聖パウロ学園 パウロの森でアクティブラーニング

11月25日、時雨降る中、パウロの森で、高2のパウロネイチャープログラム(以降「PNP」)が実施された。文科省は、先月から大学入試改革一体型のグローバル学習指導要領改定作業を本格的にスタートし、授業の中にアクティブラーニングを活用することについても触れている。

聖パウロ学園は、キャンパス内にあるパウロの森でPNPを以前から行ってきた。このプログラムの手法は、まさにアクティブラーニングそのもの。PNPの1シーンを取材した。by 本間勇人:私立学校研究家

PNPは、「森林インストラクター東京会」の方々の協力によって定期的に行われるプログラム。森林インストラクターは、農林水産省が認定する資格。かつて日本の森林は、里山をつくってきた人々によって、守られてきたが、農林水産業に従事する人口が減ってしまったために、今では、森林インストラクターが各地の山林に定期的に入って、森の豊かさを守っている。

間伐、草刈、放置されてきた家屋の修復、山道の整備、台風のあとの修復など、森を守る作業は実に奥深い。草木や昆虫、そして野鳥や動物などの生態系は、実は人間も協力して持続していく必要があるが、自然環境を守ろうという授業が行われているにもかかわらず、実際に森の恵みを生徒が実感するような体験はまだまだ少ない。

幸い聖パウロ学園は、教室を一歩出ると、そこには壮大なパウロの森が広がっている。しかし、奥深い山は、ディズニーの童話のようにファンタジー一色ではない。台風で大きな木の枝が木々に引っかかり、それが落ちてくるところに居合わせたら、とても危険である。

美しい声で鳴く野鳥やひょうきんなタヌキに出くわすこともあるが、イノシシに遭遇するとそれはそれでたいへんだ。そこで、定期的にパウロの森を守るために訪れているプロフェッショナルな森林インストラクターの協力が重要になってくるのだ。

今回、キノコご飯や豚汁を作るプログラムだが、ふだんスイッチを押すだけでできてしまう現代人の生活とは違って、午前中いっぱい2時間以上もかかってやっとできる料理の体験。

森林インストラクターのコーチのもと、チームごとに協力してやっとできる。もしこれを1人で行おうとしたらどうだろう。

実は前回のPNPでは、伐採や間伐の体験をしていたという。そのときに切り落としたりすでに落ちている枝などを拾っておいたわけだが、それを使って火をおこす。バイオマスの自然循環は、こうして時間をけけて行っていく。今回はそれを活用する体験。集めた枝を火が付きやすいように鉈でマキのサイズにしていく。一人で行っていたら、火を起こす前に途方に暮れていたことだろう。

火をおこす仲間がいる一方で、料理をしたり、道具を洗ったりする仲間もいる。料理をするという行為は、自然の恵みから生産するという産業の過程にも相当する。分業というのが、豊かな森の恵みを分かち合う素晴らしい行為であたっが、近代はテクノロジーで、自然と産業の循環を断絶させた。

そのことを実感すとともに、それを修復するのが森林インストラクターの存在そのものであることなど、気づきの多いアクティブラーニングとなっていた。

森林インストラクターの方はこう語る。

「今日のような小雨の中で、料理をするのも大切な体験ですね。雨という事態でも、できるだけ、この森にあるものだけで、火をおこしたり料理ができるという体験を通して、自然と人間の直接的なつなり、そして仲間というのが社会づくりの原点だということに気づいてくれるきっかけになればと思っています。

わたしたちは、技術の進歩に慣れすぎていますから、災害が起きたときにはじめてその根源的な生き方に気づくわけですが、それでは遅いということは、ここ数年の自然の猛威の経験で私たちは学んでいるはずです。」

仲間と苦労して、しかし時間も忘れてつくった料理を、仲間と食べる。その時の表情は最高である。

アクティブラーニングは、リサーチ→チームワークと議論→気づき→レポート→プレゼンという展開をするのが一般的であるが、このPNPはまさにそのような展開そのもの。しかも、その中で最も重要なのは、リサーチの段階で体験ができることなのだ。

言うまでもなく、このパウロの森ででの体験こそ強烈だ。そして森林インストラクターというチューターと仲間が協力して、どうやたっら火がつくのか、持続するのか、キノコご飯の作り方はどうするのか等々、ワイワイガヤガヤ議論しながらつくっていく。そして、「おいしい!」と言いながら食べることは、プレゼンテーションに相当する。

強烈な体験と言えば、今回のPNPを体験した高2生は、2週間前にイタリア修学旅行から帰国したばかりである。このイタリア修学旅行も、ツアー期間だけではなく、それ以前からリサーチし、プレゼンして、イタリアの歴史、都市、芸術、政治経済などについて学び合うアクティブラーニングの手法がとられている。

高2生によると、

「聖パウロ学園は、他校では体験できないようなプログラムが多いんです。このPNPもそうですね。自分の学園にこんな広大な自然森林をもっいて、しかも授業で使うなんて学校は他にないのではないですか。

それにイタリア修学旅行もそうですね。世界の近代のはじまりルネサンスを教科書で勉強することはできても、実際に体験できる学校はそうないでしょう。それに、システィーナ大聖堂なんて貸切状態ですよ。うちの校長がどんな力をもっているかは謎ですけれど、とにかく感動しました。」

と熱く語ってくれた。

そしてさらに、パウロの森には乗馬場まである。乗馬部があるからでるが、実は授業で全員乗馬の体験もするという。馬という動物は実に繊細で、コミュニケーションをとることの難しさと通じ合っときの心地よそは絶妙なバランスだと聞き及ぶ。

自然と人間、人間と社会、社会と歴史、歴史と芸術、芸術と都市・・・といった世界の循環を体験し、体験をやり抜くからこそ自信をもてる。だから、聖パウロ学園の生徒たちは、人類愛への使命を胸に抱ける本物のグローバル市民へと成長していくのだろう。

(パウロの森の入り口に聖母マリアが世界を見守るようにそっと立っている。)

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