聖学院 「思考力セミナー」進化する

先月、『聖学院 「思考力セミナー」高次思考力を育てる』を書いたばかりだが、生徒の発達と同じように、学内で自主研修を行いビジョンを共有し、「思考力テスト」のチームワークが強化された結果、その対話が早くもケミストリーを生んだ。

11月9日に行われた「第4回思考力セミナー」は、クリッカーを活用し、生徒が自分の意識を数学的考え方に結びつける「開示悟入」のプログラムとなった。by 本間勇人:私立学校研究家

(「思考力セミナー」の対象は中学受験生。聖学院の教科学習の土台になっている「ものの見方・考え方」を共有している。聖学院の授業は、国語を考える、数学を考える、理科を考える・・・だけではなく、国語で考える、数学で考える、理科で考える・・・という構造になっている。つまり、考えるコトを考えるという高次思考を大切にしている。イギリスやアメリカ、シンガポールなど各国の世界標準の学びは、このレベルまで到達しているので、21世紀型教育を実践している聖学院も同じ地平に立っている。)

アイスブレークの意味

今回の思考力セミナーは、「配布されたプリントに描かれているキャラクターの中から、好きなものを3つ選びましょう。なぜそのキャラクターが好きなのかも考えてみましょう。(形? 性格? ストーリー? などなど)共通点はありますか」という問いかけから始まった。

参加者の半分は、「今日は〇〇を勉強します」というゴールが説明されなくても、「考えるコト」を学ぶのであって、素材を学ぶわけではないと理解している。だから、このスタートの仕方に違和感を抱くことはない。むしろ、今日は何がでてくるのだろうと「サプライズ」を期待する。

初参加の生徒も、回りの雰囲気がすでに考えるコトへの準備ができているし、まずは体験からはじめようねという声かけに緊張しながらもワクワクしている。この学びの場づくりがアイスブレークの重要なポイント。ワクワク、ドキドキという生徒1人ひとりの想いが立ちあがるところから学びははじまる。

著作権の関係でお見せできないが、16ものキャラクターが描かれているワークシートが配布されるや、生徒たちの表情が豊かになったのは想像に難くないだろう。ここでは、生徒1人ひとりの主観を受け入れるところから始まる。当事者意識が広がるのである。

主観であっても、なぜそのキャラクターを選択したのか理由を考える。この小さな主観と客観の距離が生まれることが、あとあと学びを決定づける。そして、チームで自分の選んだものとその理由を発表しながら自己紹介をする。一瞬にしてチーム意識が出来上がる。「最近接発達領域」の場の設営でもある。

発見体験とシェア体験

次の問いかけは「モナリザです。この中で、好みの顔を選ぶとしたら何番の顔を選びますか? (正しいものを選ぶ必要はありません)」。ダ・ビンチが描いたモナリザは、有名な黄金比で描かれているが、様々な比で描いたモナリザから好みを選ぶ。そしてもちろんその理由も。すると自分の好みとダビンチの好みの違いを発見する。この違いはどこからくるのかとモヤモヤし始める。

そこで今度は、参加者がどのモナリザを選んだのかクリッカーで瞬時に集約。黄金比で描かれている3番よりも2番が多く選ばれている。いったいどういうことか。この段階では、参加者は黄金比の知識はない。ただただモヤモヤしている。しかし、いろいろな好みがあることを共有することは、いろいろなものの見方・感じ方・考え方があってよいという勇気をもてるきっかけづくりにもなっている。

そのモヤモヤの雰囲気がでてきたところで、ピラミッドやデジカメ、名刺、iCloudのロゴ、iPod、ミロのヴィーナス、パルテノン神殿、凱旋門などの大きさの比にルールがあることをみていく。1:1.62の法則。そしてそれを黄金比と呼ぶことは知識として教える。

しかし、黄金比を憶えるのではなく、いろいろな比があることを体験したうえで、なぜかその中から一定の比が公共的に存在しているということと自分の主観が違うということとを考えるコトの基準として黄金比を活用しようという、知識のリンクと適用がポイント。

今度は、先ほどの4枚のモナリザの比を実際に、測ってみる。そして電卓で比を計算する。クリッカーを使ったり、電卓を使ったり、learnnig by makingは学び方を知ろうとする意欲や学ぼうとうする意欲をかきたてる。

新たな問いの探求

参加者が選択したのは黄金比のモナリザだけではなかった。すると黄金比が美の尺度であるというのは、参加者の主観が認めない場合があるというのを、参加者全員が考え始める。そこで今度は白銀比の知識を提供する。すると、黄金比以外に選択者が多かったモナリザが白銀比であることに驚く。

そして、ここで再びアイスブレークの問いに戻るのである。しかし、もはやこの段階では、たんに好みの主観的な話ではない。道具として、黄金比、白銀比、クリッカー、電卓があるのである。参加者は何をすればよいのか理解したのである。時間があれば、16のキャラクターのサイズを測って、比を出して、データを創り出すという学び方を適用することになる。生徒たちはそうしようとしたが、時間がない。

次の瞬間、生徒たちはだいたいの見当でよいから、大切なことはカテゴライズすることであることに気づく。そのときに黄金比や白銀比は、1つのわかりやすい点で、後の多様な比はファジーというかグラデーションの変化であることがわかる。もちろん、ファジーとかグラデーションということばは使わないだろうが、要素ではなく、関係としてカテゴライズする学び方を体得する。

自己評価

最後の問いは、自分が気づいたことを言語化するという100字要約。授業で自分がどのように考える軌跡をたどったのか鳥瞰するメタ認知へステージアップする。そしてその中で自分自身はどのような選択判断という自己決定をしたのか振り返る。

多角的に情報を収集し、分類し、一つの考えに偏らない状況を論理的に検証し、思考したうえで、自己決定する。この「知識→理解→適用(応用)→分析→総合→自己決定」という考え方を、生徒と共に学ぶ体験をするのが聖学院の「思考力セミナー」。

今回セミナーをコーディネートしたのは数学科主任の本橋先生。ご自身も自ら積み上げてきた体験を、普段の授業でさらに検証し、同時にIB(国際バカロレア)のハイレベル数学のワークショップで研鑽して、授業の論理展開をデザインしている。高次思考とは、偏差値のように難度を示すものではない。

20世紀型教育では、「知識→理解→適用(応用)」で終わっていて、思考の循環が途切れていた。21世紀型教育における高次思考とは「知識→理解→適用(応用)→分析→総合→自己決定」という思考の循環のことである。一見簡単にみえる素材も、この思考の循環によって、新たな発見が生まれる。もはやそのケミストリーは簡単とか難しいということではないだろう。

 

 

 

 

 

 

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