戸板 大学入試直結の中3経済の授業(2)

自問自答も相互通行型授業

朝6時に、東京駅で、今井先生は4つの駅弁を購入した。駅弁ランキングを問いかける2つ目のトリガー―クエスチョンを投ずるためである。駅弁を袋から出す前から、生徒たちは、朝からお昼の匂いがすると敏感に反応。袋から取り出し、弁当の中身を開陳した時の生徒の嬉々としたサプライズの様子を想像するのは難しくないだろう。

生徒たちの好奇心や関心が全開になったところで、すかさずトリガークエスチョン。ランキングを考え、その理由をワークシートに記入しなさいと。まずは、個人ワーク。自問自答の時間が始まった。

自分だったらどれを選ぶかという気持ちも大切にしながら、他者は何を好むのか、それはどうしてか、生徒はぶつぶつ言いながら自問自答。相互通行型授業の醍醐味は、「自問自答」の機会の設定。それはなぜか。自分の限界を知るために必要なのである。限界とは、解答を導く情報の量である。ランキングを選択する条件の不足である。不足したとき、ああこれは勘だなという自己認識に到る。

教師と教師の相互通行 同僚性の力

実は今回の授業は、2つのクラスで同じ内容のものを行った。その際、どちらも同僚である教師が見学にきていて、授業のプログラム展開で気づいたことを助言するというシステムになっていた。2つめのクラスの授業に入る休み時間の間に、今井先生は、同僚の先生から、

「ランキングを考える条件は、自問自答しているときには示さず、自分なりの解答を出してから、ペアで話し合う時に、提示してはどうでしょう。その方が、自分が考えていた時に不足していた条件が何か、限界の認識が明快になるのではないでしょうか」

そこで、今井先生は、急きょプログラムを変更し、その助言を試みることにした。

個人ワークのあとにペアワークを行う段取りになったが、そのときに、ランキングを選択する条件として、弁当を買う顧客層、価格、商品名、見た目などを考慮するように提示した。それによって、話し合いの結果、自分の考えを変更する生徒も多くでた。

弁当ランキング選択決定には、数学や理科のような法則性はそう簡単に見つからない。複合的な条件をどこまで調べられるかだが、今回は自分たちの食生活や家族で行くレストランなど身近な体験値をフル活用するしかない。しかし、だからこそ、それぞれの家庭のデータが違うために、多角的な見方ができることに気づく。

正解のランキングより、いつしかものの見方考え方について話し合う相互通行型授業として面目躍如の展開となっていたのである。

そして、はじめ「消費」という言葉の意味が、商品を買う行為となかなか結びつかなかったのが、相互通行型授業を通してすっかり消費活動と自分たちの生活が結びつくようになっていた。

 

 

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