桜丘 iPadが学校にやってくる

7月15日、桜丘中学・高等学校で、<iPadが学校に来ると教職員と生徒はどうなるのか>というテーマで、学校公開イベントが開催された。iPad導入を果たした桜丘を一つの事例として公開することで、他校の教職員や一般企業の方々とともにICT教育のあり方を考えていこうという意欲的な試みである。学校生活での様々な側面でiPadが浸透しつつある様子を取材した。  by 松本実沙音 (TES社リサーチャー:東京大学文科二類)

 
桜丘中学・高等学校では、今年度の5月より中学校一年生及び高校一年生の生徒全員に iPadを配布した。専任の教職員には、昨年度の5月からiPadが導入されており、ホームルームや授業で実際に使われている。教職員の方々は、iPadの活用方法は生徒たちと一緒になって模索していったと話していた。iPadを導入する目的や使用方法などを最初から限定するのではなく、「まずはやってみる」「iPadそのものに触れながら活用方法を考えていく」という姿勢で、生徒と教職員が手を携えてきたのだ。
 
ホームルームで生徒は iPadをどのように使用しているのか、あるクラス担任の先生が話してくださった。
例えば、MC(桜丘では、日直当番の人のことをMCと呼ぶ)は、連絡事項をクラスへと伝達する際、連絡掲示板の写真を iPadで撮り、それを読み上げる。今までなら、連絡掲示板の内容をわざわざメモに書き込まなければなかったのが、iPadのおかげで時間短縮につながっている。 更に、その写真をリマインダーとして、他の生徒のiPadへと送ることもできる。「全員が iPadを持っている」ことの強みは「共有」できることにあるだろう。
また、プリント管理をiPad上で行うことができるため、紙のプリントを忘れてしまっても、友達のiPadからデータを送ってもらい、アプリケーションを用いてそれに書き込むこともできる。
このように、iPadは生徒達にとって、作業の効率化をはかるツールとしてまずは機能している。
 
先生のお話で印象的だったのは、iPad同士をつなぐネットワーク上のシステムを用いて、授業のプリント配布・連絡事項の伝達・アンケート・小テストなどが行えるようになったという利便性に加えて、そのことがクラスのコミュニケーションの質を変えたという点である。
体育祭でクラスのオリジナルTシャツをデザインするというイベントでのこと。従来は、デザインが決まると係の者と担任とT シャツプリント業者の間での作業となってしまい、「クラスでTシャツをつくっている」という風に認識できなかった。しかし、iPadとネットワークを利用することで、作業の進捗状況をデータ化して報告したり、Tシャツの色デザインのサンプル画像をアップロードして人気投票を行ったりすることが可能になったという。
個々のメンバーが「クラス」という全体を強く意識し、コミュニティへの帰属意識を強くしたのではないかとお話されていた。連絡事項の伝達の速さ・正確さも格段に向上したとのことだ。
 
 
中学一年生の英語の模擬授業では、Quizletを用いた授業を見学させて頂いた。Quizletとは、「単語カード」を作成・共有・テストできるネット上のサービスのことである。単語カードの表に日本語が書いてあり、クリックするとそれがめくれて、裏に書いてある英単語が現れる仕組みである。単語カードの内容でMatchingゲームやテストを行うこともでき、生徒たちは自分の好きな方法で学習が進められるのだ。
このQuizlet、実は私が暮らしていたオーストラリアの私立高校でもよく使っていた。私の場合、選択授業の中国語のクラスでこれを利用した。中国語の単語を暗記するのに、ノートに単語を一つ一つ書き写すよりも遥かに効率が良いので、Quizletばかり使って勉強していた記憶がある。そんなことを懐かしく思い出しながら、iPadを利用するということが、世界中の教育リソース、学習コンテンツを利用する可能性に開かれることを意味するのだと改めて認識させられた。 
 
高校生の模擬授業は、数学と科学を見学させて頂いた。どちらの授業でも、ホワイトボ ードに先生のiPadの画面が映し出され、それにホワイトボードマーカーで書き込んだりして授業を進めていた。生徒達もそれぞれのiPadを机の上に置き、授業を受けていた。生 徒たちには授業の前日またはそれ以前から、データとしてプリントがすでに行き渡ってい るので、アプリケーションを使用してそれにメモを取ることが可能だ。しかし、興味深かったのは、生徒達がiPadとノートの両方を同時に使っていたことだ。どうやら、授業で使 っているプリントも紙媒体でも配られているようである。それを、例えば途中式が多い数 学の問題を解く際にはノートを使う、といった形で、使い分けているのだ。
 
最後の 質疑応答の時間に、「iPadとノートの使い分けはどのように決まっているのか」という質問があった。それに対する答えは、「授業を行う先生が基本的なルールを決めるのだが、 高校生に対しては、基本的には自分の使いやすい方を自分で選択させるようにしている」ということだ。iPadで全てのプリントを管理したい場合はそれで良いし、プリントに手書きで書き込みたい場合はそれで良いとのことである。紙媒体のプリントも、書き込み終えた後に写真を撮ってしまえば、再度データとしてiPadで管理できるので、紛失した場合も対応できるからだ。
このように、iPadを全面的に導入したからといって、紙媒体を使った勉強・授業の形がなくなるわけではない。むしろ、iPad上か紙媒体か、選択する機会が与えられたことで、より自分にあった勉強方法を見つけ出すきっかけを生徒たちに与えている。更に、全員がiPadを所 有しており、ネットワーク上で全員と繋がることができるからこそ、コミュニティとして の結束が固くなる効果もある。情報の伝達のスピード・正確さが増したことによって、あらゆる作業が効率化され、無駄を省くことが可能になった。
 
今回の学校公開では、「とりあえずやってみる」ことの大切さと、iPadという一見高度なテ クノロジーを持つものに挑戦する際の姿勢のお手本を見ることができた。1年間の試行錯誤の上、教職員方と生徒達が一緒になって見つけ出したiPadの活用方法は、これ からも更に新たな発見を経て、進化していくはずである。 
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