聖徳学園 体験と授業をつなぐイノベーション(1)

聖徳学園は、個性と国際性をベースに創造性まで育成する先進的教育を行ってきた。閉塞状況に陥った20世紀末、子どもたちは居場所がなく、自己否定感と万能感に引き裂かれていた時代にあって、その子どもたちを導く教育に取り組んでいた。

21世紀になると、グローバリゼーションとICTが閉塞感をぶち破るかのようにみえたが、ツールとして英語を使えるかどうか、ICTでネットを自在にマネジメントできるかによってますます格差が生まれる時代を迎えた。各国は20世紀の教育スキルでは、このグローバルイシューを乗り越える教育を行えないと、21世紀型スキルを開発するグローバル教育の構築に翼を広げはじめた。

一方、日本の教育は、グローバル教育にジャンプしたくても、英語の問題があるし、情報の教育もパソコンが活用できる段階にやっと到達したレベルで、すぐには飛べない。そこで、文科省はスーパーグローバルハイスクール構想を掲げ、グローバル教育に飛べるモデル校をつくる政策を開始した。

しかし、それを待っていては、日本の教育はさらに立ち遅れることになる。そんな閉塞状況がさらに募る中、聖徳学園は新たな教育イノベーションに取り組むフェーズに進んだ。その教育イノベーションについて、聖徳学園校長伊藤正徳先生と同校スクールカウンセラーであり国際交流センター長の山名和樹先生に聞いた。by 本間勇人:私立学校研究家

伊藤先生:戦後20世紀は、御承知のおとり、日本の社会は良き大学良き企業に進んで、一家団欒を築き上げていくという終身雇用のシステムがしばらく安定していましたが、バブル崩壊後はそのシステムは揺らぎ、どういう社会で役に立てる教育をすればよいのか、教育行政自体、ベクトルが曖昧になりました。

そこで本校は、生徒が解なき社会に直面しても、生き抜く力を身につけるために、まずは自分自身の個性を磨く教育を行ってきました。また、当時はすでにグローバリゼーション勃興期ですから、それに対応できるさらに強い国際性を育てる教育も行ってきました。

個性と国際性、その葛藤と親和性は、創造性を育てる大きな契機にもなってきました。しかし、一方で日本の大学システムも紆余曲折しながらも改革が行われ、変わろうとしています。ですから、大学進学の教育も、当然強化しなければなりません。

すると、私たちが今までやってきた教育が実は世の中に明快に認められる時代が到来したととらえてよいのではないかと一瞬思いもしましたが、実はグローバルな動きはそんなものではなかったのです。

大学の変化自体、実は小手先の変化ではなく、国際ランキングを相当意識しているわけです。それを中等教育に置き換えれば、海外で動いている21世紀型スキルを導入している各国のグローバル教育に比肩する、いやそれを超える教育を行う必要が、日本の子どもたちにはあるという気づきがありました。

グローバル教育のキーワードは、「つながり」です。ネットワークということだと思います。ですから、本格的かつ」継続的に大学との連携教育に取り組み始めました。また、東京私立中学高等学校協会研究協力校として、「平成25年度ICT公開授業研究会」を実施しましたが、それをきっかけに、電子黒板やタブレットを授業に導入する授業改革にも着手しています。学内では、これらの動きを、時代に対応するあるいは牽引する教育イノベーションが、生まれたと認識するメンバーも出てきています。

山名先生:たしかにそれは実感しています。スクールカウンセラーと国際交流センター長を担っていますが、この二つの仕事が存在していること自体、教育イノベーションの動きに連動しているのではないかと自分では理解しています。というのも、この二つの役割は、一見違うように見えますが、生徒が自分の殻を脱ぎ捨て、多様なものやことの出遭いから、自分の判断で選択できる段階までサポートしていくという点で、共通点があります。つまり、校長の言う「つなり」のパースペクティブを複眼的捉えることができるからです。

生徒たちは、さまざまな体験に直面して、いろいろなことを感じます。自分ではどうしようもない感情が生まれてしまう場合があります。そんなときスクールカウンセラーとしての役割は重要だと思います。しかし、その仕事の中で、生徒が善きにしろ悪しきにしろ、想いを持つに至るには、「体験」が極めて重要だと確信するにいたりました。

私たちは学校という教育の場に立っています。生徒の想いや考え方を大切にし、その想いや考え方が生徒の内側からほとばしりでるのを、見守りはしますが、こうしろこれを選べという教え込みはしません。そうなってくると、生徒が選択する前提となる「体験」をいかに計画するかは教育としてとても大切なことだということに改めて気づいたのです。

その1つのプランは、杏林大学と聖徳学園との間で、正式な高大連携協定が交わされたことです。この活動は、どれもがすべてチャレンジですから、参加する生徒も私たちもモチベーションはとても高いプログラムです。

たとえば、ストローなどの素材で卵を保護し、校舎の3階から落として割れないようにするにはどうしたらよいかというアクティブラーニングは、失敗も恐れない試行錯誤の「体験」を通して、物理学的を発想を回転させます。大学の先生と聖徳の生徒と私たちが協働して授業を行っているわけですが、ここでやはり「体験」をどのように、行事だけではなく、授業にも導入していけるかがカギであることが了解できます。

もちろん、これは昨年の話ですが、聖徳の生徒15名が杏林大学の学医学部感染症学教室寄生虫学部門を訪れ、小林富美惠教授など多くの方々の指導の下で、講義と実習を体験しましたが、このような専門的な体験は、大学との連携ならではの得難いアクティビティです。そして、ここでも、「体験」が極めて重要であることに、参加した生徒や引率教員は気づいて、興奮して帰ってくるわけです。

伊藤先生:そこですね。今までも「体験」は大切にしてきました。しかし、様々な行事の「体験」をつなげてきたかというとそうではないし、「体験」を授業にどう持ち込むかは未知数でした。

しかし、先ほどもお話したICT研究校として活動してきた過程で、授業に「体験」を擬似的に再現できることは可能ではないかと考えているところです。

Twitter icon
Facebook icon