富士見丘 中1のアクティブ・ラーニング × ICT

文部科学省の指揮の下、アクティブ・ラーニングとICTが本格的に教育現場に導入されようとしています。5年後の大学入試改革と「生徒1人1台タブレト端末」を目標に、多くの学校が「教育改革」に本腰を入れて取りくんでいます。しかし、子供達の未来が明るくなる兆しがみえる一方で、そのための困難もまた多く見受けられます。実際、現場の先生方は「アクティブ・ラーニング」という新しい指導法に加え、不慣れなICT機器を使いこなさなければならず、その負担は無視できるものではありません。
 
いかに負担を少なくスムーズに、それでいて効果的なアクティブ・ラーニングとICTを浸透させていくかが「教育改革の鍵」といってもいいでしょう。今回はその好事例として、今年SGH(スーパーグローバルハイスクール)指定校に選ばれた富士見丘学園(以下、富士見丘)の取り組みをご紹介したいと思います。(ICTアドバイザー 福原将之)
 
 
 
以前、ご紹介したように、冨士見丘ではアクティブ・ラーニング型のLHRを中学一年生対象に月1回のペースで実施しています。今回ご紹介するのは、10月に実施された第5回のLHRです。アクティブ・ラーニング型の授業の質を左右するポイントとして、最初にテーマの選定が挙げられます。いかに「質の良い問いかけ(テーマ)」を投げかけられるかどうかで、生徒達の学びと気づきの深さが決まるからです。今回、冨士見丘の先生方が選ばれたテーマは「ロボットの未来」でした。このテーマの背景には、ご存知のとおり「人工知能三原則」「2045年問題」「ドローン問題」「ロボットの軍事利用」などが広がっています。
 
しかし実際の授業では、このような背景については一切生徒達に説明しません。なぜなら、このような背景が生まれた人類史の展開こそが、アクティブ・ラーニングを通して生徒達に体験してほしい本質だからです。能動的な学びに必要なものは2つ、テーマに関する「生きた情報」と「動機付け」です。スマートフォンを片手に、Apple TVを活用した大島先生のプレゼンテーションは、生徒達をロボットの世界に引き込んでいきます。
 
 
次に生徒達は、iPadを使ってロボットに関する様々な「生きた情報」を吸収していきます。ここでインプットさせる情報の質によって、この後のグループワークの深みが変わっていきます。富士見丘では、「ひとりひとりの気づきをグループでシェア」するボトムアップ型のアクティブ・ラーニングを採用しているため、特にこの「インプットさせる情報の質」には気を使われています。
 
 
そして、学びと気づきをシェアするグループワークに移ります。発想をポストイットに書き出し(思考の発散)、ポストイットをカテゴリー毎に並び替え(思考の整理)、そのカテゴリーにインデックスをつけていきます(思考の収束)。このクリエイティブな思考プロセス「発散→整理→収束」を、富士見丘では反復してトレーニングしてきました。まだ中学一年である生徒達も、馴れた手つきでポストイットにアイディアを書き、友達とシェアし、意見の違いに驚き、時に笑いながら「グループとしての意見」をまとめていました。
 
この段階のグループワークにおいて、iPadなどのICT機器を一切使っていない点もポイントのひとつです。実際、ビジネスの現場においても、クリエイティブな思考プロセスの補助には、ICTよりも紙ベースの方が好まれる傾向にあります。(私自身、創造的思考をする際はカラーペンやポストイットなどを愛用しています。)タブレットを導入したからといって、無理にすべてのプロセスで使用する必要はないのです。「ICTに使われる」のではなく、適材適所に活用していくことが「ICTの力」を最大限に発揮するポイントなのです。
 
 
グループワークの後は、いよいよ全体でのプレゼンテーションです。45分という限られた授業時間の中にプレゼンテーションを組みこむためには、やはりICTの力が必要不可欠でしょう。プレゼンテーション用の資料は、iPadのカメラ機能と専用のアプリを使って1分足らずで作成できます。前方のスクリーンへの投映は、Apple TVのAirPlayミラーリング機能を使って、iPadからボタンひとつで切り替え可能です。複雑な配線作業はもちろん、難しい設定も不要ですので、生徒達だけで簡単にプレゼンテーションの準備を行うことができるのです。
 
iPadを使ったプレゼンテーションでは、グループの代表が自分たちの意見や発見について説明をしていきます。生徒達のプレゼンテーション技術を鍛えながら、他のグループの意見を聞くことで「新たな問いの発見」を促すことが目的です。あるグループでは「ロボットに愛情をもたせたらどうか」という発想から、ロボットの行動原則・価値観・倫理観のあり方、そして「人工知能三原則」に近い発想にまで議論が及んでおり、富士見丘の先生方も驚いていました。
 
 
最後は、アクティブ・ラーニングの最重要プロセスである「リフレクション(振り返り)」を行って終わります。富士見丘のアクティブ・ラーニングでは、50の質問からなるオリジナルのルーブリックを用いて毎回リフレクションを行っています。詳細は非公開なのですが、このルーブリックこそが富士見丘アクティブ・ラーニングの要といっても過言ではありません。21世紀型スキルを鑑みて作られた質問項目はもちろん、生徒たちの回答を集計・分析し、それを授業内容に反映させていく先生方の創意工夫。生徒たちも継続して同じルーブリックに回答するため、冷静に自分自身の成長を捉えられるようになります。
 
 
しかし現実問題、リフレクションを毎回授業で行うのは、先生方の負担が大きいでしょう。授業時間が短くなることに加え、リフレクション・カードを作成する手間や、生徒達の回答を集計・分析するコストを考えると、リフレクションを実施するのは本当に大変です。実は21会では、この問題を「ICTの力」を使って解決すべくリフレクション・システムの開発を進めています。リフレクション・システムの詳細については、富士見丘のLHRに導入されるタイミングでご紹介させて頂きます。富士見丘のアクティブ・ラーニング×ICTは、これからも進化し続けるのです。
 
 
 
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