富士見丘の教育活動は、グローバル教育やサタデープログラムなど多様で特別な学びの環境が設定されている。しかし、同校の特徴的なところは、1つひとつのプログラムのクオリティのみならず、すべての教育活動が有機的に連関して相乗的な質を豊かに生み出しているところにある。授業とサタデープログラムの一つの柱「自主研究『5×2』」の相互関係について聞いた。by 本間勇人:私立学校研究家
左から、教頭大島則男先生、中島正樹先生(社会科)、関根淳先生(社会科)
「資料やデータに基づく知識のつなぎ方」と「合理的な考え方」が授業の基本
――富士見丘の授業の役割について、担当の社会科の授業を通して教えてください。
中島先生:どの教科もそうですが、特に社会科の授業の最終目標は、生徒がどのように社会に参加し貢献していけるかということです。それには、ただ知識や社会の仕組みを詰め込む形の授業は有効ではありません。
では何ができるのかというのが、私たち教師の腕の見せ所ですが、生徒が学んだ知識や仕組みを使って、生徒自身が何ができるのか、生活の中でどこで情報を得られるのかなど、何かしら自分で見つけられるようになる学びを組み立てています。
時事問題などを使って討論する「レディジャスティス」の試みも、社会というのは、どこで誰が何をどうやって決めているのか、社会の仕組みをいろいろな目線で見て学び、最終的には自分の判断を持てるようにするのが目的です。
もちろん、グループディスカッションやフリーなディスカッション、プレゼンテーションを取り入れていくのは、秋以降ですね。それまでは、一斉授業の形式です。大事なことは、この「現代社会」の年間授業のサイクルはもう3年目ですが、試行錯誤しながら、一年間のそのような流れを意識して授業を組み立てているということだと思います。
関根先生:中島先生の話とつながるところもあると思いますが、社会科は知識をつなげて、体系化していく教科です。ばらばらの知識に、歴史の流れや原因と結果を求めていくと、知識はつながって体系化してきます。郊外の生徒の活動も、授業の中で学んだ知識と現代の社会の問題と動きにつなげて、自分なりに判断して実践していくことで、知識の体系化はそのベースになると思います。
その際に大事なことは、資料に即してそれを読み込んで、事実つまり客観的なデータに基づいてつなげていくということで、自分の頭の中で独りよがりなつなぎ方をすると体系化できないのです。
ですから、知識を1つひとつ暗記していくのではなくて、知識をつなげて体系化していくことは、テストで得点力をあげることにもつながります。テスト勉強と知識をつなげて体系化していくことは決して矛盾するものではないと思っています。
まして、文科省の今後の方向性や大学入試の変化は、ますます論述中心の問題が増えていくのですから、確実な知識、つまり資料やデータなど基礎事実にもとづいた知識を論理力でつなげていく体系化は、これからは情報処理の時代でもありますから、ますます重要になってきます。
――知識をつなげるということは、富士見丘では、社会科に限らずどの教科でも共通しているということでしょうか。「教科横断的」とよく言われるわけですが。
関根先生:現代の社会の中で、自分がどう考えどう行動するかどう生きていくか、実際に自分が生活する中で、自分が学んできた知識を、分野を越えて、別のところで応用・適用していくことができるようになってもらいたいわけです。自分の知識がある分野の中でしか使えないという段階では、まだ底が浅いですね。
ですから知識はいろいろなところで適用できるようにつなげていくという意味では「横断的」と言えるかもしれませんね。歴史科学でも自然科学でも、アプローチの手法は違っても、知識をつないでいくという点では学際的ですね。
中島先生:「教科横断的」という表現には、関根先生と同じように違和感があります。私は教科ありきで考えているからそういう表現になってしまうのだと感じています。大事なことは、生徒自身が「合理的な考え方」ができるようになることです。
歴史のテストや大学受験がありますから、年代も教えますが、そのときに、どうしてそういう歴史的事件が起こったのか、当時の合理的な考え方がなんであったのかを見過ごせません。
生徒とは、ここまで抽象的な方法論を展開することはないですが、たとえば、大仏がつくられた当時のベストな合理的な理由は何か考えてみようと問いかけます。そうすると、そこには教科のこだわりは初めからないのです。
関根先生:今の価値観とか倫理観、今の発想で、歴史を裁断していくことは、歴史の後知恵と言われるもので、避けなければなりません。その当時の人々がどのような思考様式や価値体系で、合理的な判断をしたのかを考える姿勢を持たなければなりません。
もちろん、判断をする現代の私たちは、今の価値体系で考えざるを得ないというところもありますが、時代によって「合理」の「理」が変わっているということを考え続けることは学びの基本姿勢です。
大島先生:資料や史実に基づいて知識をつなげて体系化するというのは本当に大切だと私も思います。身につけた知識を自分の中で関心のあるテーマに結びつけて考えているからこそ、富士見丘の生徒がいろいろな場面でプレゼンテーションできているということが改めて実感できました。
また、今日は社会科の授業の話が中心ですが、知識をつなげて体系化するとか合理的に考えるというのは、ジャンルに関係なく必要な学問の基本的な構えであるということも確認できました。そういう構えがあるからこそ、生徒が大学に進学しても探求していくことができるわけです。