナダの名門校では、アウトプットは、言語でもよし、ドラマでもよいし、絵や図であってもよいという場合が多い。表現は多次元思考様式だから、1つに強制はしない。それが学びの自由を確保し、モチベーションを燃やす。

私が見たシーンは、ファーストフードで商品を買うやりとりをしているシーン。演じ終わった後、いくらで商品を買ったか、質問までしていた。もちろん、英語で。中1の今の時期とは思えないほどのスピード。レギュラークラス3クラスとも同じように授業を進めていた。

生徒が発表したドラマの中には、ミュージカルに発展するかと思わせるような動きのあるものもあった。4技能英語を鍛えるにはもってこいのPBL型授業だが、この短時間にスキットを話し合い、パフォーマンスをするというのは、インプロ教育といって、クリエイティビティも育成するプログラムでもあるだろう。

グローバルクラスは、外国人教師が、ゲームやペアワークを自在にデザインしながら、PBL型授業を展開。グローバルクラスの中でも、特に英語力がある生徒は取り出し授業が隣の教室で行われていた。

少人数ということもあり、徹底した対話型授業。リテラルシンキング手法で完全英語の授業。学内留学空間さながらだった。

中2の社会の授業は、ある時代を象徴するキーワードは何かをチームで調べ、議論し、タブレットで編集して、パワーポイントを教師に送信しながら作業を進行。最後にプレゼンしていた。

フューチャールームでなくても、普通教室で、生徒の作品を学習ポートフォリオとしてサイバー上に蓄積できるわけだ。ICTによるカリキュラムマネジメントも早くも実施しているということが了解できるシーンだった。

今回フューチャールームでは、授業ではなく、受験生のICT体験の場として活用された。受験生はさすがはデジタルネイティブ。すぐにタブレットを活用し、オンライン学習の使い方を理解していた。彼女たちは、普通教室の授業を見学したときに、学校全体が、フューチャールームだったのかということに気づいたのではないだろうか。

中2の国語では、文章読解をPBL型授業で展開。要約をチームで話し合い、それを編集してプレゼンしていたようだ。読解を、コミュニケーションを通すことで情報の共有を深めていたが、そのせいか、たいへん知的教養の高い雰囲気あふれるクラスになっていた。

一方中2の家庭科では、大根を素材に、エコクッキングとしての創作料理のアイデアだし。第4次産業革命の目差す超スマート社会の一端を学んでいるわけだ。身近なところに、グローバルゴールズを達成する取り組みが埋め込まれているのに感動した。

中3の数学の授業は終了間際に見学したので、議論をしているところを見られなかったのは残念だった。数学はPBL型授業がしにくいと言われているが、定規の三角形の特徴や概念について、話し合うには、PBL型授業はなかなか使い勝手が良かったかもしれない。いずれにしても、和洋九段の数学の先生の挑戦に脱帽。

授業見学の後、講堂で軽食が配られた。

なんというおもてなし。女子私立学校ならではのランチ説明会だ。軽食が終わったら、中込真校長から、学校説明。

120年の伝統をバージョンアップした新しい和洋九段女子の教育を語った。保護者及び受験生は、今まさに見てきた教育を丁寧に解説されて大いに納得したと思う。

これらの新しい教育活動は、すべて上記写真の「ルーブリック」から生まれ出ているが、実はかなり似た考え方の思考コードがすでに首都圏模試センターが活用し、受験生はそれによる成績表を見ながらリフレクションしているから、実は新たな共通言語として機能し始めている。2018年は入試業界の「思考力」のバージョンアップの転換期でもあるが、和洋九段はそれに刺激を与える教育イノベーションのリーダーとして今後評価が高まるであろう。

説明会の最後は、昨年夏、トロント大学のサマープログラムに参加した高3生の英語によるプレゼンテーション。どんなプログラムを体験したのか、見事なパブリックスピーチをやってのけた。トロント大学といえば、東京大学より世界ランキングが高く、コンピュータサイエンスの拠点でもある。和洋九段女子が改革準備を始めた昨年、その動きに影響を受けたわけだが、今後本格実施していく過程で、彼女のような生徒がたくさん現れるということだろう。

受験生及び保護者は、彼女のことを、改革のロールモデルとして、認識できたと思う。

それにしても、もっとすごいプログラムの仕掛けは、授業見学及び校長、生徒による極めてわかりやすい美しすぎるプレゼンプログラムの最後に、白と黒のケイオス(混沌)を表現するコンテンポラリーアートとしてのダンスパフォーマンスである。シンメトリックに計算されたカタチの一部にケイオスを挿入するのは、日本の文化アイデンティティであり、19世紀末以来、今も世界中の人気が絶えないジャパノロジーである。伝統と革新の融合とはまさにこれであろう。

