聖学院 「思考力セミナー」高次思考力を育てる

昨今、聖学院は、その教育の質とその積み上げによる成果としての大学合格実績や海外大学の実績が評価され、メディアで頻繁に取り上げられるようになっている。

その教育の質をどのように作り上げているのかリサーチした。 by 本間勇人:私立学校研究家

思考力セミナー

2年前から、聖学院は、受験生が見たこともないような素材や既習の知識ではなく、未知の知識から出発して、どこまで思考を組み立ていけるのかを試すことができる「思考力テスト」を入試の中に組み入れた。

今日本の教育では、日本語IB校200校構想であるとか、スーパーグローバルハイスクール100校構想とか議論され、「グローバル人材育成時代」に突入し、「思考力」しかも「高次思考力」が重要であるというのは、理解しやすい土壌ができた。しかし、2年前から導入するといういわゆるカリキュラムイノベーションの動きは、中学受験市場で受け入れられるかどうかは賭けだった。

しかし、伊藤豊先生(教務副部長)によると、生徒にとって、未知の事象に遭遇して、既存の知識を使いつつ、新たな知識を獲得しながら、問題解決していく高次思考力が必要であるというのは時代の要請。その声を聴いてしまった以上、聖学院は、動かざるを得なかったという。そして、それは中学受験市場で支持されることになった。

1年目は、プロジェクトチームをつくってプログラム及びテキストを制作し、プロットタイプを積み上げていった。2年目はそのプロジェクトチームの活動は引き継ぎながらも、学内全体で研修を行い、聖学院の「思考力」とは何か?そのビジョン、コンセプトを共有。そして具体化・ロゴス化の段階に入ったという。

「思考力テスト」を受験する生徒にとって、そのテストが従来型とはまったく違うため、聖学院は、その授業として「思考力セミナー」を毎回説明会があるたびに開講し、体験できるように工夫した。セミナーに参加する生徒は回を重ねるごとに増え、伊藤先生は、「高次思考」への期待が、中学受験市場で高まっている手ごたえを感じると語る。

さて、「思考力テスト」のプログラムの肝は、聖学院の授業の基礎である構成主義的学習観。生徒が教わり、独りで問題を考えていくだけではなく、教師と生徒の対話、生徒どうしの対話という関わりを通して、問題解決をしていけるように、ふだんの授業は設計されているが、その関わりのボリュームをたっぷりとっているのが「思考力セミナー」。

構成主義的学習観と言っても、たくさんの考え方があるが、伊藤先生によると、学内研修で確認し合ったのは、基本コンセプトとして、ヴィゴツキーの「最近接発達領域(ZPD)」。自分一人ではジャンプできなくても、関わり合いの中でジャンプできるようになる学びの領域が、生徒1人ひとりによって違うが、そこを共に発見して思考力をパワフルにしていこうというもの。それは氷山モデルで見てみると、暗黙知の領域を見える化・形式知化する作業にも通じるのではないかということだ。

もう1つ確認し合ったのは、高次思考への道筋だという。「発見体験→シェア体験→新たな問いの探求→100字要約」という道筋で思考力セミナーや思考力テストは創られているが、その背景の学習理論は、ブルームのタキソノミーや仏教的発想などなど様々な世界標準モデルの考え方をリサーチして、聖学院モデルをつくった。

さらにもう1つ、教師と生徒の関わり、生徒と生徒の関わりの「関わり」を形成する時に何を触媒にするかについても確認。その「媒介ツール」を何にするかという意識についてである。

一般に授業やテストの媒介は「言葉」「数式」であることが多い。「グラフ」「図形」「写真」「器具」「ICT」は、その補完として活用される。しかし、生徒は、この補完物を媒介したとき集中するし興味・関心を広める。そこで、この補完物を「言葉」や「数式」と同じレベルで、いわば主役として活用してみた。

これはMITメディアラボから生まれ出て最近トレンドになりつつアクティブラーニングの手法の1つ“Learning by making”。興味・関心がわいてモチベーションがアップしてきたとき、生徒は学びに没頭する。それを、ハーバード大学のハワード教授は、フロー状態と呼び、新しい学びの重要な要素としている。MITメディアラボのシーモア・パパート教授による「レゴ」による“Learning bu making”の手法も生徒に大いに受け入れられた。

聖学院の教育の質が向上するのは、1人ひとりの生徒の最近接発達領域を見出し、そこを共にジャンプする方法を日々研鑽し、貪欲に探求し続けるところに理由があったのである。

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