東京女子学園の21世紀型教育(1)新しい教養

東京女子学園は、ベルリンの壁が崩壊した直後から、時代の要請に耳を傾け、ビジョンを描き、21世紀型教育を積み上げてきた。

創立以来110年、近代日本国家成立の歴史とともに歩んできた。そして、時代の声を聴きながら建学の精神を不易流行しながら独自の教育を創ってきた。グローバル人材育成時代が本格化する今、東京女子学園の教育の手ごたえについて、理事長校長實吉幹夫先生に聞いた。(by 本間勇人:私立学校研究家)

右から實吉幹夫先生(東京女子学園理事長・校長)、辰巳順子先生(校長補佐 広報室室長)

――110周年を迎えた東京女子学園が大切にしてきた「教養」は、今や大学改革や教育改革がグローバル人材育成と重なって、「リベラルアーツ」として見直される動きがあります。学園としての「教養」について、どのようにお考えになっていますか。

實吉先生:東京女子学園は、科学技術の長足な進歩に支えられて発展した20世紀とともに歩んできた。ご承知の通り、20世紀は負の遺産も多く残したけれど、開国当初は、より善い国家を創るところから始まった。

封建社会から近代国家に大転換したのだから、その当時の若き先達者たちは、大いに勉強し、異国の文化を研究し、外国の人と交流・交渉する激動の時代を生きた。

時代を画する偉業を成し遂げる人材は、その努力と創意工夫と試行錯誤を通して、高邁な勇気と品を歴史によって鍛えられる。

東京女子学園の初代校長棚橋絢子先生もその1人で、まさに「人の中の人となれ」にふさわしい私学人だった。そのとき以来絢子先生の品や人格すべてを体現することが、私たちが大切にしてきた「教養」だと考えている。

しかし、その当時の教養は、近代国家の光の側面とは反対の影の側面の進行によって、権威としての教養や知識に変質した部分もある。戦後再び復権するかのように見えたが、高度経済成長とポストモダンの勃興によって、権威や権力に対する揺らぎが生じ、同時に教養までもその存在が危うくなった。

ところがベルリンの壁が崩壊し、それまでとは違い目まぐるしく変わり、しかも不確実で予見できないことが頻繁に起こる21世紀になって、その全貌を見通せる見識が再び必要になったんじゃないかな。

そんな近代国家以来の歴史の中で、東京女子学園は、ずっと「教養」を大事にしてきた。なぜなら人々が時代に翻弄されるのは、今に始まったことではなく、ずっとそうだった。だから、その変転する時代に、自分をもって、自分の夢をもって、共に助け合いながら夢を自分を実現する凛とした人格や品を身につける生徒の生き様を支えてきたのが東京女子学園。そういう生き様に反映しているものが「教養」だと考えている。

ただ、「教養」とはその人の生き方すべてを語るから、21世紀の時代になって、その「教養」を身につける教育方法や道具、環境は時代によって全く違う。

基礎となる部分は普遍だが、その基礎を形作る方法や道具、環境は変わるというところまですべて包括するならば、今の東京女子学園の「教養」は「新しい教養」として現代化していると言えると思う。

そして、その「新しい教養」の実践の過程で、基礎の部分にさらに磨きがかかり、明快になってくるということもあるかもしれない。

――その「新しい教養」の「基礎」の部分が明快になってきたと思われるのはどういうところですか。

實吉先生:はっきりしていることの1つは、子どもたちが大学へ進学する準備をしている状況ではないということじゃないかな。時代がどんどん変わるというのは、進路先もどんどん変わるということだから、大学を出た後、時代が要請する仕事を選択したり創ったりすることができる自己を確立していくモチベーションや基礎知識、学び方を備えた高い能力と資質が必要だということ。

そして、この能力や資質は、他者の言葉や行いを受け入れるというところから始まるということではないかな。今までは、課題は教師に与えられ、その解き方の過程が問題解決だと思われてきたが、今では課題や問題それ自体が何であるかを、自分で生み出さねばならなくなった。

しかし、それは自分都合の課題ではなく、社会や世界の人々と共通する課題でなくては、自分が直面している課題でさえも解決することはできなくなっている。

だから、受け入れることは大切だし、そのような包容力があるということは教養があるということでもある。

もっとも、自分都合の課題を設定して、それを解決することが社会のためになるという人物もたくさんいるが、そういう人物とは真逆の素養をもった人物を育てることこそ「新しい教養」の使命だと考えている。

――「新しい教養」を身につける教育方法については、どのように考えていますか。

實吉先生:1991年に開催された第26回ユネスコ総会において、すでに21世紀の教育や学びの方法について検討するため「21世紀教育国際委員会」が設置された。
その委員会が、96年に世に問うた報告書が「学習:秘められた宝」(Learning:The Treasure within)。そこには学びの4つの柱が説かれている。

知ることを学ぶ(learning to know)
なすことを学ぶ(learning to do)
共に生きることを学ぶ(learning to live together)
人間として生きることを学ぶ(learning to be)

この4本の柱に影響をうけながら、東京女子学園の教育を積み上げてきている。このような視点で授業見学や生徒と対話してみていただければ、なかなかおもしろいと思うよ。

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