かつてのジョブスや現在のシリコンバレーが希求してやまないジャパノロジー発想のアート。この創造の魂を呼び覚ますマインドフルネスは静かなブームを呼んでいるが、和洋九段女子には、この世界に共通する創造する魂がある。これはまた、女子校にしかできない教育イノベーションの泉である。和洋九段女子の教育の存在意義は、同校の新しいグローバル教育によって、世界に共感を呼ぶことになろう。

正智深谷高等学校 大航海時代の幕開け

2017年度、正智深谷高等学校は、来るべき大きな教育変革、そして社会から求められる学力の変化に対応するべく「正智深谷高等学校イノベーション計画(Shochi-Fukaya High shool Innovation Plan)」を掲げた。加藤慎也校長は、この計画の名称としてそれぞれの頭文字を取り「SHIP(シップ:帆船)」と名付け、この地球規模の転換の大海原に帆をいっぱいに張って、出港する決断をした。正智深谷高等学校の大航海時代の幕開けである。by 本間勇人 私立学校研究家

同校のミッションは、次の3つである。

①自己肯定感を育み、他者を認めることができる人を育てる。
 
②問題解決に協働して取り組み、他者に貢献できる人を育てる。
 
③夢を持ち、そのための地道な努力を継続できる人を育てる。
 
これは、世界に目を向けた21世紀型教育のいくつかのキーワードに置き換えてみると、「マインドフルネス」「PBL」「コラボレーション」「コントリビューション」「グロースマインドセット」「グリット」などになる。
 
 
加藤校長は、英語の教員でもあるから、正智深谷高等学校の精神が、世界につながっている、むしろシリコンバレーに集結している世界のイノベーターであるクリエイティブクラスが希求しているマインドフルネスが同校にあることに気づいている。
 
ただ、この大切なリソースが学内では当たり前の存在だったし、それがゆえに埼玉エリアを超えてインパクトを与える重大な使命があるとまでは教職員全員が意識してきてわけではなかった。県立高校王国埼玉にあって、自治体の教育は、どうしても自治体に貢献する人材をとならざるを得なかった事情もあっただろう。
 
しかし、もう高校生はデジタルネイティブである。すでに世界の問題は自分たちの問題と直結していると感じ始めている。私立学校として、自治体と世界を結びつけるリーダーシップを発揮するべく、大航海に船出する意志決定をしたのである。
今回訪れたとき、ちょうど新生徒会役員・執行委員の認証式だったが、彼らは、世界で様々な問題を解決していく姿勢は、自分たちの学園生活においてチャレンジする行為や精神とシンクロしていると感じている。
 
 
だから、加藤校長は、認証式にあたり、新メンバーに、認証状を手渡す式を行うのではなく、自己実現に燃え、互いに励まし合い、挑戦する想いをしっかり共有する時間だと語り、一人ひとりと熱く握手を交わしていった。メンバー一人ひとりの想いと挑戦する行為と精神は、そのまま世界を変える準備になるという気持ちをこめて。
 
<SHIP>とは帆船という意味もあるが、<在り方>というマインドフルネス状態を表現する接尾語でもある。<friendship><leadership><communityship>・・・。21世紀型教育とは、多様性の時代にあって、たしかに4技能英語力、PBL型の探究授業、ICTは欠かせない。しかし、それらがたんなる手段であってはならない。文化も価値観も考え方も異なる人々と協働して、人類共通の諸問題を解決していくマインドが必要だ。
 
そのマインドのあり方をカタチにして共有するために、4技能英語力、PBL型授業、ICTは欠かせないチカラなのである。そのチカラを何のために使うのか。未来をつくる力として、いまここでカタチにするために使うのである。未来は、正智深谷高等学校の学園生活そのものの中に、潜在的に存在している。
 
 
その潜在的なパワーを体現したロールモデルが、今年東京大学文Ⅲに合格した藤井君だ。高3の7月まで、吹奏楽の部活で活躍しながら、英文学という領域で世界の本質を見出し、創ろうとするモチベーションを持ち続けた。正智深谷高等学校の先生方とPBL型のゼミで、東京大学の入試問題が投げかける問いの本質を探究した。マインドフルネス、グリット、リーダーシップ、コミュニティシップ、コントリビューション、クリティカルシンキング、クリエイティブシンキングなど21世紀型スキルが藤井君のマインドには有機体として大きく成長した。
 
加藤校長は、東京大学に行くかどうかではなく、そこにチャレンジした時の藤井君のマインドのあり方を、全校生徒と共有していきたいと。おそらく、正智深谷高等学校のこの大航海の挑戦から、<Growth Mindship>という新しい言葉が誕生するのではないだろうか。
 
 
加藤校長に学園内を案内してもらったとき、とにかく生徒と教師の距離が違いと感じた。好奇心に充ち、探求心旺盛で、対話力に満ちた生徒であふれていた。
 
そして、廊下を歩いていると、授業の始まりや終わりに、合掌している生徒の姿が目に入った。同校には、世界が今最も欲しているマインドフルネスを内燃させる仕組みがすでにある。世界に羽ばたく人材のエネルギーの源泉は、やはり正智深谷高等学校にもあると確信した。

