工学院 教師はリスクテイカー(1)

来春中1からハイブリッドインタークラスを実施する工学院大学附属中学校・高等学校。その準備は着々と進んでいる。グローバル教育、イノベーション教育、リベラルアーツを有機的にリンクさせたカリキュラムイノベーションを行っている真っ只中である。

英語科の加藤先生も中心的な推進者の1人で、デジタル教科書と電子黒板を使いながらPBL(プロジェクト型学習)を行うときはマイクロソフトのノートパソコンを使い、デジタル教科書を使いながらPIL(ピアインストラクション講義)を行うときは、iPadを駆使し、来春からのハイブリッドインタークラス開設や2018年に挑戦する国際バカロレアのディプロマの準備を進めている。by 本間勇人:私立学校研究家

(中3の分割授業は、PBLスタイルで行われた)

授業の最初の部分で、加藤先生は、デジタル教科書を自在に使いながら、≪something that~≫の使い方を学ぶ英文テキストのリスニングやシャドウィングを行った。英文をそのまま映し出している段階から、少しずつマスクをかける面積を多くしてシャドウィングを行うなど、創意工夫がなされていた。

このデジタル教科書は、もちろん文法的な英語の構造を使えるようにするトレーニングとして活用されていたが、実は、同時に生徒の声がだんだんはっきりと大きくなってゆき、英語の世界に心を開いていく準備になっている。この準備があるからこそ、次に行われるグループワークで、メンバーが一丸となってPBLに取り組めるのである。

グループワークで取り組むテーマは、ライトや時計など4つのものをそれぞれ、≪something that ~≫を使って説明する英文を作成することである。できあがったグループから、解答をホワイトボードに書き込んでいく。

一見何気ないPBLスタイルの授業であるが、実はこれこそPBLの真髄なのである。というのも、たとえば生徒たちは、ライトを部屋を照らすものというアイデアを英文にするのだが、そのとき「照らす」という単語の選択が多様に出てくる。

つまり、多くの解答がでてくるのである。一般に教師は授業の中で、多様な解答がでてくるシーンを好まない。もし自分が解決できなかったらどうしようというストレスがかかると言われている。

したがって、解答が1つしかでてこないように一方通行型の講義をしてきたのだ。しかし、それが生徒の思考停止を招き、記憶の作業に偏ってきたのは言うまでもない。

ところが、グローバルというダイバーシティの時代、想定外の出来事が起こるわけだから、逃げずにリスクテイクすることが求めらるようになった。

加藤先生は、生徒にリスクテイカーになる学習者像を求めるのなら、教師もリスクテイカーになる覚悟が必要だと。その覚悟とは、徹底した授業準備である。英文作成の指導をするときに、文法的な多様性を説明できるように準備しなければならない。しかし、これは構造的なルールがある程度決まっているから教えやすい。

何より難しいのは、どの単語を選択するか、その妥当性を生徒と一緒に考えるシーン。英語の辞書は、意味論的な示唆は示すから、この同じ意味でも使い方が違うセンスまでの情報はあまりない。

したがって、このような単語の選択を判断する機会をあえて作るというのは、リスクテイカーと言うしかないだろう。

つまり、ICTを活用して創意工夫ができるようになればなるほど、生徒との言葉の探究は広く深くなっていく。国際バカロレアでは、このような学習者の姿勢をリスクテイカーと呼び、推奨しているが、加藤先生のPBLスタイルの授業こそ、まさにリスクテイカ―の教師として使命を果たしているといえるのではないか。

もちろん、授業は楽しくなくてはならないという加藤先生である。生徒が夢中になって英文を作成するチャンスもマインドセットする。それは生徒に人気のある同僚の教師のキャラクター分析を英文ですること。

これがどんなに盛り上がるか想像に難くないだろう。今回のテーマの関係代名詞もきんと使って英文をつくる。楽しみながら、目標もクリアする。

ところで、このPBLによるオープンマインドの状況作りの本当のもう一つのねらいは何かというと、クリティカルシンキングを共有することである。もしかしたら間違っているかもしれないという行動を妨げる壁を砕き、どんどん自分の英文を発表し、クラス全員でその間違いを訂正していく。そこになんの抵抗感もない。むしろ「アッ、そっか」と気づきの声でクラスは満たされるのだ。

それはクリティカルシンキングが共有されているシーンでもあるといえよう。

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