東京女子学園 デビッドソン予測すでに克服(2)

キャリアガイダンスの緻密なデザイン

今回のテーマは「働くことや職業について学ぼう」。もちろん、単純に職業――医者、システムエンジニア、会計士、経営者・・・――の種類について学ぶのではない。どういう職業観、勤労観とそれぞれの職業と結びつくのか、その社会的慣習ルールと生徒1人ひとりのパーソナリティはどう関係するのかを個人個人考え、グループで議論していくのである。

つまり、職業という社会的制度や慣習ルールと自己実現の接点・共通点そして相違点を考えるプログラムになっている。世のキャリア教育は、職業の背景である社会的制度や慣習ルールまでなかなか踏み込めないでいるし、自己実現という価値意識をそれとどうリンクするのか、いわば古くて新しい「社会と個人」の問題を解決できないでいる。

「社会と個人」の問題を解決しようとする意識は教師陣が、そして職業の背景である社会的制度や慣習ルールの課題意識については、キャリア・コンサルタントチームがそれぞれ得意とする。それをどのようにリンクするのか。キャリア・コンサルタントチームのスーパーバイザー弘中茜さんは、こう語る。

「数え方にもよりますが、現在、職業の数は30,000種類あるといわれています。この職業を限られた時間で、1つひとつ学ぶことはできないのは言うまでもありません。それに職業も変わります。残念ながらなくなってしまうものもありますし、新しく生まれるものもあります。大切なのは、生徒さん1人ひとりが、職業をカテゴライズするものの見方・考え方を身につけることだと思います。

ですから私たちは、プレディガーの職業の4つの軸(データ・アイデア・ひと・もの)モデルを生徒といっしょに考えます。また、カテゴライズの視点は1つではありません。いろいろな考え方ができます。ホランドの6つのタイプ(慣習的・現実的・研究的・芸術的・社会的・企業的)も活用します。

そして大事なことは、この2つの理論を掛け合わせることです。それによって、生徒さんは、柔軟に職業の背景や価値観をとらえる目を養えます。柔軟といっても、時代が変わっても、軸はある程度固定的です。たとえば、今のところデータとアイデアは対局軸ですから、ショートさせないようにします。

さらに、この軸は、実は個人のパーソナリティとも結びついているということです。これについては、キャリアガイダンス以外の学校の教育活動に性格に関する適性検査がありますから、生徒さんは、それをリンクして考えます。

またこのガイダンスに参加した卒業生が2回すでにでていますが、東京女子学園キャリアカレッジという卒業生の進路相談や卒業生による進路講演にも、生かされているということです。

卒業生のアンケートを毎年とりますが、キャリアガイダンスで身につけたものの見方・考え方は役に立っているという声を頂きます。」

このように、東京女子学園のキャリアガイダンスは、キャリアコンサルタントによる専門的なキャリア教育のスキルが緻密に織り込まれ、同時に学校の様々な教育活動にリンクしている。

(個人ワークで自己の内面で考えをめぐらしている)

(グループワークで議論。自分の考えをアウトプットし合いながら課題が解決されていく)

そして大事なことは、「考える」という時間をたっぷりとっているということなのではないだろうか。この「考える」という時間を充実するために、その環境もまた緻密に計算されている。

・個人ワーク:まずは直面する課題は自分で考える
・グループワーク:個人の考えを発表し議論する。多様な考え方を知ることは、オープンマインドを広げ、新たな気づきを生み出す。
・そのために、チームは5人あるいは6人で、全員が参加できる数にしている。
・また2クラス合同で行い、チーム構成は2つのクラスのメンバーがミックスされる。
・学校として1つの建学の精神を共有しているが、クラスにはクラスのサブカルチャーが存在するため、その微妙な価値観の差異がグループダイナミックスを生み出すチャンスにもなる。

そして、グループだけで解決できず、行き詰ったときに、サポートするファシリテーターが、キャリア・コンサルタントチームのメンバー。解答を教えるのではなく、何が壁なのかをチームで気づくように、切り口をいっしょに探す役割。全員厚生労働省の認定するキャリアコンサルタントの資格を取得している。

ファシリテーターとしてのキャリア・コンサルタントの答えを教えない役割は、従来型の学校教育では理解しがたい役割だった。しかし、21世紀型スキルを生徒とともに学ぶ新しい学びにおいてその役割が注目を浴びている。

この役割をいちはやく受け入れている東京女子学園の教育フィロソフィーがいかに先進的であるかということを物語るシーンでもある。

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