富士見丘 世界標準の教育(3)

高2生のサスティナビリティ演習の5日前に、高1のサスティナビリティ基礎の授業も取材していた。生徒たちは「災害と地域社会」「開発経済と人間」「環境とライフスタイル」の3講座を一通り受講する。

高2からは、テーマを選択していくが、高1では、一通り社会のサスビナリティはいかにして可能か、多角的な視点から眺めておこうという意図があるのだろう。

ここにも、間口の広い視野を生徒全員と共有しようという富士見丘の丁寧な教育観がある。

また、広い視野を深い考察にシフトしていくためのスタディスキルも学んでいる。高2も高3も、グローバル社会のリサーチが大前提だから、地政学的条件やリスクをリサーチし考察するが、自分のテーマによっては、インターネットぐらいでしか情報を得られない地域もある。

そういう場合は、自分で推理して情報を収集していかなければならない。伊藤先生の「災害と地域社会」の授業では、その地政学的条件やリスクの洞察で必ず使用する地図の読み込みの体験授業が展開していた。国が違っても、緯度が同じであれば、気候条件は似てくるし、地理的条件が似て来れば、同じような産業や経済、都市設計の発展もあり得る。

そのため、地図をネット上でどのように活用するか体験するグループワークが行われた。ハザードマップを活用し、どうして危険地帯がここだということがわかるのか地図を見て、推理していく。しかし、現代の地図だと、自然の地形が都市開発によって見えにくい。そのために100年前の明治時代の地図を引き出して、現代の地図と比較しながら洞察していくという授業展開。

SGHの授業では、グループワーク、ICT、英語は欠かせない。つまり、海外の中高や大学と同じ条件の授業環境を整えている。

久保先生の「環境とライフサイクル」の授業では、イノベーションの歴史をシェアし、自分がどのような環境やイノベーションに興味があるのかプレゼンした。歴史という<時間軸の比較>のスキルがトレーニングされていた。伊藤先生の授業では<空間軸の比較>のスキルがトレーニングされていたわけであるが、高1生は両方の授業を順番に体験していくから、スタディスキルの全体を体験することができるのだ。

中島先生の「開発経済と人間」の授業では、開発とは何か?人間にとって豊かさとは何か?というこのテーマを洞察する際のキーワードの概念を広げ深めていくために、同校の立地である笹塚という都市は豊かであるかどうかをグループで議論するところから始まった。

お金と時間の比較による洞察など高1とは思えない経済学的な視点を展開するチームもあった。果たして時は金なりかどうか?時間泥棒の出現は人間の何か大切なものを奪っていくのではないか?笹塚という身近なところから、そのような抽象的な一般化へジャンプするロジックが早くも生まれていたのだ。

吉田理事長・校長も毎年SGHを通して、生徒が知的にも精神的にも成長していく姿に目を細めながら、うちの教師の力はなかなかのものでしょうとボソッと耳元でささやかれた。

たしかに、緻密に計算された学びのスタイル、思考のスキルをトレーニングするプログラムデザイン力とグローバルゴールズを達成する世界的視野に基づいた問題意識を引きだす高大連携、海外の高校との連携のプロデュース力に驚嘆しないわけにはいかない。論より証拠、目の前で、生徒たちの創造的問題解決のアイデアが溢れ出ているのだから。

このSGHのプログラムは、もちろんプレプログラムとして中学のホームルームが活用され、6年間一貫した体系的な設計がなされている。このこと自体、日本の教育では稀有なカリキュラムマネジメントである。富士見丘の教育がいかに価値があるか、高い評価される時も近いだろう。

富士見丘 世界標準の教育(2)

今年7月に、シンガポールの国際研究発表会に参加するのは、高3生チームであるが、このチームだけが、特別な問題意識をもって、創造的な問題解決を行えるのではない。

富士見丘生全員に、「サステイナビリティの視点に立った社会課題への高い問題意識を持ち、他者と協働して問題を発見し、解決に導く思考力と行動力を身につけ、海外の人と英語で意見交換できるコミュニケーション力を鍛えていく」教育環境があるというところが、実にダイナミックでなのある。

しつこいようだが、機会を与えるけれど、それを活用できるのは、選抜された一握りの生徒で、ゲットできるかどうかは自己責任だという競争優位の教育ではない。全員が学べる環境を設定して、全員が高みにジャンプできる可能性や希望がある学校が富士見丘だ。

(高2のシンガポールフィールドワークの準備をするサスティナビリティ演習)

もちろん、国際コンクールなどは、競争だが、そのコンクールに参加するメンバーを選抜して立ち臨むのではない。全員が挑戦できる環境を設定したうえで、各種コンクールにチャレンジするのである。だから、習熟度別クラスやコース編成の発想が、同校にはない。

生徒一人ひとりの才能を伸ばす学びの環境がカタチづくられているということなのだ。

(マレーシア・フィールドワークのチームでは「ライフスタイルと環境」というテーマを扱う。実際にマレーシアの環境問題にかかわっている国立環境研究所藤野主任研究員を招いてのコラボ学習)

