一般財団法人日本私学教育研究所は、全国の私学の教師対象に、研修を行い、教育研究を行っている。研修は全国各所で行われるため、所長中川武夫先生は、そのたびに全国を飛び回る。
そして、各地の私立学校の先生方との対話を通して、私立学校の原点が突破口を見出す「なんとかする力」であると改めて確信したという。
中川先生:首都圏の私立学校の動向をみていると、どうしても生徒を集めるために、どういう新しい生徒募集をするか、大学合格実績を出すかということが目的になっている。そういう意味では金太郎飴になってしまう危険性がある。生徒募集のための創意工夫をしてはいけないとか、大学合格実績をだしてはいけないなどということをいっているわけではない。
私が埼玉県の私立学校にかかわっていたとき、今と違って、世間の公立学校と私立学校の評価に信じられないような差があった。また、埼玉と東京の私立学校に対するブランド意識の違いもかなりのものだった。
つまり、埼玉県のいわゆる出来る生徒とというのは、まずは東京の私立学校を受験をし、次に出来る生徒が公立高校を受験し、その次が埼玉県の私立学校を受験するという、今考えればとんでもない序列があった。
そのとき、私たちが考えたことは、目の前の生徒のことだ。そのような序列意識で心を痛める生徒のことをなんとかしようと思った。その結果大学合格実績もだしたし、東京の私立学校に行かなくても、埼玉の私立学校に通って、誇りをもてる教育をなんとかしようとした。その創意工夫が、自然と各学校の独自性を際立たせてきた。
ところが、今のように、安定してきて、生徒1人ひとりの進路を一緒に考え、そのためにどうするか考えるよりも、どんな新しい生徒募集方法があるのか、大学合格実績を出すにはどうするのかが目的になってしまうと、結局はどこも同じ教育を行うような金太郎飴になってしまう。そんなことを心配している時、地方で行われる研修で出会った先生方の話を聞いて、改めて私学の原点に立ち返ることの重要性を強く感じるようになった。
過疎化した地方にも私立学校はある。保護者が納める費用は月30,000円いかない学校もある。ICTだ海外留学だとか、首都圏の学校のように簡単には実践できない。そんな中で、生徒1人ひとりに向き合って創意工夫しているし、どんな創意工夫ができるのか貪欲。だから、昨今研修を開催すると、すぐに定員が一杯になってしまう。限られた条件、閉塞状況の中で、突破口を見出す「なんとかする力」を発揮している。
この「なんとかする力」こそ、私立学校の原点で、そのような学校で学ぶ生徒も、これからやってくる未知なる世界に1人立たされたとき、「なんんとかする人材」に育っていくのだと思う。
英語が使え、ICTを駆使できることももちろん重要であるが、それだけだと金太郎飴になってしまう。グローバル人材の大きな特徴の一つとして、多様性というのがあるが、金太郎飴の教育は、それに反するものである。まず「なんとかする力」を内面にしっかりもった人材を育成することこそ、このグローバル時代にあって、必要なのではないだろうか。