今回八雲学園の文化祭を、21会リサーチャーの松本実沙音(東大文Ⅱ)さんといっしょに見学した。本間はこの一年の取材の展望視野でざっくり見学。松本さんは、今回のテーマ「MESSAGE」という切り口で、丁寧に取材。八雲学園の在校生の「1人ひとりの想い」や「世界観」を吸い上げている。松本さんのレポートを紹介する。
10月12日から13日の二日間にわたり、八雲学園で文化祭が開催されました。私は二日目の朝に、開門前に正門に到着したのですが、そこには既に入場待ちの長蛇の列が出来ていました。吹奏楽部の迫力ある演奏と共に門が開かれ、次々と学生や親御さん達が八雲学園の中へと入っていくのを見ていると、それだけで八雲学園の楽しげな雰囲気を感じることができました。
文化祭パンフレットの中で、今年の生徒会長が八雲学園の生徒が大切にしている「Welcomeの精神」という伝統について語っています。これは、いかなる時でも学園を訪れる人々には、爽やかで温かな気持ちを感じとってもらえるよういろいろな心遣いをしていく、という精神でしょう。
文化祭という行事は、この伝統を学外の人々に直に伝えることができる機会の一つです。八雲学園の生徒たちは、「Welcomeの精神」に加え、今年の文化祭のテーマ「MESSAGE」の両方の要素を感じさせる展示や発表を訪れる人々に見せてくれました。
八雲学園の文化祭では、中学一、二年生のクラスは必ず夏休みの研究の発表を行います。研究の対象は、「乗り物」「動物」という大きな括りから、「発酵食品」「塩」「テレビ局」「オリンピック」など、専門的な内容まで、様々でした。
全ての研究発表の教室を見てまわりましたが、どの教室に入っても受付の生徒たちは「こんにちは」「クイズをやっていきますか?」と声をかけてくれ、教室を去る際には小さなお菓子をプレゼントしてくれたところもありました。このような一見小さな気配りの中に、包み込むような「Welcomeの精神」を感じることができます。
中学一、二年生のクラスの研究内容の展示全てにおいて、次の二つの共通点が挙げられます。一つ目は、情報量が非常に多く、その情報の質が高いことです。
例えば、「2の塩雪姫と38人の小人たち」という中学二年生の展示では、私たちが普段何気なく使っている「塩」について調べた調査結果を見ることができました。そこには、塩生産の歴史、世界各国の塩の種類の紹介や、その生産方法などの基本的な情報に加えて、「塩を実際に作ってみる実験」のやり方と結果報告がありました。
普通なら、「塩」に絞った調査はあまり深入りできそうにないように感じられるでしょうが、八雲学園の生徒たちは、調査した上で自分たちで実行してみるという段階にまで踏み込んでいくのです。これに私は、文化祭テーマ「MESSAGE」を感じました。
「MESSAGE」がテーマであるとはつまり、生徒たちの活動一つ一つに「伝えたいこと」つまり「目的」及び「意味」があるということだと考えられます。このクラスにおけるそれは、「私たちが当たり前のように使っている塩を作ることの大変さ」だったのではないでしょうか。
また、クラスではなく部活動の展示ですが、英会話部の「ALL ABOARD!」という展示では、アメリカ・イギリス・オーストラリアなどの英語圏の国々の違いがまとめられていました。それは、表面的な文化の違いの紹介にとどまらず、細かいマナーや会話の流れについても触れられていました。
例えばオーストラリアでは、普通「Excuse me」と言ってからくしゃみをし、近くにいた人は「Bless you」(お大事にと似たニュアンスの言葉)と言う、という一連の流れがあります。このことについて説明をするセクションが展示の一部にあり、生徒たちの入念な調査や、読んでいる人が関心を持ってくれるであろう情報を選択していく気配りを感じました。この姿勢は、生徒会長が語っていた「Welcomeの精神」につながります。
中学一、二年生の展示における二つ目の共通点は、時代に沿ったタイムリーな話題がよく盛り込まれているということです。例えば、「目指せ!八雲オリンピック」というオリンピックについてのあらゆる知識を展示した教室では、2020年の東京オリンピックについての展望が書かれているポスターがありました。
「Y’s 放送局」というテレビ局についての調査を行ったクラスの展示では、視聴率について、その測り方・上げ方、テレビ局内での役職について、アナウンサーたちの工夫、ニュースについてなど、テレビ局に関連した話題を幅広く扱っていました。
その中に、最近のテレビドラマで特に視聴率がよかった二つのドラマを話題に挙げ、「あまちゃんと半沢直樹の共通点」を考え、それらが高い視聴率につながったことについての考察を行っているセクションがありました。
これらの展示を通して、社会の出来事を敏感にキャッチでき、それを自らの研究課題に盛り込むことで学びと社会を結びつけられる八雲学園の生徒たちの能力を感じることができました。
いろいろな教室をまわっている中、廊下で書道作品の展示を見ることができました。八雲学園の書道はとても個性的で、普通なら全員が同じ単語を書くところを、皆がそれぞれ、短歌や小説の一部を、改行や字の大きさ・フォントなども自由に決めた上で書くのです。
「吾輩は猫である」「羅生門」「枕草子」「伊勢物語」などからの引用がありました。一つ一つの感想欄を読んでいると、「文章の暗さを表現するために工夫して書いた」「強調したいと思った文字は太く書いた」「作品の雰囲気を伝えられるように頑張って書いた」「文章の意味を理解した上で書くようにした」などと書いてあります。
なるほどこれは、文化祭のテーマ「MESSAGE」をそのまま表したような作品群だなと思いました。一人一人が違うものを伝えるために、試行錯誤をして文字を書く。これは、書道作品に限らず、全ての展示・模擬店の中に感じられたことです。