さて、高3の生徒との話を聞いたうえで、彼女たちが1年前に体験していたサスティナビリティ演習を取材した。そして、合点がいった。こういう丁寧な探究のモチベーションを引き出すところから学びが始まっているから、広い視野と深い考察ができるようになるのだと。

シンガポールチームもマレーシアチームも、この時期は、自分が興味をもったことや探求するテーマについて調べてきてパワーポイントなどにまとめてプレゼンしていくのが基本。マレーシアチームでは、たとえば、なぜイスカンダル計画について調べるのか?イスカンダル計画とは何か?イスカンダル計画を実施する地政学的条件やリスクは何か?日本のどの地域と似ているのか?その地域との二酸化炭素の排出量などの違いはどれくらいか?果たしてこの計画はうまくいくのか?多様な角度から調べていた。

藤野氏は、短期間でここまで調べられたことにエールをおくり、実際にフィールドワークするともっと気づくことがたくさんあるし、計画の是非についても、リアルに実感できる。調べて仮説を立てて、理解を深めておけばおくほど、気づきも多くなると、生徒が作成したパワーポイントを一枚一枚丁寧にめくりながら、アドバイスをしていった。実際にマレーシアの環境問題にかかわっている国立環境研究所藤野主任研究員のアドバイスは説得力の重さが違う。

シンガポールチームでも、一人ひとりがまず調べてきたことを発表。マレーシアチームでも同じことが言えるが、一人ひとりの問題意識に、クラスのメンバー全員が真剣に耳を傾けていた。すでにその問題意識の発表の段階で、魅力的なプレゼンの工夫が凝らされてもいた。

(プレゼンツールは、電子黒板あり、iPadあり。ストーリーテラーという自分自身の身体をプレゼンツールにする生徒もいて多様。)

ある生徒は、インパクトのあるシンガポールのポストモダニズム的な大きな建物をバーンと提示。どこがファサードかわからない。クラスのメンバーが、前のめりになって、いったいなんだろうと引きつけられる。そこから、建築デザイン、都市計画、環境を考慮した政策などに話がスーッと進む。もちろん、建築が観光経済の資源である仮説も立てる。

また、ある生徒は、現代の日本人は宗教を、日常生活であまり意識しないけれど、海外に行くと人々の宗教に対する意識が高いのに驚く。シンガポールは多様性と言われれているが、その一つに様々な宗教を信じている民族が集まっていることが挙げられる。宗教によって経済や政治に対する考え方、文化に対する影響度も違うはず。2020年に向けて、日本がどんどん海外に国を開いていくのなら、宗教について調べることも大事だと思うと。

担当の教務部長の関根先生も、昨年のシンガポールのフィールドワークではなかった問題意識。本質的で重要な問題だと思うとエールをおくった。

SGHにおけるクラスというのは、かくして学習する組織として、互いの探究心へのリスペクトと応援がなされていく。集団のより知的なつながりが濃厚になっていく瞬間を体験していく。この体験こそ、社会にでたときの人間力の基礎となるが、その点につては、今はまだ関根先生は、じっと見守っている。

このような探究活動には、ICTは欠かせないが、富士見丘のICTの環境は実に興味深い。ある意味理想型だ。というのも、他の学校は、タブレットにするか、ラップトップにするか、機種選定がなかなかたいへんだ。しかもプロダクト企業も一社に絞るのが通例だ。

しかし、富士見丘は、生徒自身のラップトップも持ち込み可だし、学校のPCやタブレットを借りて使うのも可。生産企業も一社ではない。でもそのことが逆に非常にシンプルなシステムで柔軟にサイバーとリアルなスペースを行き来できる。もちろん、そのこと自体にコストはかからない。

グーグルドライブを活用し、互いの資料の共有もしてしまう。そこに教師も生徒もアカウントで共有できるから、いろいろなやりとりが、いつでもどこでも行える。インターネットにつなげられれば、どの機種でもどのパソコンでもつながる。

もちろん、セキュリティの問題を回避するために、共有するコンテンツには配慮する。それにしても、このシステムは、生徒が自ら活用してしまうほど。考えてみれば、彼女たちはデジタルネイティブ世代。

このようにICT環境を自由に使えるので、当然海外とのやりとりもサイバー上で、できてしまう。サスティナビリティ演習は、慶応義塾大学SFCとも連携しているが、そのときは、スクリーンの向こうに海外の高校生の存在があり、そのままいっしょに授業は展開していく。

そんなハイテク環境の学びが展開していると思っていると、生徒は書籍の中にも没入している。いったいなぜ?その生徒は、「関根先生がおっしゃるように、インターネットだけでは情報が偏っていたりまだまだ不足していますから。探究していくとどうしても本の重要性に気づかないわけにはいかないのですよ」と。

