戸板の広報部長今井先生は、自らも政治経済の授業を担当している。New Toitaの発信の要諦は、スーパーサイエンスコースとスーパーイングリッシュコースであるが、重要なことは、そのコースのカリキュラムが成立するための「中高6年間の授業の質」。質は、1時間の中で、どれだけ知識が結び付けられ体系が広がるか、その密度で測定される。
そして、知識と知識が結びつくには、一方通行の講義ではなく、相互通行の対話がカギである。そう今井先生は常に説いている。しかし、大事なことはその理念をどこまで実現できるかどうかである。学校の顔として「相互通行型授業」を説く以上、自らその実践者でなければならない。その覚悟の授業を取材した。
今日の一面から始まる「教師と生徒の相互通行」
中3の時期に、教科書や資料集などのテキストをいくら読んでも、なかなか政治や経済のイメージは生まれてこない。テキストに並ぶ用語は、具体性を伴わない抽象度の高い専門用語が多い。社会に出るや、そのような用語を使う毎日であるし、これだけ変化の激しい世の中を読み解くときに、専門用語だからわかりませんでは済まない。
どんな抽象的なことばも、もとは具体的な事象現象から抽出されているわけだから、その具体性を体験していれば、具体と抽象が結びつく。結びつくや、高感度な抽象的なことばとして、自在に使えるようになる。
今井先生曰く、
「その体験は、結局は社会に出てからでないとできないという歯がゆさがあります。そこで、授業では、中学生にいかに体験シミュレーションを創意工夫するかが決め手になります。身近な例や身近な生活に、いかにグローバルな政治や経済がせまっているのか、それに気づけば、サプライズが生まれ、理解ができ、興味と関心、好奇心が生まれるのです。」
そのため、今井先生は、「今日の一面」というトピックから授業を始める。タブレットにアプリで取得した新聞紙面を、モニターで映しながら、生徒と対話する。
さあ、新聞を読んで、要約しようという展開かと思ったが、それは違った。興味と関心があれば、読むだろうし、すでに読んできている生徒もいるだろう。大事なことは、新聞を開いたら、それをどう読むかである。今井先生の生徒との相互通行型の対話は、記事の読解ではなく、新聞という身近なテキストの使い方についてだった。
なぜ今2000万人なのか?今までどうして減ったり増えたりしてきたのか?その時代の背景を想像しながら考えていくための道具として、「今日の一面」は見事なトリガーになっていた。
昨日(2014年1月18日)の大学入試センター試験の政治経済の問題にこんなグラフの読み取りの問題があったが、グラフの上下は、時代の経済的な背景に相関しているが、まさに「今日の一面」で行われた対話という問いの投げかけと同質の問題。一年間毎回行われる「今日の一面」の相互通行型対話は、センター試験の問題にも直結していた。
もちろん、それが今井先生の授業の本意ではなく、あくまで時代を生きる生徒が、政治経済の感覚を基礎とした教養を身につけることがねらいである。教養とは、時代を読み解く目でもある。グローバルな世界の動きが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのときに、主役になっている自分たちにダイナミックにつながってくるイメージをもてるかどうか、その目を養う創意工夫が、「教師と生徒の相互通行型授業」なのであった。