夏休み最後の日曜日、静岡聖光学院で21世紀型教育機構のシンポジウムが開かれました。静岡に初めて21世紀型教育を掲げる学校が現れたということで、この日は静岡テレビもテレビカメラを携えて取材、地元の注目の高さを物語っていました。聖学院の先生方による出張思考力セミナーには意欲ある小学生が大勢参加し、創造的思考力を刺激する授業を体験。講座を終えた後には父母会会場のパネルディスカッションにも熱心に耳を傾け、静岡聖光学院への入学後に待っている21世紀型の学びや4技能英語について期待に胸をふくらませていました。 by 海外帰国生教育研究家 鈴木裕之
静岡聖光学院が21世紀型教育を採り入れ、シンポジウムを自校で開催したのは、劇的に変化するこれからの時代を見据えてのことです。世界が変わっていくのに学校教育が従来型でよいはずがないという強い思いはシンポジウムが開催されて間もなくホームページにアップされた記事から窺い知ることができます。
静岡聖光では大勢の先生方がこのシンポジウムに参加、思考力講座に出席した小学生のサポートも行いました。さらに、シンポジウム後2週間ほどで、先生方の知恵と経験を結集し、日々の教育活動を振り返る羅針盤とも言える学校独自の思考コードを完成させたのです。
9月3日のシンポジウム第1部は、静岡聖光学院校長の岡村壽夫先生による「未来を創る自由人」と題された基調講演で始まりました。グローバルに活躍する時代だからこそアイデンティティ形成の場が大切になること、また、聖書の中に出てくるタラントの話を引用しながら、一人一人の異なる才能を伸ばしていくことに人間らしい自由の基盤があることをお話されました。
21世紀型教育機構の理事で、工学院附属中高の校長である平方邦行先生は、2020年大学入試改革がただ日本国内のローカルな問題として出てきているのではなく、グローバル社会への対応という側面から出てきた必然的な流れであることを説明しました。世界7都市で寮生活を送りながらオンラインでディスカッション授業を行うミネルバ大学や、人工知能などのテクノロジーを駆使したブレンディドラーニングを紹介し、日本の私学教育もグローバル高大接続教育への転換点にあるという意識を共有しました。
静岡聖光副校長の星野明宏先生は、ビジネスマン時代の自らの経験をもとに、正しい答えがあることを前提にした教育だけでは社会に出てから必要となる力に対応できないという現実から問題提起を始めました。生徒自らがゴール設定をしつつ、必ずしも正解が一つとは限らない問題に取り組んでいくPBL型の学力が今後ますます求められていくことを強調しました。また、英語力においては、自分の考えを臆せずに発していくスピーキング力が重要になることに触れ、静岡聖光のイノベーティブな教育プログラムを具体的事例としてお話されました。
第2部では、まず首都圏模試センター取締役教務情報部長の北一成氏が中学入試の潮流について講演。思考力入試やプレゼンテーション入試、英語入試といった新しい入試が今なぜ拡がっているのかについて詳細な分析を行いました。大学入試改革や若い保護者の意識の変化に触れながら、未来の社会に対応する学校選択の必要性を訴えました。
続いて聖学院の21世紀教育部長である児浦良裕先生は、「思考力入試」を通して目指している教育が、課題解決に向けて探究する姿勢を重視しているということを説明されました。学習者の探究プロセスを評価するために、思考コード(聖学院では「メタ・ルーブリック」と呼ぶ)を作成し、生徒一人一人の成長曲線の違いまで考慮しているとのことでした。終始聖学院の実践例が挙げられていて、会場の保護者も話に引き込まれていました。
パネルディスカッションは、「4技能英語と新思考力」をテーマに、平方先生、北部長、児浦先生、それに、聖学院の高等部長伊藤豊先生の4名で行われました。日本で従来行われてきた英語教育の問題提起から始まり、グローバル化社会で必要となる英語力、またAI社会をサバイバルする創造的思考力をめぐって、各先生の意見が語られました。最初は保護者向けのトークでしたが、思考力セミナーから戻って来た小学生の姿が会場に多く見受けられたこともあり、先生の方のトークも徐々にヒートアップ。これから中高生になる子どもたちへのエールとも言える熱いメッセージとなっていました。
保護者会と同時に行われていた思考力セミナーは、聖学院数学科主任の本橋真紀子先生を中心に、静岡聖光学院の先生方と在校生が協力して運営しました。シンポジウムに出席していて思考力セミナーを見ることができなかった親御さんや聴衆に対して、首都圏模試取締役統括マネージャーの山下一氏から、思考力セミナー会場の様子報告があり、子どもたちが創造的思考を使うことを楽しんでいる様子が伝えられました。
冒頭に書いたように、静岡初の21世紀型教育校の誕生は大きな反響がありました。子どもたちにファーストペンギンになることの価値を説いている大人の側がそれを実践していくことに意義があるのだと感じます。静岡聖光学院は2018年度入試でも大いなる注目の的となることでしょう。