なるほど、これだ。これが、高3生が「教養」を背景に英語で議論すると言っていたことなのだと、大いに納得できたのだった。

富士見丘 世界標準の教育(1)

SGH認定校として3年目を迎える富士見丘。そして、SGH1期生ともいうべき現高3生は、早くも数々の成果をあげている。

たとえば、今年、3月19日(日)に関西学院大学で開催された全国スーパーグローバルハイスクール課題研究発表会(SGH甲子園2017)において、現高3生のチーム(当時高校2年)がプレゼンテーション部門(英語発表の部)で優秀賞を受賞した。

同時に、優秀賞3校の中から1校が選出される審査員特別賞も受賞し、7月に開催される国際的な研究発表会「Global Link Singapore 2017」に最優秀校とともに招待されることとなったのである。by 本間勇人 私立学校研究家

高2のシンガポールフィールドワーク、マレーシアフィールドワークに向けた「サスティナビリティ演習」の様子を取材に行った折、別室で「Global Link Singapore 2017」に参加するチームの高3生が、そのための準備をしていた。チームは3人のメンバーで構成されているが、そのとき偶然に出会ったのは2名だった。「サスティナビリティ演習」取材の前に少し時間があったので、話を聞く機会をもらえた。

このチームも、高2の演習で、シンガポールフィールドワークを選択した。その演習の大テーマは「開発経済と人間」。各人がさらに具体的に絞った自分のテーマをシンガポールの地でフィールドワークしながら検証し、新たな課題を見つけ、それについて探求していくプロジェクト。

シンガポールの国際研究会で発表する彼女たちは、「シンガポールの教育」、特に「英語教育」について調べ、日本がシンガポールに学ぶことはないかリサーチしたということだ。

なぜこのテーマを選択することになったのか、その興味関心はどんなところから生まれたのか尋ねたところ、こう回答してくれた。

「富士見丘に入学する前に、2人とも海外の学校やインターナショナルスクールという外国の学校文化と日本の学校文化の両方の経験をしていたのです。そして、同じように何か違うという意識を持っていたことに、富士見丘に入りSGH演習でそれぞれの問題意識をシェアしたときに、気づいたのです。」

「それは何かというと、1つは英語教育のレベルの差です。それからもう1つは、これも英語に関係するかもしれなませんが、国際的な問題意識について、語り合う環境が学校にあまりないということですね。英語教育と留学が充実している富士見丘に入学して、余計それがはっきりしました。つまり、一般に日本の英語教育には、そういう問題があるのではないかと意識できるようになりました。」

それが、シンガポールの教育とどう結びついたのか尋ねると、間髪入れずにこう回答してくれた。

「富士見丘のサスティナビリティ演習では、経済の成長、特にシンガポールの場合は金融と観光における経済資源と経済の成長について考える時間が多いのですが、その経済資源に教育があるということに気づきました。そして、日本とシンガポールの経済成長の違いは、英語教育にあるのかもしれないという仮説をたてました。それで、両国の英語教育を比較研究して、日本がシンガポールに学び、経済成長のきっかけをつくれないかと思ったわけです。」

その仮説は検証されましたかと尋ねると、なかなか慎重な回答がかえってきた。

「そう単純ではなさそうだということはわかりましたが、フィールドワークのときに、いろいろな施設を見学するだけではなく、実際にラッフルズの高校生と議論したりシンガポールの方々にインタビューしてみて、教養の高さを感じて、驚きました。高校生や大学生が、英語で教養を背景にして、国際問題について語ることができる国とそうでない国の経済成長に違いがあるのは当然ではないかという確信にいたりました。」

その確信を説得力あるもにするために、エビデンスを収集し直し、整理しているのだというのだが、さらに、日本の英語教育が学ぶべき解決策は?と問うと、これもすぐに回答。

「それは、結論としてあります。ステップを3つ用意しています」と。

その話を聞いて、ずいぶん富士見丘の英語教育がモデルになっているように思えるが?と尋ねると、そうですとすぐに回答し、明快に説明してくれた。

「私たちの外国の学校文化と日本の学校文化の違和感みたいなものは、富士見丘に入学してからは、ある意味解消されています。やはりこうでなければと思っています。ラッフルズ・ガールズスクールやシンガポール経営大学で議論したりプレゼンしたりできる環境があるのがその象徴です。そこで私たちは英語で議論やプレゼンができます。まだCEFRでB2を目指している段階ですけれど、それは検定試験のスコアの話で、模擬国連部や多様な留学や海外研修の機会がある富士見丘の英語教育はC1レベルですよ。」

「そして、シンガポールでは、このような環境が幼稚園からあるわけです。でも、シンガポールは多言語・多民族の多様性の国です。英語は母校語ではありません。それなのに、英語で生活し、議論し、研究しているわけです。日本も3つのステップに分けて、幼少期から英語教育を行い、最終的には教養を身につけたうえで、英語で対話ができるようになることは可能だと考えています」と。

「それと、私たちの経験と知人の話から推測すると、富士見丘のような教師と生徒のフラットな関係は、日本ではあまりないということです。これは、シンガポールと大きく違う点だと思っています。向こうで訪れた学校やその他の機関で感じたことですが、シンガポールの教師と生徒の関係は、フラットな関係ですよね。どちらかというと日本は国レベルの教育政策が中心だからかもしれません。シンガポールも国家がマネジメントしているのでしょうが、市場原理が前面にでているような気がします。その違いは、人間関係にも影響しているのかもしれません。私たちのような先生と生徒の関係の近さみたいなものは、英語だけではなく、教育全般に必要だと思います。」

2人は、このような富士見丘の教育がそのまま生かされる大学に進みたいとも語っていた。それが海外大学ということも当然あり得るし、自分の周りの生徒も、高校になってからは英検ではなく、多くの生徒がTOEFLやIELTSに挑戦するという。CEFRというモノサシが何であるかについても、きちんと認識している。

富士見丘のSGHプログラムの成果は、こういう生徒の言動やものの見方・考え方、価値意識に如実に反映していると感じ入った。

三田国際 未来を拓く「基礎ゼミナール」

三田国際学園中学校・高等学校(以降「三田国際」)の本科では、中2から週2時間「基礎ゼミナール」を実施している。「経営」「理論物理」「アプリ制作」「遺伝子工学」「細菌学」「言語記号論」というような学問的な背景が横たわっている探究テーマをPBLスタイルで研究していく。

今回、田中潤教頭の「経営」をテーマにした基礎ゼミナールの様子を拝見した。by 本間勇人 私立学校研究家

(文化祭という擬似市場で商品を販売する株式会社を創業する起業家プログラム。中3に社長・副社長がいて、中2・中3と協働して株式会社を運営していく。田中先生はコンサルタントさながら。)

1時間目、中3は、組織論やマーケティング理論をみっちり学び合い、2時間めに中2とともに会社を創っていく準備にはいる。文化祭では、出店する外部からの本物の会社がある。その会社は、いあわば競合他社ということになる。

文化祭に訪れる人々を消費者に見立てて、自分たちの会社の比較優位を計算していく。SWOT分析を田中先生が文化祭という擬似市場にアレンジしたマトリクス表を使って行っていく。マーケティング戦略をつくりあげていくのだ。

その際、中3メンバーは、組織論に基づいて、マネジメントしたりモチベーションを持続可能にしていったりする。何せ相手はプロフェッショナル。そこと競える会社を創るにはどうしたらよいのか。強みや弱み、機会や脅威を分析していく。

経営企画会議よろしく、グループディスカッションをしている間に、他の基礎ゼミも案内して頂いた。どの教室も「好奇心」「開放的精神」「批判的精神」がさく裂していた。あのファインマン教授が、科学者としての才能の3要素と語ったものであるが、まさに小さな研究者の頭脳が躍動していた。

理論物理の基礎ゼミナールでは、ベナール・セルと呼ばれる渦をつくる対流を観察していたが、田中先生のゼミの生徒がこの姿を見たら、組織論として散逸構造をどのように活用するか越境的想像を膨らますだろうなあと、この基礎ゼミの無限の可能性を感じ、見ている側もワクワク興奮した。

アプリを創ったり、プログラミングしている中2の生徒とかもいて、すぐにもエンジニアになれるのではないかとその才能の可能性に驚きもした。

生物の教室では、生命科学の研究をしている生徒たち、言語記号論では絵文字の言語学的アプローチをしたりして、現代コミュニケーション論を組み立てていた。

ちらっと見学しただけでも刺激的だったが、一年間1つのテーマを追究していく生徒たちが知的にも感性的にも大きく成長するのは火を見るよりも明らかだった。目の前に希望のスペースがパッと広がった。

後ろ髪をひかれつつも、田中ゼミに戻ってみると、白熱議論が起きていた。

「機会」と「脅威」は、実は分けにくい。表裏一体で、機会は常に脅威になるし、脅威は機会をつくるなど、マーケティングのダイナミズムについて、直観的なのだろうが、なかなかセンスのよい議論していた。そして、私たち大人は、今まで中高生をあまりにも決められた枠の中に押し込めてきたのではないか、もっと中高生の発想の自由を、三田国際のように大切にしたほうがよいのではないかと改めて思いもした。

中間報告のプレゼンも、大人顔負けの指摘が多々あった。たとえば、消費者を抽象的に捉えずに、人脈分析をして、セグメントまでしていたし、競合他社とのブランド力の差や立地条件の差異などを分析し、そこをどのように解決すべきかあるいは意志決定すべきか課題を明らかにしていた。

グループワークの合間に、田中先生に、企業活動が、リーマンショックに代表される欲望の資本主義の常であるリスキーなものを生み側面もあることについて、今回議論するのですかと尋ねてみると、もちろん会社を創業する時の理念を決めますが、そこで、社会と自分たちの幸福についての均衡をどうするか当然議論が生まれますと話してくれた。

この基礎ゼミナールで、生徒は会社を創業し、運営し、利益をきちんとあげ、決算報告や社会貢献まで考案し体験していく。田中先生によると、実際に社長や会計士にもきてもらい、アドバイスをしてもらうチャンスも作っていくという。

起業家プログラムというと、外部のプログラムに丸投げのところが多いが、田中先生は、すでにある学校の環境や、自分たちのネットワークを、市場経済の環境に見立てて、コンパクトにブリコラージュ的手法で作っていく方が学びの効果があると語る。

砂漠に放りなげられた時、身の回りにあるものを、サバイバルのための道具に仕立てる柔軟な野生の思考こそが、たとえ第4次産業革命になったとしても、いややはり予測不能な社会という点では砂漠と同じで、そこでサバイブするには、柔軟で創造的なブリコラージュ的思考が役に立つことは間違いない。田中教頭の英語圏の発想にはないフランス―ドイツ的な学問発想が、三田国際学園のインターナショナルな教育の奥行きを深くしているのだろう。

工学院 さらなる挑戦

工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」)は、21世紀型教育を完成するべくさらなる挑戦に取り組んでいる。それは、2020年大学入試改革で予想される大学入試問題の研究を通して、そこから越境する知の領域に拡大する授業のGrowth Mindsetに取り組むという教育活動。

21世紀型教育というと、巷では、多様な経験を積み上げ、創造的な活動をすることが第一の目的で、大学合格実績は二の次であるという間違ったイメージがある。それは全く違う。そのような考え方は学校や教師の立場の話であって、先鋭的な21世紀型教育はあくまで生徒の未来の生き方の可能性をいまここで共に考え、関門を乗り越えていくというところにある。その生きていく道に大学進学があれば、当然そこを突破する。

ただし、そのとき、21世紀型教育は21世紀型教育、大学進学指導は大学進学指導と二項対立にはもっていかない。両方を融合するというのではなく、両者は1つのシステムに収まるのである。by 本間勇人 私立学校研究家

2020年大学入試改革で、今メディアで話題になっているのは、大学センター入試に替る新テスト「大学入学共通テスト(仮称)」(これまで「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」と呼ばれてきたテスト)。特に英語4技能教育と記述式問題。しかし、工学院では、この点に関してはすでにカバーしているから、やはり最終関門である各大学個別入試を素材にして研究に臨んでいる。

とはいえ、2020年になっていないのであるから、各大学個別入試はまだない。しかし、従来の知識論理型思考をベースにした問題から論理創造型問題になるのはある程度想定済みであるから、現状すでに実験的に変わり始めている国立大学の問題をヒントにして研究していこうという試みである。

たとえば、今年の東大の数学の問題を、その場で、数学科の主任が解きながら、生徒にとって何がハードルか分析していく。そして、プロジェクトチームのメンバーが、教科を超えて質問していく。この数学の問題のどこに新たな地平が開かれるヒントがあるのかと。

すると、東大受験の生徒は体験してきただろうが、そうでない生徒はあまり体験しないで、大学に進んでいくということが判明していく。東大を受けるからそのような思考方法が必要で、そうでない生徒は不要というのが、20世紀型教育の効率重視の授業デザインだっただろう。

ところが、数学は公式やパターンを当てはめながら解けばよいのではなく、ある程度与えられた条件を整理しながら、なぜこの条件なのか予想する目検討の構えが必要であるということは、実は数学に限らず必要なことだという議論がでてくる。奥津高校教務主任は、それはバックキャスティングという発想で、数学をはじめとする教科だけではなく、イベントの企画を創るときにも必要な力だと語る。

その点に関しては、教科の違うメンバーで構成されたグループワークで議論しながら抽出していく。東大の数学の問題にフォーカスしながら、その背景にある思考スキルや発想という思考の領域に越境していく。

数学の教師としては、そんなのは当たり前であると通過してしまうようなところで、他教科の教師が、今の代入はなぜ生徒はしようと思うのか?パターンを当てはめるだけではないという判断はなぜできるのか?結局数学の思考スキルは1つの種類のバリエーションということなのか?国語でもそのスキルは実は重要だが、もう少し種類はあるかななど、数学科の教師の暗黙知を引き出していく議論が白熱する。

そして、東大の問題が解けるようになるにはというお題ではなく、素材として扱った東大の問題から見出した突破する思考スキルやコンピテンシー、発想法を身に着けるには、中1・中2のときに各教科でどんな授業をデザインしていくのか、中3・高1ではどうするのか、高2・高3ではどうするのかと6年間通じてのカリキュラムコンセプトのデザインをしていく。

このプロジェクト名は「qチーム(クエストチーム)」。中学の教科主任、高校の教科主任、各教科のリーダーで構成されている。各教科に浸透させていくと同時に、高校では、ダイレクトにこのような入試問題をトリガーとして展開させていく授業の場面も増えていく。

このqチームの探究活動で、素材としての大学入試問題を選択する太田中学教務主任、奥津高校教務主任、田中英語科主任は、「難度」で選択しているのではなく、「思考コード」に照らし合わせて「論理創造型思考を要する問題」、「ルビンの壺型問い」が埋め込まれている問題を探し出す。素材としての大学入試問題の選別眼は、実は問いを創るときの視点と重なる極めて重要な研究でもある。

 

静岡聖光学院 新草創期の息吹

風かおる東の道のたたなわる小高き丘になつかしく学び舎は立つ。静岡聖光学院は、南に太平洋を望み、北に富士山を仰ぐ、澄み切った空気に包まれる丘の上にある学校。雨が降り、霧が立ち込めれば、天空の城ラピュタさながらだとも言われている。
 
来年2018年、静岡聖光学院は、中学校設置認可されてから50年が過ぎようとしている。学内では、周年事業の一環として、ハードパワーではなく、教育のソフトパワーのさらなる進化/深化を追究することに決めた。by 本間勇人 私立学校研究家
 
 
(左から、星野明宏副校長、岡村壽夫校長、田代正樹副教頭)
 
それは、開設当初ひたすら学問の自由を追究したアカデミアの殿堂を引き継ぐことも意味する。開設当時、最先端の教育ソフトを実践し、生徒の未来をともに創ってきた草創期の息吹を、50年目、再びもっともっとふくらますというのだ。
 
開設当初の教育ソフトとは、「学問」そのものであった。当時の初等中等教育の学習指導要領は「現代化カリキュラム」と呼ばれ、スプートニク・ショックという衝撃が生み出した宇宙をも視野に入れた科学の最前線を生徒と共有しようという時代だった。
 
 
(身近な問題から、合意形成のルールを抽出するPBL型授業)
 
現代数学や最新の科学の内容が盛り込まれ、時間数も、脱ゆとりの学習指導要領と比べても16%も多かった。それゆえ、その濃密過密の反動として、ゆとり教育への路線を開いたのも確かだったが、初代のピエール・ロバート校長は、学習指導要領の量を問題にするのではなく、その背景にある時代の精神を引き受けた。
 
それは、目の前の生徒にとって未来を拓くカギは、学問や科学であり、「聖光 聖光よ望み湧き わが命拠る アカデミア」と聖光讃歌にあるように、未来を創り社会に貢献するには、大学で研究ができるアカデミアという学問の道を説くことなのだと。当時の大学進学率が20%いかなかったことを鑑みれば、いかに斬新な教育だったか了解できる。
 
 
(自然科学の知識や用語を、英語で調べ直す作業も)
 
岡村壽夫校長は、母校静岡聖光学院の2期生であるが、開設当初から、自分の好きなことにチャンレンジする気風があったと語る。チャンレンジには失敗がつきものであるが、大いに試行錯誤が奨励されたという。それは、教師も生徒も同様で、したがって、教師は専門教科以外に自分の好きな領域についても生徒といっしょに探究してきた伝統があると。
 
そして、50年。同校にとって、歴史を積み上げてきた記念碑的な数字であるが、同時に時代は、第4次産業革命の衝撃、人工知能のシンギュラリティショックという異次元の局面にぶつかっている。
 
 
(英語のスピーチをペアワークで)
 
アカデミアへの強い意志は、新たな科学、技術、エンジニアリング、数学、哲学などへ再び挑戦する時を迎えたのである。
 
星野明宏副校長は、「この大きな時代のウネリに立ち臨むには、小手先の改革改善では歯が立たない。あたかも新しい静岡聖光学院をもう一校創り出す新草創期の気概で行動しなければなりません。幸い学問への気風の伝統があります。それを引き継ぎながら、新たな学問環境に備える最先端の教育ソフトパワーを展開する50周年にするべく動き始めたのです」と気概に満ちている。
 
そして、そのアイデアは、「アカデミア部」という新たなプロジェクト部署を立ち上げてすでに実践が始まっている。
 
その中核メンバーである田代正樹副教頭によると、アカデミアの活動として「個人研究」「職業体験プログラム」「ゼミナール活動」など多様な探究活動が進化/深化しているということだ。特に、50年という歳月は、OBの中に東大や京大の教授も輩出し、後輩である在校生と学問研究プログラムの協働活動も進んでいるという。
 
たしかに、大学の学問も再構築される時代である。中高もその動きに対応するには、学びの環境そのものを進化させる必要がある。そして、同校のアカデミア活動を支える生徒一人ひとりの好奇心、開放的精神、探求への眼差しという内発的動機づけは、日々の授業が源泉となる。
 
 
(素数のルールについて対話している数学授業のシーン)
 
静岡聖光学院が探究授業としてのPBLやC1英語教育、ICT教育を大胆に授業でスタートした理由は、以上のような50周年記念事業を機に描いた教育ソフトパワーの大きなグランドデザインに根差していたのである。
 
 
(授業中は、静かに生徒を見守る人工芝)
 

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